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12話 グッバイ追跡者 4

 鏡山村の神社は、山の深い緑に囲まれてひっそりと佇んでいた。

 古びた木造の社殿と石の鳥居は、時間の流れを感じさせるものの、手入れが行き届いており、決して荒れているわけではない。

 社務所の脇には、しっかりとした鳥居と、清らかな水が流れる手水舎があり、神社全体に穏やかな雰囲気が漂っていた。


 お参りを終えた後、僕は神社の境内で神職についての話を訊くために、社務所にいる若い宮司に声をかけた。

「すみません、以前この村から異界に行った人が神職に就いたという話を聞いたことがあるのですが、その件についてお話を伺うことはできますか?」


 宮司は穏やかな表情でうなずいたが、どこか神妙な面持ちで話を始めた。

「ああ。それは昔の話で、何代も前のことですね。異界から帰ってきたその人は、神職として村を守る役割を担っていたと伝えられています。ただ、詳細なことは今となっては分からないことが多いですね」


 話を聞きながらも、神社の周りの景色が不思議と気になった。

 村の雰囲気は意外にも貧しくはなく、むしろどこか豊かな印象を受けた。

 子供たちが社務所周辺で遊び、楽しそうに笑い合っている様子は、無邪気で平穏そのものだった。

 しかし、そうした明るさとは対照的に、村の大人たちは僕たちに対して不安な視線を送っているように見えた。


 彼らは遠巻きに僕らを見つめ、時折ひそひそと話を交わしている。

 その視線は決して友好的なものではなく、どこか警戒や不安を含んでいるようだった。

 僕が何か尋ねるたびに、彼らは瞬時に目を逸らし、まるで僕たちの存在が自分たちの平穏を乱すかのような反応を見せる。


 神社を出てすぐに、年老いた禰宜が静かに掃除をしている姿が見えた。

 彼の白髪は風に揺れ、細かな掃き掃除の音が響く中、手際よく落ち葉や小枝を取り除いていた。

 僕はその近くに立ち、軽く頭を下げながら「この度の祭りに参加させていただいてもよろしいでしょうか?」と訊ねた。


 禰宜は一瞬立ち止まり、僕の方をじっと見つめた。

 目の奥には、言葉にしきれないほどの歴史と謎を秘めた特有の光が宿っており、その視線にはどこか不気味な印象を与えた。

 歳月の重みがにじみ出ているその目には、僕の質問が単なる形式的なものでないことを直感的に感じ取っているようだった。


「はい、どうぞ。歓迎しますよ」と、穏やかな口調で答えながらも、その目には不安や警戒心がちらりと浮かんでいるようにも感じられた。

「祭りに参加することは、村の一員としての()ですから」


 その答えを聞いて、僕は少し安心したものの、禰宜の目の奥に潜む光がどこか不気味に感じられた。

 言葉では表現しきれない、深い暗闇のような感覚がそこにはあった。


 その間に、サダコは境内の一角で、村の子供たちと楽しそうに遊んでいた。

 彼女はその自由な振る舞いで、すぐに子供たちと打ち解け、笑顔を振りまきながら一緒に遊んでいた。


 子供たちは彼女の周りに集まり、賑やかに遊びながら、彼女の周囲に自然と輪を作っていた。

 サダコが手に持っている紙風船やおもちゃに夢中になった子供たちの笑い声が、神社の境内に響き渡っていた。


 その様子を見ていると、サダコの明るいエネルギーが村の子供たちに溶け込み、無邪気な笑顔が広がっていく様子が目に入る。

 しかし、村の大人たちが彼女の行動をどのように見ているかは、依然として不明であり、その視線の奥に潜む警戒心が、サダコの無邪気さと対照的に映し出されていた。


 神社の境内には、静けさと不穏さが交錯している中、サダコの笑顔と禰宜の目の奥の不気味な光が、村の深い謎を一層引き立てているように感じられた。

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