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066.品質管理をあなたへ①

 そんな日々の傍ら、リーゼロッテ女史を伴って再び魔力回復薬製造工場の視察に訪れていた。


「お忙しいところ無理を言ってすみません」


「いや、クライの希望であればこちらに是非もないが、でも、どうしてまた?」


「少し気になることがありまして、それを確かめたいと思ったのです」


 気になること――それは魔力回復薬の品質についてだ。

 誤解のないようあらかじめ断っておく必要があるが、ここで作られている魔力回復薬の品質に問題があると思っているわけではない。

 俺が気になっていたのは、その品質のばらつきだ。


 初めてこの治療院の見学をさせてもらった際、『患者によって魔力回復薬の効果が異なる』という話を聞いた。その後、呪病患者の治療を続ける中で、『同じ患者でも日によって魔力回復薬の効果が異なる』という事実も明らかになった。

 患者間での個体差や患者自身のその日の体調次第で魔力回復薬の効き目が違うというのは当然あり得る話だろう。そうであれば問題はない。いや、問題がないというよりは、取り得る対応がほとんどないと言った方がいい。

 しかし、それが品質のばらつきに起因するものであれば、そこには大きく改善の余地があるのだ。

 効果が低い魔力回復薬が重篤患者に投与され、本来助かるはずだった命が失われることもあるだろう。それとは逆に、軽症の患者に効果が高い魔力回復薬が販売され、その効果の多くが無駄になることもあるだろう。

 こういった問題は、製造時点でばらつきを抑えるか、あるいは、ばらつきがあるという前提に立ち、品質を管理することで防ぐことができるはずだ。


 今日俺がここに来たのは、そもそも魔力回復薬にばらつきがあるのか、そして、ばらつきがあるとしたらそのコントロールは可能か、この二点を確認するためだった。


「部外者である私が立ち入って良い話なのか迷ったのですが……」


「部外者などとそんな寂しいことを言わないでほしい。クライは私の大切な友人なのだから」


 そんな友人に何も返せていないのが心苦しいと、リーゼロッテ女史は苦笑いを浮かべる。

 でも、俺からすれば彼女にそう思わせてしまっていることが心苦しいのだ。

 ここは友人として、困ったときはお互い様ってことにできるといいんだけどね。


「それにしても品質のばらつきか……期限管理が必要だから製造日ごとに管理はしていたつもりだったが、品質のばらつきにも目を向けるべきだったのか。これは完全に私の落ち度だな」


「いえ、そうでもありませんよ。ここで行われていることは、製造にしても管理にしても高い水準にあると思っています」


 同一原料を使って、同一日に、同一工程で製造したのだから、完成品の品質も同一だろうと考えるのは間違っていない。実際に元の世界でも、同一製造日の物を同一ロットだと考えることはよくあることだ。

 成分の有効期限が短いためとは言え、製造日ごとのロット管理を行っているだけでも十分優秀だと思う。


 俺とリーゼロッテ女史は、メモを片手にした工場責任者のチムとともに、製造工程の上流から下流に向かって順に確認を行っていく。


 工場に搬入された乾燥エリ草は、臼を使って細かく砕かれた後、五つほど並べられた大釜に投入される。

 そこで水魔法により生み出された水を用いて半日ほど煮だされた後、冷却し成分の安定のためさらに一昼夜寝かされる。

 最初に投入される水は、水魔法で作られた水特有の一時的なプネウマの煌めきこそあるものの、それを以外は至って普通の水だったが、一晩寝かされた後の水はキラキラと深く輝いていた。この過程でエリ草に含まれているプネウマが水へと移行したのだろう。

 その後、濾過され不純物が取り除かれた抽出液は、そのまま遮光瓶に分注され、魔力回復薬として使用されることになる。

 機械化はされてはいないが、、作業効率や動線がよく考えられた工場制手工業のお手本のような工程だった。


 最後に、魔力回復薬の保管庫の確認だ。

 薄暗い倉庫の中は、魔力回復薬の消費期限が製造日から五日ということもあって四つに区分けされており、それぞれ製造日ごとに魔力回復薬が保管されていた。


「なるほど」


 原材料の搬入から保管まで全ての工程の確認を終えて、俺は小さく呟いた。

 結論から言えば、品質のばらつきはある。しかし、それは製造日による差よりも、むしろ同一製造日内での差の方が大きかった。

 それが示すことは、製造工程のどこかにばらつきの原因となる工程があるということだが、俺にはすでに原因となる工程のあたりはついていた。


「クライ……貴殿にはいったい何が見えているんだ……?」


 リーゼロッテ女史が逡巡しながらも、そう尋ねてきた。

 初対面のあの日、俺のことを畏れたことを負い目に思っているせいか、リーゼロッテ女史はこれまで俺の力について深く追求してこなかった。ずっと気になっていたが、聞きたくても聞けなかったのだろう。

 こんなことならもっと早くに話しておくべきだったかな。


「魔力の素――プネウマが見えています」


「プ、プネウマ!? それは理論物質ではなかったのか?」


「仰るとおり、その理論物質のプネウマです。私にはそれが見えています」


 俺の答えにリーゼロッテ女史は唖然とした。理解はしたが感情が追い付かない、そんな表情だ。

 そんな彼女にとっては追い打ちになってしまうかもしれないが、この機会に始原魔法のことも話しておこう。


「そして私は、そのプネウマを操ることで魔法として行使しています」


「そ、そうか……」


 激しく動揺した様子ではあるが、かつてのような畏れを抱いているようには感じない。

 俺はそのことにほっと胸を撫で下ろす。

 あのときは対して気にしていなかったが、今は少し状況が違う。親しくなった人に拒絶されるのはやっぱり嫌だからね。


「これは秘匿すべき情報なのだろう?」


「そういうわけではありませんが、無用なトラブルを避けるためにも、できれば内密にお願いします」


「もちろんだ。アズドールの名に懸けて約束しよう」


「ありがとうございます」


「それで、プネウマが見えるというクライの目から見て、何か問題はあっただろうか?」


「問題はありませんでした。ただ原因となりうる工程はわかりました」


 俺はそう答えると、リーゼロッテ女史とともに再び工場へと戻る。

 そして向かった先は、原料を投入する大釜の前だ。

 俺はそのうちの一つを担当している一人の女性を呼び寄せた。

クライ編は火曜連載です。

と言いつつ、昨日は寝落ちしてしまい更新が水曜日になってしまいました。すみません……


【以下テンプレ】

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同タイトル【アキラ編】と合わせて二軸同時進行中です。

https://ncode.syosetu.com/n1886ja/

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