鬱展開が嫌だと言ったら命を司る存在になったので、とりあえず燃やしてみる
命を司る神の鳥になったので、聖女を取り巻く闇を燃やしてみた件
きっと誰かが待っていてくれたと思いたいシリーズ短編。
どうぞお楽しみください。
「聖女様! どうか私の病を治してください!」
「大丈夫です。森に降る雨が木の大小に関わらず降り注ぐように、神の慈愛は分け隔てなく降り注ぐのです」
聖女と呼ばれた女はそう言うと、目の前の男に手をかざす。
そこに光が生まれ、男へと吸い込まれていった。
「……おぉ、おお! 痛みが消えました! ありがとうございます!」
「今後はどうぞ身を労わってくださいね。では次の方」
「私は足がどうにも痛んで……」
「大丈夫です。きっとまた元気に歩けるようになりますよ」
そうして聖女は町の広場の中心で、次々と人に癒しの光を与えていく。
旅のテイマーである幼いカドリーは、その様子をキラキラした目で眺めていた。
「すっごいねぇラヴァ! ヒーラーの中でもあんなに早く怪我や病気を治しちゃう人、見た事ないよ!」
『そうだな』
だが生まれながらに高い魔力を宿していても、癒しの光に高い適性があったとしても、人間の身には限界がある。
その証拠に、聖女はその溢れ出る魔力と対照的に、その身体は疲労しきっていた。
言うなれば、無限に水を出せるポンプで火を消す消防士のようなものだ。
いかに水が潤沢でも、いや潤沢だからこそ休みなく放水を強いられる。
それを支える身体が悲鳴を上げるのは当然だろう。
「でもまだ治してほしい人があんなにいるんじゃ、聖女様も疲れちゃうよね……。僕に何かお手伝いできる事ないかなぁ……。おいしいご飯買ってくるとか……」
聖女の前に並ぶ列を見て、そう呟くカドリー。
カドリーはあくまで駆け出しのテイマーだ。
ヒーラーのように、遠くから見るだけで体調の良し悪しを判断できはしない。
実際の聖女の体調の乱れに気付いた訳ではないのだろう。
ただ素直に聖女を一人の人間と見ているから、心からの心配ができるのだ。
自分の苦しみで手一杯になり、特別な存在に救われる事を願うしかできなくなっている者達には、気付けるはずもない。
『何とかしてやりたいか』
「うん、でも……」
カドリーの目に躊躇が浮かぶ。
神の鳥に転生し、命を司る存在である俺に対しても、今聖女に向けているのと同様の心配を向けてくれるのだ。
そんなカドリーだからこそ、俺はその願いに応えたくなる。
『なら燃やそう』
「えっ、あ! ラヴァ!」
カドリーの肩から飛び立った俺は、一度空高く舞い上がると、聖女の前に並ぶ人の列に黄色い炎を放った。
「わぁ! 何だ!?」
「燃えてる! 熱っ、熱っ、あつ、くない……!?」
「……それどころか、痛みがなくなってる……!?」
「苦しいのも完全に消えた……!」
「み、皆さん、治ったのですか……? どうして……? でも良かった……」
町の人間の様子を見て、聖女が深々と息を吐く。
それは安堵と同時に、深い疲労から出たものだ。
いつもならカドリーの手柄にするところだが、ここは……。
「うおおおお! 力がみなぎるぜー!」
「しかも何だこれ!? 手のひらに集中すると、聖女様みたいな癒しの光が……!」
「すげぇ! これなら俺達が周りの村の連中も治して回れるって事じゃないか!?」
「流石は聖女様だ! 俺達を治すだけじゃなくて、人を癒す力を分けてくださるなんて!」
「えぇっ!? ……た、確かに皆さんから癒しの力が溢れていますが……、私は何も……、えぇ……?」
戸惑う聖女に、癒しの力を得た町の人間が力強い笑みを浮かべる。
「確か聖女様は、今日中にこの町を発って、隣の村に行くって仰っていましたよね?」
「え、えぇ、そちらにも病気の方がいらっしゃると聞きましたので……」
「そっちには俺達が行きます!」
「で、でも……」
「私達にこんな力を与えてくださったんですから、聖女様もお疲れでしょう? 今日はゆっくり休んでいってくださいな!」
「ですが私は……」
「すっげぇ力が湧き上がって来るぞ! この力で人を治せると思うと、オラワクワクすっぞ!」
「別に、アレを治してしまっても構わんのだろう?」
「俺が! 俺達が! 聖女様だ!」
「身体が軽い……! もう何も怖くない……!」
「こんな元気な町にいられるか! 俺は隣の村に行かせてもらうぜ!」
「……」
町の人間の力強い言葉に、聖女は大きな息と共に肩の力を抜いた。
「では、お言葉に甘えて休ませていただきます。きっとこれも神様の思し召しでしょう」
「是非そうしてください!」
「おい! 一番良い宿を頼む!」
「え、あの、私は普通の宿で大丈夫ですから、その」
「大丈夫だ! 問題ない!」
「あいつに任せて大丈夫か?」
「あいつは話を聞かないからな」
「えっ、あの、でも……」
「神様は言っている、ここで終わるもてなしではないと……」
「まぁ……」
戸惑いながらも笑顔を浮かべる聖女を囲んで、盛り上がる町の人間。
それを確認した俺は、旋回してカドリーの肩へと戻る。
「お帰りラヴァ! でもあんなにたくさんの人に力を分けて大丈夫!?」
『あぁ。何の問題もない』
「それならいいけど……。無理しないでね? みんなを助けたいけど、ラヴァが辛くなるのは嫌だからね?」
『あぁ』
俺はかつて人間だった。
鬱展開が嫌いで、そこが意気投合した神様から『命を司る炎を操る神の鳥』へと転生させてもらった。
そして仲間から囮にされ、死にかけていた幼いテイマー・カドリーと出会い、その使役獣となった。
過酷な生い立ちを持つカドリーだが、その心根は純粋で真っ直ぐだ。
だからこそ俺は、その心に寄り添いたくなる。
「お! そこにいるのは旅の人かい? どこか具合が悪いところはないかい? 今ならこの俺が君を癒して上げるぜぃ!?」
「あ、えっと、ありがとうございます! 大丈夫です!」
満面の笑みの男にそう言われ、カドリーは嬉しそうにそう答えた。
この町も、きっとカドリーの良い思い出になるだろうな。
読了ありがとうございます。
例えば聖女一人の犠牲と引き換えに大勢が救えるとして俺はみんなが名乗り出るため燃やしてくだけの神の鳥
メロディが浮かんだ人!
僕と握手!
そしてどうか内密に(笑)!
ちなみに町の人から死亡フラグが雨後筍していたように見えたかもしれませんが、ラヴァが全部燃やしますのでご安心ください。
お楽しみいただけましたら幸いです。