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流産

「三十」

そこまで日本の工業会がトップを維持できるだろうか「いえ二十年でお願いします」


「分かった。それは肝に銘じておこう」


羽黒が江留の背後であっと声を上げる。何かに気付いたようだ。


「それにはもう一つの利点があるな」


「利点、ですか」


 自分に思いつかなかった話が聞けそうだ。


「日本で死ぬ人が増えれば出生率は間違いなく増加する」


 麦原の言葉が蘇った。


「そうか、それに様々な国のドヴィジャが日本で生まれてくるかもしれないですしね」


「そんな重大な使命を、お前はこれから背負っていくというわけだ。頑張れよ」


 江留が肘で押してくる。


「なんか実感が湧かないな」


 バシンと背中を叩かれた。


「それがお前のいいところであり欠点でもある」


「銀山、お前まだ本気を見せていないだろう」


 羽黒からも駄目出しを食らった。


「本気、ですか。いつだって本気でやってきたつもりなんですけど」


「そんなことを言ってるから羽黒さんを殺してみたんだ。まあこれからは本気で取り組んでもらうから覚悟しておくんだな」


   付録


 二か月後、出社したところで同じく役員になった羽黒に呼び止められた。


「残念な報告がある」

珍しく沈んだ表情だった「江留が流産した」


「それは」


 残念です、とでも言えばいいのだろうか。


「なぜだと思う」


 精神的なショックは受けていないようだ。


「流産したということは、受精は完了していたということですね」


「そうだ。だからクンダリニーヨーガが成功していたとすれば女系継承ができたことになる。問題は流産が偶然だったか必然だったかということだ」


「必然なんてあるんですか」


「女系を検討したときの仮説を憶えているか」


「はい。あれは物理的理由か女性自身がそうしているか、他の理由かということでした」


「物理的理由が消えたと仮定すると、女性自身がしているという銀山の考えが浮上してきたことになる」


 理解できない。


「女性の意思は胎児には影響を与えないと思っていましたが」


 手をこちらに向けて打ち切ってくる。


「憶えているか、麦原さんが言った霊魂は欲望の塊だということを」


「はい。それが今回何か関係あるのですか」


「霊魂は一回の射精や排卵で、背後霊や守護霊のすべてが宿ってくるわけではない。そんなことをしたら一度に五人や十人は平気で生まれてくることになるからな」


「まあ、そうですね」


「おそらく出てくるのは競争を勝ち抜いた最強の者だけだろう」


「そう、いうことになりますか」


「その考えを使えば江留の体の中にはまだ多くの霊魂が残っていたことになる。そいつらは自分だけ若返ろうとする最強霊魂を見てどう思う」


「嫉妬するでしょうね」


「そうだ。男の場合は胎児が女の体に移ってしまうから手出しできない。しかし女の場合は同じ体の中にいる」


「当然怒り狂った霊魂たちは攻撃することになるでしょう」


 ニヤッと笑った。


「そして流産」

真顔に戻る「何の根拠もない理論だけどウパニシャッドに似た表現があったのを憶えているか」


 それなら分かる。


「胎児が母体を傷つけないというところですね」


「そうだ。母親と胎児は本来一つの霊魂となるはずだが、場合によっては傷つけ合っているのかもしれん」


 そう言い残して行ってしまった。たしかに科学的根拠はない。しかし可能性はあると信じていた女系による継承は、メカニズムとして完全に消え去った。


                                   了

ようやく完成しました。ここので読んで頂き、本当にありがとうございます。感想の一言を頂けるとうれしいです。よろしくお願いします

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