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エルザ Side

エルザ視点のお話です。

 今日の放課後はジョルジェット先輩と学院の二階にあるカフェに来ている。このお店は、貴族が通う学院らしく個室もあるけど、生徒たちに人気なのは外に張り出したバルコニー席だ。


 わたしたちは二人とも本日のケーキセットを頼んだ。本日のケーキはチェリーパイだったので、ワクワクしながら待つ。ジョルジェット先輩が食堂のアルバイトを紹介してくれたおかげで、時々こうして外食を楽しむことが出来るようになって、とても嬉しい。

 ちなみに今日はすでにアルバイトを終えているので、労働の後のお茶の時間はなおさら至福である。


 チェリーパイのことを考えると顔がにやけてしまうが、いけないいけない。本日はジョルジェット先輩に相談があるのだ。


「難しい顔して、どうなさったの~?」


 ゆる~い話し方に、おっとりとした笑顔。癒される。


「実は、先輩にご相談がありまして。わたし、もうヒロインを続けられないかもしれないです」


「まぁ~、それは大変!学院を退学でもなさるの~?」


 『退学』というパワーワードにわたしは慌てて否定する。


「いえいえいえ!わたしは絶対に学院を卒業すると決めているので、それはないです!!」


「では、どうしてかしら~?」


 こてんと首を傾けるジョルジェット先輩はあざと可愛い。ときめく。大人っぽいのに可愛いなんて、さすがです。


「あ、あの、わたしジル先輩を見ると、なんだか胸がドキドキしたり緊張したり、変になってしまって」


 ジョルジェット先輩は目を大きく見開いて、前のめりにエルザを覗き込む。


「まぁ~~~~!それはどうしてか、わかって?」


「はい!ジル先輩の周りにいる女の人たちと同じ症状なので、ついに先輩の色気に感染してしまったのではないかと思うのです」


 ジョルジェット先輩に負けじと、エルザも顔を近づけて、真剣な表情で話を進める。


「けれど、ジル先輩に聞いてもお薬はないみたいで……」


 この症状に効く薬はない、ということは現状の打開策はまだ見つかっていないのだ。


「ブフッ!!まぁ、ジルに直接聞いたの~?」


 ジョルジェット先輩が淑女らしくない笑い声を漏らした。顔が凄くニヤニヤしている。


「はい。ジル先輩も、わたしが感染したことに悲しそうな顔をしていました」


 ブフフフフフフとジョルジェット先輩が変な笑いをしている。


「薬ないか、て聞かれたら、それはさすがのジルでも落ち込むでしょうね~。でも、ジルも最近なんだか変だったものね~。わたしの知らないところで何かありましたわね~」


 ジル先輩も変だったとは、自分の異変で頭がいっぱいで、気が付かなかった。


「ジル先輩も、変だったんですか?」


「そうね~。いつも余裕たっぷりなあの男が、何か考えて動けないようだったから、一波乱あるかしら~と楽しみに静観しているところなの~」


 ジョルジェット先輩はとても楽しそうにウフフと笑っている。

 そこに、本日のケーキセットが届いた。紅茶とチェリーパイがそれぞれの前に置かれる。

 わたしたちは無言でフォークを手に持ち、目配せをする。


 いざ!


 パイ生地にフォークを入れると、中から真っ赤なチェリーが顔を覗かせる。

 大きく切り分けたそれを口に含むと、サクリとしたパイの食感に爽やかな酸味のきいた甘酸っぱいチェリーが口いっぱいに広がった。


 ジョルジェット先輩と顔を見合わせ、幸せを噛み締める。いつもは麗しいお顔が、蕩けきっていた。

 先輩はスィーツが大好きで、実は学院に入学する際に、自分のお気に入りのパティシエをカフェにスカウトしていたのだ。そのおかげで、ジョルジェット先輩お墨付きのパティシエが日替わりでカフェにケーキを提供する、という素敵な現状に至っている。


 ケーキを食べ、紅茶を飲み、ケーキを食べ、幸せだなぁ、と思う。

 ケーキを食べ終えたジョルジェット先輩が口を開く。


「ねぇ、エルザ。あなたが誰にどんな感情を抱いていてもいいのよ~。大事なのは、誰かにとって、あなたがヒロインであること、なんだから」


「なるほど?」


 ということは、わたしがジル先輩の色気に感染してしまっていても、ヒロインを辞める必要はない、ということですね。


 最初はジョルジェット先輩にスカウトされて入ったヒロイン部だった。卒業後の進路を考えると、将来の有力者の方々とのコネクションが得られるのは非常に魅力的であったけれど、今となっては、ただ毎日生徒会室に行くだけでも楽しくて。


 いつもお菓子をくれてお世話をしてくれる優しいジョルジェット先輩に、オタクトークを限界まで語れるオリバー、無口だけどしっかり者のロビン先輩、偉そう(というか偉い)で行動力のあるハインリヒ先輩(と筋肉護衛)、わたしを唯一と言って甘やかしてくれるジル先輩。


 平民のわたしが彼らと時間を共有できるのは、この学院にいる三年間だけなのだ。まだ、ここにいていいのならば、ここで、みんなと一緒にくだらない話をして、笑い合っていたい。わたしは、ここで、まだヒロインでいたい。


ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

次話より最終章です。

最後までお付き合いいただければ嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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