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 ジャクソン商会で経営しているフラワーズブランドの一つ、ロイヤルフラワーでは、次のシーズンに販売する新作をお得意様だけにお披露目する新作発表の場を設けていた。

 今回は、ジャクソン家で所有している別荘の一つで行われる。ここの薔薇園は広大な敷地に多種多様な種類が咲き誇っており、別名薔薇の館とも呼ばれていた。


 ジョルジェットはハインリヒに、エルザはジルにエスコートされて、別荘に訪れた。

 会場の入り口ではフラワーズブランドのスタッフがスカーフを客へと渡している。


「こちらをどうぞ。よろしければスタッフがスタイリングさせていただきます」


 ニコリと微笑み、そう声を掛けてきたのは、細身の黒色のスーツに同色のシャツを合わせたオリバーだった。首元には淡い色みのオレンジと緑のスカーフを薔薇の様に巻いており、まだ少年の域を出ない華奢な体型の彼には、非常によく似合っていた。


「オリバー、お前いつからロイヤルフラワーで働いているんだ?」


「お花、とっても似合っていらしてよ~」


 ハインリヒとジョルジェットに声を掛けられ、オリバーは嫌そうに答える。


「ロビン先輩に頼まれて、今日だけです。花が似合っても嬉しくないです」


 後に続くジルも、からかう様な目でオリバーを見ていた。


「やぁ、オリバー。まるで花の精だね」


「オリバー、かわいい」


 ジルの素直な感想も、エルザの本気の発言も、オリバーは全然嬉しくない。こめかみに青筋を立てながら、横のブースを指さす。


「いいから、あっちでお店のお姉さんにスカーフ巻いてもらって」


 奥に通された四人は、それぞれスカーフを巻いてもらう。

 ハインリヒは首元のシャツの襟から覗かせるように、ジルはクラバットのように。

 ジョルジェットは首元に薔薇の花の様に、エルザは手首に同じく薔薇の花のように。


 スカーフを巻いてもらい、四人は会場の中を見て回る。新作のドレスやバッグ、靴、アクセサリーなどがお客様の目を楽しませるように配置されていた。

 会場の中は、ファッションが好きな者、販売に携わっている者、服飾関係者など、たくさんの人で賑わっている。

 その誰もが、首や手首に様々な形でスカーフを巻いていた。


 会場の奥にロビンを見つけたが、カラフルな装いのご婦人方と話し込んでいるようだ。


「スカーフを薔薇の花のように巻くなんて、考えてもみなかったわ!」


「これでしたら手持ちのスカーフでも出来ますし、同じドレスでもスカーフの色を変えるだけで印象がかなり変わりますわね!」


「今日つけていただいたスカーフ、表も裏も、どちらが見えても美しいように計算されていて美しいわ」


 会場入りした際に巻いてもらったスカーフをいたく気に入ったようで、主催者側であるロビンを見つけて、その感激を熱弁している。


「ロビンとお話しているのポルディレ侯爵夫人ではなくて~?」


「彼女が認めたら、あっという間に流行するな。そういうことか」


 ジョルジェットとハインリヒの会話にポカンとしているエルザに、ジルが解説してやる。


「これまでスカーフはリボンのように巻くことが多かったからね、今日みたいに薔薇の花のように巻いたり、男性が首元に巻いたり、という使い方はみんな見たことがないんだよ。それを今の社交界のファッションを牽引しているポルディレ侯爵夫人が気に入った。ロイヤルフラワーのスカーフはこれから飛ぶように売れる、てこと」


 なるほど、と頷くエルザにご婦人方との会話が終了したロビンが合流する。


「表と裏が異なる配色のスカーフはこれまでにも販売していて、珍しい物ではない。うちが売り出すのは、これまでにないファッションの可能性があるスカーフ。女性の物だったスカーフが、男性への贈り物にもなる。これまでロイヤルフラワーに憧れていた世代もそれほど高額ではないスカーフならば手が出せるようになって販路も拡大していく見込みだ」


 語るロビンは紺とシルバーグレーのスカーフを緩くネクタイのように巻いている。なるほど、男性にも向けた商品展開ということか。


 ハインリヒとジョルジェットは濃紺と水色のスカーフを、ジルとエルザは薄い紫と青のスカーフを、それぞれお揃いでつけている。配偶者や婚約者など、ペアでも気軽に使用できそうだ。


「ジョルジェット嬢もエルザも、似合っている」


 そうロビンが呟いたのは、しかしスカーフではなくて。

 二人の耳元を飾るイヤリングだった。


オリバーはロイヤルフラワーのお姉さま方にとても気にいられて、可愛い格好もカッコいい格好も散々させられて、すでに機嫌が悪いようです。

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