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13話 グッバイ追跡者 5

「村の成人男性たちは、夜になると静かに動き出す。

 彼らは顔を黒く塗り隠し、一切言葉を発さず、ひとりひとりが村外れの山へと向かう。

 深い山の中で行われる儀式は、土地神に仕えるためのものだが、その内容は外部の者に知られることはない。

 誰が儀式に参加しているのかさえも、村人たちは決して語らない。

 儀式に参加した者たちは、何かを背負い、何かを得ると言われている。


 その夜、彼らが戻ってくると、目には異様な光が宿っている。

 まるで、その光が村の深淵に繋がる扉を開ける鍵となるかのように。

 その光は、彼らが「何か」を得た証であり、取り憑かれた証拠でもある。

 村の人々は、その光を決して口にしないが、誰もがその異様さを感じている。」


 ☆☆☆


「一方で、村ではもう一つの重要な儀式が行われている。

 死者との契約を重視するこの村では、定期的に村の墓地で儀式が執り行われる。

 夜になると、村人たちは墓地に集まり、故人の俗名を一人ずつ呼び上げるのだ。

 俗名を呼び上げられた死者たちの霊は、静かに現れ、契約の再確認を求める。

 その瞬間、儀式に参加した者は、何かを伝えられるという。」


 以上は上原のブログを要約した内容になる。

 ちなみに俗名とは故人の生前の名前である。

 つまり、亡くなった家族ではなく、生者として呼びかけていることになりはしないか?

 

 いや、考えすぎだ。

 墓参りして生前の名前で呼ぶなんて当たり前ではないか。

 祖父母や両親、兄弟姉妹を戒名で呼ぶ方がどうかしている。

 そう。どうかしているぞ。


 ☆☆☆


「村の暗闇の中で、死者の霊と生者が交わす無言の契約は、村の繁栄を支える重要な要素だ。

 村の人々は、霊との契約を忠実に守り、亡者たちの声に耳を傾け続けているという。

 どちらの儀式も、村にとって欠かせない存在であり、村の秘密を守るための重要な役割を果たしていた。」と上原のブログは結ばれていた。



 ☆☆☆


 夜の帳が降りると同時に、鏡山村に祭り囃子が鳴り響き始めた。

 太鼓の音が遠くから響き、笛の音色が静かな夜空に吸い込まれるように流れていく。

 しかし、どこか物悲しさを含んだその音色は、通常の賑やかな祭りのそれとは違っていた。


 祭りの中心には、黒く塗られた顔の男たちが無言で集まり、山へと向かっていく。

 上原のブログの通りだ。

 まあ、地方の祭りでは土地神を祀るため、その姿を似せることが多い。

 他の地域から来た人間からしてみれば、少し異様に映るのは仕方がない。


 彼らの表情は見えないが、その背中からは緊張感と厳かな雰囲気が漂っている。

 村の守護者に仕えるための儀式が、山の中で静かに行われようとしていた。


 ☆☆☆


 一方で、村の他の家族たちは、提灯を手に墓地へと足を運んでいく。

 彼らは、先祖の霊と交信するために墓前で儀式を行うのだという。

 その光景を目にし、上原雄介のブログが頭をよぎる。

 「死が終わりではなく、人生の分岐点」と彼は書いていた。

 まさに、この村の祭りは、彼の言葉通りのものだ。

 生と死が曖昧に交錯し、先祖との繋がりが重視されている。


 ☆☆☆


 ある程度、見るべきものは見た。

 後は経過を見て、これからのことを考えようと思い、神社の境内へ向かった。

 先にサダコが行っているはずなんだが、彼女は大丈夫だろうか。


 境内に着いてみると、僕はすっかり拍子抜けしてしまった。

 祭りとは名ばかりで、出店は申し訳程度に並んでいるだけ。

 焼きそばやたこ焼きの匂いがかすかに漂うが、店主たちの顔にも活気はなく、物静かだ。

 いや、静かすぎる。売り子に笑顔のひとつもない。なんなのだ、これは。


 目の前で行われているのは盆踊りだが、踊っているのは子供たちばかり。

 彼らの笑顔や無邪気な動きが、かえってこの夜の不気味さを余計に際立たせていた。


 ☆☆☆


 大人たちはその場から距離を置き、誰も彼らの踊りを見ようとはしない。

 暗闇の中で、子供たちの無垢な踊りと祭り囃子が不気味なほど対照的に響き渡る。


 異様な雰囲気に呑まれ、僕は思わず足を止めた。

 山に向かう男たち、墓へと進む家族たち、そして子供だけが踊る盆踊り――すべてが不気味に絡み合い、何とも言えない圧迫感が僕の胸を締め付ける。


「まずい。まずいぞ。これは……ここまで異様だとは……」


 耳にこびりつくような祭り囃子と、どこか現実離れした光景に、僕は言いようのない恐怖と戸惑いを感じていた。


 ☆☆☆


 僕は急いでサダコを捜す。

 誘ったわけではないが、結果的に彼女を巻き込む形になってしまった。

 ともかく、彼女だけでも逃がさねば。


 そんな僕の耳に、聞き慣れた大笑いが聞えてきた。

 サダコが子供たちと一緒になって、信じられないほど大はしゃぎしていた。


 出店で次々とお土産や食べ物を物色し、盆踊りの輪にも加わろうと、子供たちに笑顔を振りまいている。

 顔の黒い男たちや、ひそひそ話をする大人たちなど気にする様子もなく、この異様な空間をまるで普通の祭りと同じように楽しんでいる。


「嘘だろ――信じられない。こいつの感性は一体どうなってるんだ……?」


 僕は内心で呆れを通り越して感嘆すら覚えていた。

 サダコの無頓着さが、逆にこの空気を打ち破るような力を持っているかのようだった。


 僕がたじろぎ、圧倒されている間も、サダコは何の遠慮もなく村の異様な祭りを楽しんでいる。

 この温度差に、僕は一層この場が現実離れしているように感じた。

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