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桐島、始動

中断が入ってしまい申し訳ありませんでしたが、やっと再開することができました。今後は水曜日と土曜日の週二回更新で進めていきます。どうかよろしくお願いします

「どこまで進めた」


 議事録の小村に確認する。


「カーオーディオが必然かどうかです」


「ラジオは必要な場合もあるが、音楽は車の機能としては不要ではないのか」


「機能としては不要かもしれませーんが魅力としては有用でーす」


「魅力か」


「付加価値と言い換えーればどうでしょう。カップホルダーやトラッシュホルダー、アクセサリーソケットなど運転に必ず必要な装置とはいえませーんが、それが付いていないと車は売れませーん」


「ふむ」


 議事を取っていた小村が香取に何やら耳打ちしパソコンを預けて席を立つ。足音を立てないように桐島のところまで来て耳打ちした。


「手伝います」

桐島の返答に手の平を向けて返す。


「駄目です。議論に参加して下さい」


「それでは砂糖少な目でミルクをお願いします」


 小村が通常のペースに戻った。羽黒と麦原が戻ったのが理由だと思うが、自分のカルマがそれであると認識したのかもしれない。


 他にも気になることがある。桐島は自分の考えを押し付けると香取は言ったが今のところそういった態度は見せていない。


 視線を戻すと羽黒がニヤッとした。


「見えてきたな。新商品を開発する連中がどんな仕事をしているか知っているか」

「まずは市場調査でーす。アンケートで嗜好やニーズを確認して、何を作ったら売れるか調べるのでーす」


「そうだ。しかし同じことをしても案の出る者と出ない者がいる。その違いが分かるか」


 この答がドヴィジャとエーカジャの区別ということだろう。


「離れたところに思考が飛ぶかどうかだと思いまーす」


「いい意見だ。しかしそれだけじゃない」


 ここでもまた赤根氏の面談が思い出される。


「どっぷり浸かる。あるいはたまらなく好きになるということでしょうか」


「銀山、正解だ。食事の時もトイレでも風呂でも通勤中でも常にそのことが頭にないと出てこないんだ。おそらくそんな人は寝てる間も考えているだろう」


「すると一番目の課題はドヴィジャの思考が及ぶ範囲のすべて、ということになりますか」


「離れた物を目にする機会は偶然に左右されるが、それが目の前を通り過ぎる一瞬で気付くかどうかは心がどれだけ支配されているかで決まってくる」


「つまり四六時中考えていないとチャンスをものにできないということですね」


「誰もが思いつかない物に関連付けができるのがドヴィジャということだ」


「逆に言えば範囲を限定できないのがドヴィジャだとも言えまーす」


「ちょっと質問していいか」

香取の手が挙がった「誰も思い付かないものを関連付けられたら、その人はドヴィジャということか。しかし誰かの思い付いたことを応用すれば様々な関連付けができると思うが、それも皆ドヴィジャということになるのか」


「応用した時点でエーカジャだろう。ドヴィジャと呼ばれるのはあくまで最初の一人だけだ」


「羽黒くーん。今のが三番目の課題の答の一つでーす」


「三番目というと、ドヴィジャの誕生する条件か」


「ほーい。例えば自動車が売れなくなってきてメーカーが行わなければならないのは新しいデザインや機能、市場の開拓でーす。関係者がまだ売れているうちにそれを意識していれーば、その時生まれた子供が救世主となってくれーるでしょう。バラモンはもっとはっきりしていまーす。世が乱れてきて人間の力ではどうにもならなくなる前に望まれて生まれてくるのでーす。釈尊もイエスも望む人がいなければ生まれていませーん」


「なるほど、何かを切望した時に誕生するのだな。それが体の熱ということか」


「一緒だと思うのでーすが射精の時にそれを行うのは難しいのではなーいでしょうか」


「込めないことを考えれば簡単だと思うが。銀山はどうだ」


 この場で性の話題に敏感に反応してはいけないが、桐島が横にいることを意識しないことも難しい。


 そう感じたとき運よく小村がコーヒーを持って戻ってきた。テーブルに配られる間に息を調える。


「先日羽黒さんも言ったと思いますが体の熱と射精時の熱は別物だと思うんです。いかにドヴィジャといえど、性欲が勝ってしまっては体の熱を送り込むことはできないと思います」


「俺は江留とするために体の熱だけでなく性欲の熱も消した。男系でドヴィジャをつなげていくには俺のやったヨーガが必要なのではないか」


「それは分かりませーん。普段から体の熱を保っていれば性欲が一時的に勝っても送り込まれると思いまーす」


 不意に肩を叩かれ、顔の半分が重たげな髪で覆われた。


「江留さんや小村さん、平気な顔してるけど恥ずかしくないのかしら」


「仕事だから」


 そう言うしかなかった。一瞬驚いた表情を見せたものの、次第に落ち着いた顔になっていく。納得したのだろうか。


 これだけ女性がいる中で発言するのは自分だって勇気がいる。しかしそれを意識したら聞いている方が恥ずかしい思いをするはず。お互いに無意識を意識するしかないのだ。


 とにかく今はやる気になっている羽黒の勢いを止めたくない。


「現実にドヴィジャのすべてがヨーガを行いながら性交をしているとは思えないのです。そのことを意識しながら行為をするということではないでしょうか」


「その瞬間だけ意識を切り替えーるということですね」


 決め手がない状態で思わぬ人から手が挙がった。


「一つよろしいですか」


「桐島さん、でしたね。遠慮なく言って下さい」


「この議論に沿えば武士はクシャトリアということになりますが、室町時代の後期、応仁の乱の最中に下克上で身の危険を感じながらでも子は誕生してきました。というよりそういった状況だからこそ乱世を切り開く英雄が誕生したと思います。誕生に関してはこれ以上議論する必要はありません」


 言い切った。羽黒が口角を上げる。

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