1
ここから第二章(オリバー編)です。
よろしくお願いいたします。
一年A組の教室の片隅で、オリバー・ルブラン子爵令息は女生徒たちに取り囲まれていた。
クリスター公爵家と縁戚関係にある彼は、ジル・クリスター公爵子息ともどこか似通った顔立ちをしている。顎まで伸びたくせのある飴色の髪はハーフアップにして、二重の大きな青い瞳は高貴な猫を思わせる、人目を惹く華やかな容姿だ。
「青でしょ!」
「わかった、黒ですわね?」
「オレンジ色じゃなくって?」
女生徒たちは口々に色を挙げていく。
帰り支度をしていたエルザは話の流れはよく聞こえていなかったが、それがオリバーの好きな色当てクイズであることは聞き取っていた。
なので、つい、言ってしまったのだ。
「漆黒ですよね?月のない夜のような漆黒の闇色」
小さな声のつもりであったが、賑やかな集団の中にいたオリバーの耳には届いた。
「あんた、なんでそれを……」
「なんでって、その髪型とか、つけているブレスレットも……」
「わーーーー!!!!よし!!約束通りお前とデートしてやるから!!」
オリバーの突然のデートしてやる宣伝に、エルザは正直にイヤそうな顔をして断る。
「えー、約束してないし、デートとかいらないです」
エルザの発言を受けて、オリバーの色当てクイズに参加していた女生徒たちが騒ぎ出す。
「じゃあ、代わりにわたくしとデートしてくださる!?」
「ずるーい!わたしだって行きたいですわ!!」
うんざりした顔のオリバーは、しかし、約束を違えるつもりはないようだ。
「俺の好きな色当てられたら、ていう約束だったんだよ。俺はあんたとデートするからな」
諦めのよいエルザは全然嬉しくなかったが、押し問答するのも面倒だな、と考え、その提案を受け入れることにした。
「わーうれしー。ありがとーございまーす」(棒読み)
面倒くささ100%丸出しのデートの了承をした。
二人はそのまま一緒に生徒会室へ向かう。
生徒会書記のオリバーと生徒会手伝いのエルザは同じクラスだったが、ともに生徒会室へ行くのは初めてであった。
貴族ばかりの学院で平民のエルザがクラスで浮いていることも原因の一つだが、オリバー自身がエルザと関りを持とうとしないことが一番の理由だ。
オリバーは生徒会長であるジル・クリスター公爵子息の縁戚で、ルブラン子爵家の三男だ。
家は長男が継ぎ、次男はそのサポートをする。親族の中でも学業ではとくに秀でていたオリバーは、いずれ本家であるクリスター公爵家の次期公爵であるジルに仕える予定である。
これまでは公爵家のジルや、第三王子のハインリヒなど、自分より高位の者には敵わなかったが、同年代の中では一際優秀だと自他ともに認めていた。
しかし、学院に入学してすぐに、その自信は打ち砕かれることになる。
自分より劣った環境で学んできたはずの平民のエルザに、入学試験で負けていたのだ。
その後も、授業では事あるごとに彼女の優秀さを見せつけられ、オリバーはエルザを受け入れることが出来なかった。
だから教室でも生徒会室でも、無視をするわけではないが、彼女のことは見ないようにしていた。
しかし、そんな彼女に、まさか自分の好きな色を一発で言い当てられるとは。
オリバーは子爵家の出で、高位貴族ではないが、成績優秀で見た目も中性的な美しさをもつ。いずれ公爵家に仕えるだろう将来も約束されていて、中位から下位貴族には縁談相手として人気が高かった。また、高位貴族のお姉さま方にも、成長過程である低めの身長に猫のような愛らしさのある外見を気に入られ、アイドルのように騒がれていた。
ジルやハインリヒのように女性をうまくあしらうことが出来ないオリバーが思いついたのが、「好きな色を当てられたらデートしてあげる」という提案。
真面目な彼は嘘をつくつもりはなかったが、自分の好きな色を当てられる女の子がいるとは思っていなかった。
ジルが好きな色は、物語に出てくる少女の色だったから。
読む用と保存用に持つほどその小説が好きだとは、家族しか知らない。少年少女向けの小説が何より好きだなんて、なんだか子供っぽくて友人にもクラスメイトにも、誰にも言っていないのに。
二人は会話をしないまま、生徒会室にたどり着いた。扉を前に、部屋に入らず無言が続く。
はぁ、とオリバーはため息をついて、ぶっきらぼうに問いかける。
「都合のいい日、いつ?どこ行きたい?」
みんなの前で誤魔化したわけではなく、本当にデートに行くんだぁ、とエルザは内心思ったが言葉にはしない。
普段あまり話をしないオリバーは自分をよく思っていないのが伝わってくる。休みの日に二人でどこかに出かけるのは、気まずい。しかし、エルザは閃いた。短時間で、でも二人が楽しめること、思いついた!
「明日のお昼休みはお時間ありますか?よかったらランチデートしましょう!」
エルザの提案に、明日なんてまだ、そんな急に心の準備が出来ない、と思うデート経験なしのオリバーに、エルザは畳みかける。
「わたし、お弁当作ってくるので。裏庭のガゼボで食べましょう」
「ね?」と笑いかけたエルザの可愛らしさに、オリバーは思わず赤面する。いつも挨拶するように女の子から誘われて慣れているはずなのに。
気がついたら彼女のペースでデートが決まっていた。
胸が高鳴るのは、慣れないデートだから、きっとそうに違いない。
数ある作品の中から見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。
ブックマーク、評価、いいね、とても嬉しいです。




