プロローグ
初めての長編です。
8割程度書き上げており、見直し、仕上げしながら投稿予定です。
最低でも一日一話は投稿したいと思っています。
ゆる設定、ゆるヒロインなので、軽い気持ちで読んでいただけたら、と思います。
よろしくお願いいたします。
放課後の校舎裏、一人の小柄な少女を取り囲むように、複数の女生徒たちが立ちはだかっていた。
「エルザ・スカルチア、あなたまだ自分の立場がわからないのかしら?」
「あの方はね、あなたのような平民が関わっていいお方じゃないのよ!」
「男とみれば色目を使って、汚らわしい!」
「平民風情が、立場をわきまえなさい!!」
エルザと呼ばれた少女は、同性の目から見ても、愛らしく守ってあげたくなるような可憐な美少女だ。向かう女生徒たちは美しく整えられた身なり、乱暴な口調ではあるがその所作は気品が滲んでおり、高貴な家の令嬢であることがわかる。そんな彼女たちが妖精のごときエルザを口々に罵る。
最早この学院では、よく見る光景といっていいだろう。
先頭に立った女生徒が、エルザに向かって手を振りかざす。
叩かれる!と思ってその衝撃に備え、エルザはうつむきギュッと目を閉じたが、いつまでたってもその痛みは訪れない。
そっと目を開くと、そこには、キラキラと眩しい男性がいた。
「もう大丈夫だよ」とエルザに優しく微笑み、その小さな体を守るように抱きしめる。慣れた体温に気持ちが和らぐが、エルザはこうなった原因が彼であることもわかっている。
その原因ごと、すべて受け入れることにしたのは、ほかでもないエルザ自身の決断だったから。
エルザ・スカルチアが学院中の女生徒たちに嫌われたのは、入学式から数日後のあの日に遡る……。
◇◇◇◇◇
学院の噴水広場は放課後ということもあり、そこここに設置されているベンチで学生たちが寛いでいた。友人とお喋りをしている者、膝に置いた本のページを繰る者、しかし彼らの耳は美しく咲き誇る花壇の前に立つ男女一組に集中していた。
男の背中で一本に結んでいるブルネットの長髪がさらりと風に揺れ輝く。芸術家が魂を込めて創作したような美しい容貌の緑の瞳が映すのは目の前の小柄な少女。
まだ少女の域を出ない小柄な娘の淡いピンク色の柔らかな髪も風でふわふわと揺れる。ウェーブがかったその髪が揺れるとまるで綿菓子のような愛らしさだ。パッチリとした菫色の瞳もまた、目の前に立つ美丈夫を映す。
「たくさんの女性に愛を請われてきたけれど、本当の俺を輝く瞳で見てくれたのはエルザだけだった」
男はそっと彼女の手を取り、甲に口づけを落とす。
「可愛い人、どうか俺の唯一になってくれないか?」
少女を見上げる左目の下にあるほくろが彼の色気を増幅させて、女性であれば誰もが一も二もなく頷くだろう。もちろん目の前の少女も。
「喜んで……」
嬉しさのあまり少女の目には涙が潤んで、口元は微笑み……?かろうじて微笑んでいる、ととれるような歪み方をして震えている。
男は口づけていた手を握り、「さ、俺の唯一、生徒会室でお茶でもしようか?」と少々強引とも思われるほど早足で彼女を連れ去った。
後に残されたオーディエンスは、これまで来るもの拒まず去るもの追わず、みんなのジル・クリスター公爵令息がたった一人の女性を射止めんとした現場の目撃に沸いた。彼に想いを寄せていた女生徒はふらりと倒れ、衝撃の話題を広めようと男子学生は走り出し、それを聞いた同級生は驚きのあまり大声を上げ、それを聞きつけてまた人が集まり、放課後の学院は大騒動となった。
色気溢れる美丈夫と小柄で可愛らしい妖精のような少女は、学院から渡り廊下で繋がった別棟にある生徒会室に駆け込んだ。扉をバタンと閉じると少女は堰を切ったように笑いだす。
「たくさんの女性って、たらしの自覚あるんですねジル先輩」
ケタケタと笑い続ける少女の手を離し、ジルは余裕の表情を見せる。
「女性だけじゃなく、男も寄ってくるから正確じゃなかったかな?」
正確には、男も女も、お散歩中の犬も下働きに餌をもらっている猫も、屋根裏を走りまわる鼠さえも、彼から溢れる色香に寄ってきては胸をときめかせる。
ジル・クリスターというこの男は、王族の次に高貴な公爵家嫡男という身分に関わらず気さくに誰とでも会話を楽しみ、その美貌と色気を惜しげもなく振りまき、老若男女問わず求愛を受ける対象であった。
「ま、エルザが笑いだす前に立ち去ったから、これがお芝居だって疑われていないことを祈るよ」
「もちろん、引き受けたからには最後まで全うしますよ。ジル先輩のヒロイン役!」
「頼んだよ、俺のヒロイン」
ジルとエルザは握った拳を軽くぶつけてニヤリと笑った。
数ある作品の中から見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。
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