いきなり公爵様に婚約破棄されたのを親友♀に愚痴ったら、求婚されたのですが!?~女だと思ってた親友は実は男で、冷血な【死神騎士】なのに、とろけるぐらい溺愛されても困ります~
「きみとは、結婚は出来ない……」
それは唐突だった。
「理由を、お聞かせください」
いきなりの婚約破棄。
私、エラ・エイブリーはいつものように婚約者であるマティス・ランバート公爵様のお屋敷に来訪して、マティス様と雑談していた……はずなのに……。
雑談といっても、一方的に私が話してただけなんだけど。
マティス様とは社交界デビューした時に、オドオドしていた私に声をかけてくれたのが始まりだった。
常に明るくて周りからも信頼されてる彼は、当時の私にはとても輝いて見えたんだ。
そんな彼から、求婚を申し込まれた。当然二つ返事で返し、婚約者となった。
婚約当初は、お互いに初で手が触れる度に顔を真っ赤にしていた。
それは今も続いていた。
マティス様は、何回もキスしようとしてたけど私は必死で拒否した。
そういうのは結婚してからだと思ってるから。
そんな関係だから、気持ちが離れたのかもしれない。
最近は私に対して、冷たいんだもん。
その証拠に、マティス様の口から出た言葉は、
「……最愛な人と出会ってしまったんだ」
そんな言葉だった。
マティス様の瞳は私をしっかりと捉えていて何かを決断しているようだ。
ああ、そうか。
私は振られたのか……。
私はライブリー伯爵家の三女として生まれた。
姉が二人いるのだが、すでに嫁いでいる。
私だけが嫁ぎ先が決まってなく、お見合いをしても.....どうも合わなかった。
そんな中、マティス様の求愛に両親は心の底から喜んでいた。
それなのに.....、いきなりの婚約破棄ですか。そうですか.....。
マティス様が悪い訳じゃなく、私が心を捕まえていなかったのが一番の原因。
何がいけなかった.....?⠀と、聞かれればマティス様の積極的な愛情表現と向き合うべきだったのかもしれない。
積極的な愛情表現は結婚してからだと私は思ってるから.....、そこの価値観が合わなかったのかも。
それからは、よく覚えていない。
気が付くとエイブリー家の私の寝室のベットで横になっていた。
なんか、疲れたな。
ゆっくりと目を閉じた。
ーーーーーーーーーー
「ふっざけんじゃないわよ!!⠀あの、クズ公爵のバカヤロー」
婚約破棄されて一週間。
私は親友でもあるルディ・イスラエル子爵令嬢の屋敷の私室で愚痴を零していた。
もちろん、私と親友の二人だけなので私の暴言はルディにしか伝わってない。
ルディは呆れながらクッキーを食べ、時々紅茶を飲んでいる。
長めの黒髪と黒い瞳が特徴の女性。とっても綺麗な漆黒なのよね。かなり整っている顔立ち。
だけどどこか懐かしい。
遠い昔に私はルディを知っている。そんな気がする。
なんて、あの夢を見てからどうしても重なってしまうんだよね。
求婚先に嫁ぐ道中、ゴロツキに馬車が襲われて殺される。
虫の息だった私の目の前には黒い髪と黒い瞳をした少年が大鎌を構えていたんだ。
その少年は、選択肢を与えてくれた。そんな夢だったんだけど……。
だからこそ、初めて見た時は驚いた。
ルディの兄も漆黒の髪と目なのもあり、貴族たちの間では『あの兄妹は呪われている』そんな噂されている。
ルディの両親は、どちらも黒髪でもなければ黒目ではないから、養子という噂もある。
「令嬢がそんな暴言吐いてどうするのよ。ランバート様のこと、まだ好きなの?」
「……わかんない。でも、なんだか寂しくて」
そう、寂しい。それは好きだったから?⠀今となってはこの好きって恋愛としての好きじゃない気もする。
「……まぁ、抱きしめるどころか口付けも拒まれると恋が冷める人はいるからね」
「で、でも、口付けとか……そういうのは結婚してからじゃない。そんな無責任なこと、私は出来ないわ。常識じゃない」
「どんな常識よ」
「大切なことよ」
そう、大切なことだ。
「ね、ランバート様を恋愛対象として見てなかったんならさ」
そう言って立ち上がったルディは私の傍まで来ると、顎を持ち上げられ頬に口付けられた。
何が起こったのか分からない。
気が動転して、言葉も出なければ、動くことも出来なかった。
ゆっくりと離れたルディはペロリと自分の唇を舐める。
その顔はイタズラっ子のような表情をしている。
「だったら俺と結婚する?」
何を……。
しかも俺って。
もしかして、ルディはそっち系だったの!!?
「馬鹿なこと言わないで。そもそもルディは女性じゃ……」
そう、女性。
だからこそ、いきなり口付けして求婚するルディの行動が信じられなかった。
「女性?⠀残念だけど、ルディという女性は存在しない」
高かった声が段々と低くなった。
どういうこと!?
「わ、私を騙して!!?」
「事情があるんだよ。まぁ落ち着いて」
そう言って、私の隣に座る。
元々ソファは、二人用。
なので、隣に座られても不自然じゃない。……のだけど、
「落ち着いて居られるわけないでしょ!!?」
頬とはいえ、口付けられたんだ。動揺し、警戒するに決まってる。
「嬉しいね。意識してくれるんだ」
嬉しそうに口角を上げる。
「それに、男だという証拠が……」
無い。だって信じられる!?⠀美人なのよ!!
女性のような口調だったのに、いきなり男らしい口調になったとしてもそれこそ嘘だって可能性があるじゃない。
「……仕方ない」
ルディは私の目の前でなんの恥じらう様子もなくドレスを上半身だけ脱ぎ始めた。
「な、何して!!?」
背中のファスナーを慣れた手付きで下ろす。
ルディって、身体が柔らかいんだね。私は硬いから一人だとなかなか背中のファスナーは下ろせない。
って、関心してる場合じゃなかった!!
いくら親友同士だろうが、それは……恥じらう行為だ。
だから私は咄嗟に自分の顔を手で隠して見えないようにした。
だけど、ルディは私の手を引っ張って「ちゃんと見ろ」と、真剣な口調で言うものだから、恥ずかしい気持ちを抑えて見る。
ルディの身体は、女性らしい柔らかさはなく、男性らしい身体だった。それに、膨らみもないし……、あるのは腹筋が割れているお腹。
鍛えている男性そのものだった。
嘘……。まさか本当に?
「簡単に言うとだな。俺の母親はずっと女を産みたがってたんだが、父親は男を期待してたんだ。次期当主にするなら男がいいからな俺を産んだ母親は、どうしても女が欲しかった。それで母親は俺を女として接するようになった。ドレスを着させたり、令嬢としての教育をさせられた。元々女顔だったのもあるからな」
と、いうことは……その環境が今もずっと続いている?
「それなら兄妹というのは」
「嘘だよ。俺はずっと一人二役やっていた。兄として、妹として。女装が趣味な男なんて気味が悪いだろ」
「その……イスラエル様は騎士様でもありますよね。訓練とかも大変でしょうに」
「ルカでいいよ。お前にはそう呼ばれたい」
ルカ・イスラエル様は、【死神騎士】として有名だった。
とても冷酷で残忍なんだと。目が合ったら殺される。そんな噂がある。
「ルカ様は……その、女装が趣味で?」
「趣味みたいなもんだろ。定期的に女装してんだから」
「そう、なのですね」
「引いた?」
「いや、なんというか……意外だなって。いつも遠くからしか見てなかったのですが、とてもクールな方という印象が強くて、可愛らしいなと……」
ふふっと、笑ってすぐにこれは失礼かと口に手を当てた。
敬語で話してしまうのは、混乱しているから。話したことのない相手がまさかの親友だったという現実に、どうすればいいのか分からない。
「す、すみません。失礼ですよね」
「そんな可愛いことを言うと、今度は唇に口付けたくなるんだけど」
また顎を持ち上げられた。
「な!?⠀ダ、ダメ!!」
顔を近付かれて、私は抵抗した。
「あ、赤ちゃん出来ちゃうから!!」
「……は?」
ルカ様はピタリと動きを止め、驚いた表情で私を見ている。
え、何。
変なことなんて言ってないはず……。
「もしかして……エラ。ランバート様ともその理由で??」
「そ、そうです」
もうなんなの?
「口付けすると赤子が産まれるってのは、誰かから聞いたのか?」
「??⠀両親です」
ルカ様は項垂れた。
「なるほど、納得だわ。お前の両親、過保護だからなぁ。仕方ない」
耳元で唇を寄せると、教えてくれた。
赤ちゃんが出来る行為を……。
みるみるうちに真っ赤になった私は言葉にならない叫びをしてしまって、ルカ様を見ながらパクパクと口を動かすが、声が出なかった。
「わかった?」
ルカ様は満足そうに笑う。
「わかりましたが、聞かせてください。どうして求婚なんて」
「……覚えてないのか。まぁ当然か」
「??」
「次に生まれ変わる時は幸せな結婚を約束しよう。俺はお前が好きだから、幸せになってほしい。死は始まりなんだ。新しい人生を歩むための……俺ら死神はきっかけを与えている。死して生まれ変わる道か、死んで終わる道。お前はどっちを選ぶ」
「その……言葉」
夢の中で少年が言った言葉そのまんまだった。
「あなたは一体……?」
「信じられないかもしれないけど、俺は転生……生まれ変わりなんだよ。死神の、な。死神は指定された魂を回収しなければ転生は出来ない。俺の場合、お前の魂で転生出来たんだ。最も、エラは覚えてなかったけどな」
あれは夢……じゃ、なかった??
「もしかして、同情して?」
「違う。好きなんだ。ずっと……お前が、愛おしくて仕方ない。ランバート様との婚約だって、本当は嫌だったんだ。でも俺はお前に女性だと思われている。だから何回も諦めようとした……。お前が幸せならそれでいいと。でも、日に日にエマに触れたくて……そんな欲望が大きくなって。そんな中、婚約破棄されたと聞いて、打ち明けようと決めたんだ。婚約破棄されたばかりなのはわかってるんだ。でも、このチャンスを逃すと……一生後悔すると思ったんだ」
そんなこと言われても……困る。今まで女性の友人として接してきたのにいきなり異性としてだなんて……。
「すぐにとは言わない。考えといてくれないか」
ルカ様は私の手の甲にそっと口付けをする。
「口説く時間はたくさんある。遠慮はしないから」
その真剣な瞳を見て、ドキッとしてしまった。
今は、女装しているのに……。こんなに胸がトキメクなんてことある!?
「だから、そんな顔をされると我慢出来なくなるんだよ。エラは愛らしいから」
「愛……らしい……だなんて」
恥ずかしすぎて、顔を見てられない。
私は顔を逸らす。
「自覚ないんだ。なら、これから教えるし、何度も言うから。エラは可愛くて、誰よりも美しい女性だ。愛らしいから触れたくなるし、もっと知りたいとも思う」
な、なんで、こんな甘い言葉を次々と……。
もうヤダ、恥ずかしい……。
こんな気持ちにさせて私をどうしたいのよ!!
「こんな気持ちが同情からだと思うのか。こんなにも、愛おしくてたまらないというのに」
あまりにも必死な表情に胸を高鳴らせながら、私は口を開く。
「……その、いきなりの連続で……混乱してるんですが、異性として意識してみようと思います」
恥ずかしくて気がおかしくなりそう。
こんなに真剣で必死に告げる彼を突き放すことなんて私には出来ない。
冷血だと恐れられている騎士からは想像もつかないような優しい笑みを向けた。
私はこの時に思ったんだ。
この人をもっと知りたいと……。
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