9
中間考査が終わり、順位が貼りだされた。
正面玄関を入ってすぐのスペースに、各学年の総合上位二十名、各学科の上位十名が貼り出される。
エルザは無事、総合でも各学科でも、すべて一位に輝いた。自分の順位より先に、エルザの結果を確認したジルが満面の笑顔でエルザを見る。
「エルザ、おめでとう」
ジルの大きな手が、エルザの頭を優しく撫でてくれた。
「ありがとうございます」
「放課後は、みんなでお疲れ様会しようか」
「はい!!」
ジルの提案に、エルザは大きく頷く。
中間考査前の生徒会活動禁止の間は、エルザは寮で一人で勉強していて、中間考査期間中は生徒会室でジルと二人だけだった。久しぶりに生徒会メンバー全員で集まる放課後が楽しみだ。
その日の食堂でのアルバイトを終え、エルザはいつものように生徒会室に向かった。
すでに生徒会役員、全員が集まっており、ジョルジェットが用意した大量のお菓子をテーブルに準備しているところだった。
「エルザ~、総合だけでなく、全科目一位でしたわね~」
「お、頑張ったな」
「……ビーフジャーキー?」
ハインリヒは甘いお菓子の中に、ビーフジャーキーを発見して困惑している。ロビンがおすすめの新商品を紛れ込ませていたのだ。
「はい、エルザ」
ジルはさっそくエルザの口にビーフジャーキーを入れてくれる。
しょっぱくて美味しい。いつまでも噛んでいられる。
久しぶりに自分の手からエルザが食べ物を摂取した喜びを、ジルはジーンと噛み締めていた。
「あ、ずるい、私のビーフジャーキーも食べろ」
ハインリヒが自分も、とエルザの口元にビーフジャーキーを近づけるが、なかなか嚥下できないエルザは首をフルフルと横に振る。
「諦めるんだな、ハインリヒ」
なぜか勝ち誇った顔のジルに腹が立つ。
「ちっ、しょうがない、お前が食べろ」
行き場を無くしたビーフジャーキーをジルの口に突っ込む。ビーフジャーキーを口に咥えたジルは、なんだかいつもより妖艶で目に毒だった。
「こっちを見ないでください!穢れてしまいます!!」
オリバーはジルから目を逸らし、エルザの目も自分の手で塞いでやる。
「あら~、本当。イケますわね~」
「だろ」
ジョルジェットとロビンは、そんなやりとりをビーフジャーキーを噛みながら見学している。
久しぶりに全員が揃った生徒会室は賑やかで、生徒会室の外まで、その声は漏れるほどだった。
「生徒会は全員成績いいから、順位発表見ても浮かれられていいよな」
「俺、今回の試験結果、親にバレたらヤバイって」
生徒会室から聞こえる楽しそうな声を尻目に、これから部活動へ向かう男子生徒たちは憂鬱そうだ。
「生徒会手伝いの特待生の子、平民だろ。なんで家庭教師もつけないで全教科一位なんだよ」
「しかも満点て出来すぎだよな。試験問題、事前に手に入れてたりして」
「あ、俺、放課後にあの子が試験問題入るくらいの大きさの封筒、持ってるの見た」
「いや、つっても、なぁ」
「そういえば、中間考査期間中の放課後、生徒会長と特待生の二人、ずっと生徒会室に籠ってたって噂になってたよな」
「勉強しないで、違うことしてたりして?」
「お前、バーカ」
ギャハハと笑いながらくだらない話をする男子たちの声は大きく、それを聞いている生徒は多かった。
学院では、生徒会役員のお気に入りであるエルザを、平民のくせに、と妬む者。彼女に成績で敵わず腹を立てている者、自分の憧れのジルやオリバーに気に入られているエルザに嫉妬する者。
少数ではあるが、生徒会役員であり、高位貴族のジル・クリスターを蹴落としたい者、様々な学生がいる。
そんな生徒たちの口から口へ噂話は広がり、その日のうちにその噂は拡大解釈をされながら、学院中に広まった。
噂話をした本人たちの預かりしらないところで。




