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ビジネスヒロイン部〜王子も無口もツンデレも、もちろん美貌のフェロモン公爵令息も、まとめてヒロイン引き受けます〜  作者: たまころ
第三章

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 エルザは天気のいい昼休みはたいてい中庭のベンチで昼食をとっていた。それを知っている生徒会メンバーは、時々訪れてはお菓子をくれたり構ってくれたりする。

 彼らも忙しいため毎日ではないが、特に生徒会長のジルはほとんど毎日やってくる。ほんの少しの時間でもエルザに会いたいことも理由の一つだが、妖精のごとく可愛らしい容姿のエルザには放っておくとちょっかいをかける男が湧いて出るのだ。

 しかも、エルザの身分が低いため、侯爵令嬢であるジョルジェットと違い、子爵や男爵の子息も気負わずに話しかけることができる。「こんにちは」「ごきげんよう」そんな一言で眠れぬ夜を過ごすことさえできる年頃の男子たちは、彼女の飾らない物言いに、密かに癒されていた。


 この日も、エルザは中庭のベンチで一人、昼食のサンドウィッチを頬張っていた。寮の食堂の厨房の端で、毎朝簡単なお弁当を作らせてもらっている。

 たいていはサンドウィッチで、今日も朝食用に準備されたスクランブルエッグやハムを分けてもらって作った。


「エルザ・スカルチアさん?少しお話よろしくて?」


 口いっぱいにハムとレタスとスクランブルエッグのサンドウィッチを頬張っているエルザは、正直全然よろしくない。


「ふぁい?」


 エルザの曖昧な返事を了承ととったのか、声を掛けて来た女生徒は彼女の隣に腰掛けた。

 昼休みは生徒会メンバーが顔を出すことが多いため、ジルやオリバーに想いを寄せる女生徒からの呼び出しや、囲い込みはほとんどない。

 特にジルの取り巻きたちは集団で訪れるし、懲りずに何度も来るのでもはや顔なじみだ。

 なので、エルザに女生徒が単独で話しかけてくる、しかもちょっと友好的な雰囲気を出しているというのは珍しいことであった。


 隣に座った女生徒は、リボンタイの色から二年生とわかるが、これまで接触した記憶は無い。麦わら色の髪に茶色の目。背は高くも低くもなく、太っているわけでも痩せているわけでもない。顔立ちも可愛らしくはあるが、美男美女ばかりの学院では印象に残るほどではない。


「あなた生徒会のお手伝いしているのよね?よくクリスター様やルブラン様といらっしゃるところをお見掛けするけれど、ロビン様とも親しいのかしら?」


 生徒会会計を務める二年生のロビン・t・ジャクソンは貴族ではないものの王家御用達とも言われるほどの有名商会の息子で、下手な下位貴族よりも世間では認知されていた。外見は容姿端麗な生徒会メンバーの中では極めて地味といえる。平均より少し高めの身長、ダークブロンドの短髪にすっきりとした目元。奥二重の瞳の色はアンバー。しかし、派手過ぎないが整った見た目、身分はないが裕福な商家の子息。自分から前に出ることは好まず口数も少ないが、身に着けている物はさりげなく流行最先端で、わざとらしくないオシャレ。実は生徒会長で公爵子息のジルや、副生徒会長で第三王子であるハインリヒのようなアイドル的な人気がない分、少数精鋭のガチ恋勢が存在する。


「生徒会長のクリスター公爵令息様も第三王子であらせられるハインリヒ殿下も、そりゃあカッコいいわ、ピカピカだと思うの。でもね、ロビン様の切れ長奥二重のカッコよさ、わたし二十四時間見てられるわ。ロビン様って一見普通のシンプルな恰好をしているように見えて、実はシャツとか学校指定のじゃなくて今をときめくメンズブランドの最高級品着てらっしゃるし、似合うし!あまり鍛えていらっしゃらないようだけど、だからこそ、細身の体が色気を奏でると申しますか、これからの成長が楽しみでよだれが出そうというか。無口でいらっしゃるけど、人の話を聞いていないわけではなくて、要所要所で相槌を打つのが律儀で……」


 突然のマシンガントークにぽかんとしているエルザに女生徒は気が付き、慌てて謝罪をする。


「いきなりごめんなさい。わたしはツーコニア子爵の娘、ユメリアと申しますの」


「ツーコニア様、あの、どうして急にロビン先輩のお話を?」


「よろしければ、ユメリアと名前で呼んで。わたし、ロビン様にずっと憧れていて、話をしたこともないのだけれど、もうお姿を見ることもなくなってしまうかと思うと、誰かとロビン様の素敵さを語り合いたいと思ってしまって」


「おい!ユメリア、こんなところで何をやっているんだ!?」


 ユメリアの言葉を遮り、現れたのは赤茶色の髪の男子生徒。こちらも、エルザの記憶にはない。たわわなお肉をつけていて、なかなか動きづらそうだ。


「ディラン様!あの、これは」


 ディランと呼ばれた男は、言い訳をしようとするユメリアの腕を引っ張る。たわわなお肉を揺らしながら、「いいから行くぞ」と強引に彼女を連れ去ってしまった。


 ぼんやりと二人が去って行くのを見ていたエルザの横に、生徒会長であり、彼女を唯一の人と公言するジル・クリスターが並び立つ。


「エルザがジョルジェット嬢以外の女生徒と一緒にいるの珍しいね。彼女は二年生のツーコニア子爵令嬢?」


「ジル先輩、見てたんですか?」


「なんかすごい勢いで喋ってたから入れなくって。彼女を連れていったのは婚約者のディラン・ワトスナー伯爵令息か。染物が有名な領地で、確か、新事業のために婚約を結んだとか」


 ヒロイン事件以降、学院卒業後の婚約が主流になったとはいえ、まったくなくなったわけではない。貴族間の縁結びとしては、やはり婚姻が手っ取り早く確実であることから、政略結婚は今でも常套手段だ。


「ロビン先輩への愛が凄かったです。後で先輩にユメリア様のこと知っているか聞いてみます」


「エルザ、俺だってエルザのことなら一晩中だって語れるから。俺のエルザへの愛の方が凄いから、ねぇ聞いてる?」


 ユメリアの愛に負けじと真剣な表情のジルに、エルザは「はいはい」と返事をするが、こちらも真剣だ。残り少なくなった昼休みでサンドウィッチの残りを食べきらなければならないのだから。


エルザの昼食サンドウィッチはソフトフランスくらいの少し硬めのパンに食材を挟んでいるだけ、のイメージです。

もしゃもしゃと噛みちぎっています。

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