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ジルと口論した休み明け、エルザは生徒会室の前でウロウロしていた。
いつもは会いに来てくれる昼休みにジルは現れず、彼と顔を合わせるのがなんだか気まずかったのだ。
「なにをしている?」
後ろから声を掛けてきたのは、いつも通り筋肉モリモリな護衛を従えたハインリヒ第三王子。
彼とは、休み中にプライベートでお茶会をしたが、態度は変わらず先輩と後輩。何を考えているのか、周囲に気取らせない男だ。
「試験前だが、気にせず入ればよい」
そういえば、来週から中間考査があるから、試験前の今日からは勉強に集中するため、部活動及び生徒会活動は禁止だと、今朝、担任教師が言っていた。
「活動はしないが、みんなここで勉強しているからな」
ハインリヒが開けた扉の中には、ジョルジェット、ロビン、オリバー、もちろんジルもいた。四人とも中央の大きなテーブルに学習道具を広げている。
教科書から顔を上げたジルと目が合ったと思ったのに、すぐに逸らされてしまった。
「わたし、やっぱり寮に戻って勉強します!!」
エルザは鞄を胸に抱えて、走り出した。
ジルから目を逸らされたことがショックだった。エルザを見つけると、いつも優しく目を細めて、名前を呼んでくれる、それを当たり前のことだと受け入れていた。
心臓がドカドカとうるさいのは、走ったから。胸がザワザワと不安になっているのは、もうすぐ中間考査があるから。
エルザは特待生だ。総合成績で五位以内に入らなければ、容赦なく援助を外される。
寮の自室に戻り、机の上に教科書やノートを広げる。今は、勉強に集中するんだ。
エルザは夜中まで机にかじりついていた。
「エルザ、どうしたのかしら~」
「忘れ物でもしたんですかね」
エルザが去ってしまった扉の向こうを、ジョルジェットとオリバーは首を傾げながら見ている。
「寮で勉強するらしい。エルザは特待生だから、試験はプレッシャーもあるだろうからな」
確かに、特待生である彼女は全ての試験で五位以内に入らなければならない。裕福な家で育ち、人が羨むような生活をしている彼らとは、その重みは大きく違うだろう。
ハインリヒも空いている席に座り、勉強道具を取り出す。
しばらくすると、隣に座っていたジルがガタンと音を立てて椅子から立つ。
「……図書館で調べ物」
バタンと扉が閉まり、ジルが部屋から出て行った。
生徒会室に残った四人は、筆記用具を置き、顔を見合わせる。
「ジルが、エルザに話しかけなかったわ~」
「ケンカでもしたのか?」
「ジル様はモテモテだから、エルザに飽きたんじゃないですか」
逃げるように戻って行ったエルザ、普段と違うジルの態度が、ジョルジェットもロビンもオリバーも気になって仕方なったのだ。
「実はこの前の休日に、私がエルザとお茶会をしたのが、ジルにバレてしまったんだ」
にやにやしているハインリヒに、ジョルジェットとオリバーが悲鳴を上げる。
「ズルイですわ~!!わたくしだってエルザとお休み遊びたいのにっ。どうしてわたくしも呼んでくださらないの~!!」
「僕も一緒に勉強しよう、て誘いたかったのに!!遠慮したのに!お茶って!!僕も誘えばよかった!!」
騒ぐ二人に、ロビンだけが少し寂しそうだ。
「だから、二人とも俺の店に……」
自分に会いに来てくれたと思っていたのに、まさかのエルザの代わりと判明して、ロビンは少しショックを受けている。
ジョルジェットはハッと昼休みに見た光景を思い出す。
「お昼休みにジルがずっと食堂にいるから、おかしいと思っていましたの」
いつもであれば、さっさと昼食を済ませ、中庭にいるエルザに会いに行くのに、どうしていつまでも食堂にいるのかと、ジョルジェットは不思議に思って見ていた。
彼女は、エルザに食堂のアルバイトを紹介した張本人だ。ジルと昼食をともにした際に、エルザのバイト内容が翌日の食料の仕込みだったり、食器磨きだったりすることを話して聞かせた記憶がある。
「しかも、ずーっとフォークを真剣な顔で眺めていて!あれはきっと、『これはエルザが磨いたフォークかな』とか思ってたんですわ~」
「さすがに、それはちょっと……」
オリバーは憧れていたはずのジル・クリスターに、ちょっと引いてしまう。幼馴染であるハインリヒも、顔を引きつらせている。
ジルのことをよく知る四人は、彼が今向かったのは図書館でないことを、無言で察していた。
「は、初恋だしな」
「こじらせてるが、初恋ならば、うん」
生徒会メンバーは、生徒会長ジル・クリスターの奇行はすべて『初恋』という甘酸っぱい単語で片づけることにした。




