下
"この門をくぐる者は、一切の希望を捨てよ"
「ダンテの・・・叙事詩だっけ?あの有名な奴」
事を終えた後
私は、世間話でも と思い、話を振った。
他愛ないことではあるけど
彼は、ぐったりと疲れ果てている。
それもそうだ、首を絞めたのだから
きちんと、寸止めをして
「水でも持ってくるね」
そうして、冷蔵庫に向かおうとしたとき
ぎゅっと、袖を引っ張られた
すこし、涙を浮かべながら
動物が、甘えるかのように
彼は、そんな風に私を見ていた。
堪らなく、愛おしくなり
彼を、抱きしめた
甘い、甘い、甘い
それ一色だった
何か、灯が灯った気がした。
口付けをした
生まれて初めての
彼も、それに応え、強請ってくれる
彼の首なんかより、よっぽど
甘くて、甘くて、甘くて、甘くて、甘くて、甘くて
「ねえ」
強く手繰り寄せ、抱きしめながら
彼の耳元で、言う
「私が殺すまで、死なないで」
そんなことも、言ったなぁ
彼は、首を縦に振って
強く抱きしめてくれた。
・・・
ねぇ、
寂しいよ
彼は、いなくなってしまった
あっけなく、事故で
私の目の前で
勝手に
寂しいなんて、初めての感情だった。
ぐるぐると、気持ちが回る
目が回るような
嫌な気持ちだった。
うずくまって
始めて涙を流した
流して、流して
ぐちゃぐちゃになるまで
犯人を刺し続けた
二日後、久しぶりに外へ出た。
彼との、思い出の場所
彼に連れて行ってもらった
駄菓子屋
よく、飴とガムを買ってたなぁ
ゲームセンターの一階、エアホッケーがあるところ
ここで、彼とよく遊んでた
デパートの、アクセサリー店
ここで
彼に、指輪を買ってもらった。
2人分、おそろいの物を
勿論、安価なものだ
でも
とっても、嬉しかったよ
今更になって、涙が出てきた
いや、今だからかもしれない
微笑みながら、泣いている
愛していたし、愛してくれていた
彼に、会いたいから
右手の薬指にある、おそろいの指輪
それを少し触ってから、前を向く
「私も、そっちに行くね」
きっと、地獄だろうか
彼も私も、天国になんか、行けないから
フェンスを背にして、空を見上げる
愛してくれて、ありがとう
一緒に居てくれて、ありがとう
そんな、思いを馳せながら
彼の、"味"を思い出しながら
一歩、踏み出す
落ちて、落ちて
次も、キミと、一緒に
完結です