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太陽が傾き、空の色が変わり始めた頃、ジルは学院に着いた。生徒会室にはすでに、ジョルジェットとロビンが戻っていた。
「街で黒髪の男女が目撃されたとの情報が入った。二人は何かわかった?」
「エルザは今日一日、学院で見たって人はいなかったわ~。けれど、ハインリヒも今日は欠席だったのに、朝早く登校した生徒が珍しく慌てたような彼を見かけた、というお話がありましたわ~」
「うちの商会の店舗でも黒髪の男女が店の前を通ったことが確認されている。男はハインリヒだろう。女は長い黒髪の大人の女だったようだ」
「大人の女?」
ジルはエルザの本当の髪色が黒であることを知っていたため、街で目撃された黒髪の男女はハインリヒとエルザであると思っていた。
しかし、エルザは15歳にしては小柄で凹凸も少ない体型をしている。化粧を落として男物を着せれば、少年でも通るだろう。間違えても大人の女とは評されない。
明るい髪色の多いこの国で、黒い髪はとても目立つ。三人とも、身近にいる黒髪は、異国出身の母親譲りの髪色のハインリヒだけ。この国で黒髪の女性と言われて思い浮かぶのは。
「側妃様?」
ハインリヒの母親であり、国王の側妃、ロザリア様、その人だ。
王の隣に立つのは、この国の三大公爵家の一つ、インスタリオ公爵家から嫁いできた王妃。側妃は式も挙げずひっそりと輿入れし、表舞台に出ることはなかった。
ハインリヒと幼馴染であるジルも、幼い頃に一度か二度、彼に連れられて入った離宮で見かけたくらいで、きちんとした面識はない。
それでも覚えているのは、黒い髪に透けるような白い肌、紫水晶のような瞳を持つ、触れれば消えてしまいそうな、儚く美しい人だったということ。
黒い髪に紫の瞳のエルザと同じ色彩を持つ女性。
しかし、王宮の奥に彼女のために建てられた離宮から出ることはないと言われる彼女がどうして、息子であるハインリヒと二人、街に出て来ているのか?
「まだ街にいる可能性もある。行ってみるか?」
ロビンの言葉に頷き、ちょうど生徒会室に戻ってきたオリバーも合流して、四人は馬車で街へと向かった。
街に着くまでの馬車の中で、ロビンが詳しい目撃情報を話す。
「街はずれの古本屋、流行りのジェラート店にセントラル公園、最後に目撃証言を得られたのが屋台の串焼き屋だ。いずれも黒髪の男、または黒髪の男女が一緒にいたと証言が取れている」
「なんか、普通に……」
「街ブラ、満喫してますわね~」
ハインリヒが普段お忍びで街に下りる時は、目立たないよう地味な髪色のウィッグにメガネをかけて変装している。それをしていないということは、あえて第三王子という身分を明かしての行動と言えるだろう。
生徒会メンバーでレストラン『物語の向こう側』に行ったときのように、身分がバレても良い場合は変装はしていないこともあるが。
「え、もしかして公務なのか?エルザ、関係ない?」
ジルは、エルザがハインリヒと一緒にいると思い込んでいたが、もしかして違うかも?と焦り出す。
「オリバーはエルザの情報、何か掴めました~?」
「いえ、僕が探した先には、今日はエルザ来ていませんでした、でも……」
オリバーは何かを思い出そうとするかのように、顎に手を当てて考え込む。
「そういえば、豚串屋ではネギも一緒に焼いたものはないのか聞いていたそうだ」
「やっぱり!『七色の勇者』ツアーしてますよ」
パッと顔を輝かせたオリバーに、ジル、ジョルジェット、ロビンの三人は「は?」という顔をしてしまう。
「街はずれの古本屋さんて、専門書系が充実してるけど、小説はあんまり置いてなくて。その代わりに、たまに掘り出し物が低価格で潜んでたりするんです。大人気小説の初版とか。もしかして『七色の勇者』の初版を探しに行ったのかもしれません。『七色』の作者の趣味はジェラート屋巡りだし、小説の中で国の中央公園、てよく出てくるから、同じような名前のセントラル公園でジェラートを食べながらブラブラしたんだと思います。小説の中で公園の近くは屋台村になっていて、そこの豚ネギ串が絶品、て書いてて、たぶん公園ブラブラしているうちにそのことを思い出して、串焼き屋に行きたくなったんだと思います」
犯人は『七色の勇者』好きに決定です!とでも言いたげに、オリバーは人差し指を立てる。しかし、ハインリヒと一緒にいる相手が『七色の勇者』シリーズが好きなのだとすると、ますますエルザとしか思えなくなってくる。
「そして、最後は絶対に『物語の向こう側』で『赤い実はじけるジェラート』を食べます!」
以前、生徒会メンバーでも『七色の勇者』シリーズがランチメニューだった時に、全員で食べに行ったことがある。今は月も変わり、ランチメニューではなくなったが、『赤い実はじけるジェラート』は定番メニューのため、いつ行っても食べられる。
「すでに他のジェラート店でも食べているぞ。しかもミルクとラズベリーのダブルだったようだ」
ロビンは重々しく、その事実を語る。まだジェラートを食べるというのか。
「それでも、食べるんです」
もはや、オリバーの目は確信に満ちている。
生徒会一行を乗せた馬車は、『物語の向こう側』へと行き先を定めた。




