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ビジネスヒロイン部〜王子も無口もツンデレも、もちろん美貌のフェロモン公爵令息も、まとめてヒロイン引き受けます〜  作者: たまころ
第四章

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 翌日の昼休み、1-Aの教室からは女生徒の悲鳴が聞こえた。


 昼休みになり、ジルはエルザに会いにいつもの中庭のベンチに行ったが、姿が見えなかった。しばらく待ってみたが現れる気配がないため、彼女の教室まで足を運ぶことにする。


 普段は遠くから眺めるだけだった美貌の公爵令息がエルザを訪ねて一年生の教室にやってくると、免疫のない女子はふらりと倒れたり、足元から崩れて座り込んでしまったりと、大変な騒ぎとなった。

 エルザの噂を流した相手がいるかもしれないと思うと、普段は老若男女問わず親切なジルだが、今日ばかりはふらつく女生徒に手も貸さず、冷たい視線を向けるだけだ。

 しかし、その冷たい視線が普段の温厚な彼と違い、新たな心奉者を生んでいることには気づいていない。


 同じクラスのオリバーがジルに気が付き、声を掛ける。


「ジル様、どうしました?」


「オリバー、エルザは?中庭にいないんだけど」


「それが、来ていないんです」


 学院側から謹慎を言い渡されたのは昨日だけだと思っていたジルは、眉をしかめた。そのまま、理由を問いに職員室へと向かう。





 午後の授業の始まりを知らせる鐘が鳴っているが、ジルは気にしない。


「ジルくん、先生、午後の授業があるんだけど……」


 昨日エルザの聞き取り調査をした担任、学年主任、副学院長を前に、ジルはにっこり微笑んで、続きを促す。


「それで、エルザ・スカルチアの試験問題盗難事件の調査はどうなっているんですか?犯人は?」


 ジル・クリスターは気遣いの出来る生徒会長、という印象だったが、教師たちは、彼が公爵家嫡男であったことを思い出す。彼の立場では、思い通りにならないことなどほとんどない。普段それを振りかざさないのは、彼が賢いからだ。


「どうやら、決定的な目撃証言はなくて、話が誇張されて伝わって大きくなってしまったみたいなんだ」


「試験問題を盗まれた、という証拠も出て来ないし」


「それで、この事件は終わりにするおつもりですか?」


 微笑んでいるが、目が全然笑っていないジルに、教師たちの背に冷たい汗が流れる。


「噂話をした生徒に悪意があったかはわかりませんが、決定的な誹謗中傷をした証拠がなければ、罪には問えないでしょう」


 噂話をした生徒は把握できないほど大勢いて、全員を糾弾するわけにもいかない。


「そちらは厳重注意をしていただく必要があるかと思いますが、黒板に、エルザへの悪意ある言葉を意図的に書いた者がいるはずです。その者にはしかるべき処罰を求めます」


 副学院長は小さな声で「そちらは、まだ、調査中です……」と答えた。

 ジルから求められた以上、絶対に犯人を見つけ出し、処罰を与えなければいけない。そうしなければ、この美しい男は悪魔に変わるだろう、と職員室は震えあがった。


「エルザの謹慎はいつまで続けるおつもりですか?」


 溜飲を下げたジルが話題を変えると、教師たちはきょとんとする。


「彼女は昨日は早退してもらったけれど、今日は自分から『休みます』て連絡がありましたよ?」


 彼女は自ら登校を拒否するほどに傷ついていたのかと、ジルは大きなショックを受ける。

 一日でも早く、彼女が学院に来られるように、生徒会長としても尽力せねば、と拳を握った。





 二日後、二名の生徒が一か月の謹慎処分を受けることが発表された。

 1-Aの黒板にエルザの悪口を書いたのは、隣の1-Bの男子一人、女子一人だった。


 男子は惜しくもAクラスから落ちてしまった成績上位者で、特待生であるエルザを恨んでいた。彼女がいなければ自分がAクラスに入れたという思い込みから、エルザを蹴落とそうとしての行動であった。


 女子は、ジル・クリスター公爵令息へ歪んだ恋情を抱いていた。この世の人間とは思えないほど美しい彼を、天上人であるかのように思い込み、清らかな彼が生徒会室でエルザと性行為に及んだと噂を聞き、エルザに無理やりいかがわしい行為をされたと信じて復讐しようと考えたのであった。


 この二人が学院に通うことはもうなかった。貴族として信用を失った二人は学院を自主退学という形で去ることになったのだ。


 男子生徒は信用に欠く矮小な人物として、跡継ぎ教育に失敗したと判断され廃嫡となった。一人息子ではあったが、親戚筋より有望な養子をとることになったという。


 女子生徒は反省しておらず、今後も同様、いやそれ以上の罪を犯す可能性が考えられたため、厳しい戒律の修道院に入ることが決まったという。





 エルザが休んだ日の放課後、ジルは生徒会室へは向かわず、彼女の暮らす寮へと向かった。

 できれば、一目だけでも顔が見たい。それが無理なら、せめて甘い物でも、と学院のカフェで購入した焼き菓子を手に持っている。


 寮の正面玄関から中に入り、すぐ横の事務室の小窓をコンコンとノックすると、すでに顔見知りとなった管理人の女性が気づいて笑顔で迎えてくれた。


「こんにちは」


「こんにちは、クリスター公爵令息様。エルザちゃんでしたら……」


「少しだけでも話ができたら嬉しいんですけど、エルザが部屋から出て来られないようなら、このお菓子だけでも渡してもらえたらと」


 老齢に差し掛かった人の好さそうな管理人の女性は、不思議そうな表情をしてジルを見つめる。


「エルザちゃんは、まだ帰ってきていませんよ?」


 管理人の女性は、エルザは今朝、学院に登校して、まだ帰寮していない、と言う。


 登校した?どういうことだ?


 ジルは疑問に思いながらも、現状の把握が出来ていない状態のため、管理人の女性にエルザが学院に登校していないことは告げずにその場を離れた。


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