第三話 欲求には勝てなかった
また気がつくと知らない場所にいた。
だけど、さっきのような灰色の世界ではなく、森の木々にもしっかりと色があった。
「ここはどこだ?」
正直、ここがどこの国かわからない。
帝国ではないことは確かなんだが。
「ん?」
どこかからか、戦闘音が聞こえてきた。
金属がぶつかり合う音と人の怒声と、魔物の鳴き声。しかも圧倒的に魔物の鳴き声が多い。
「まずいっ!」
俺は音がする方向に走った。
少しすると森から抜け、道に出た。
「…っ、様を守れ!」
「くそっ、悪しきゴブリンめ!」
そこでは馬車がゴブリンに襲われていた。
馬車の周りに騎士がいて、ゴブリンと戦っているが、相手が悪い。
ゴブリンは五十体ほどに対して、騎士は五名ほど。
圧倒的な数の差だ。
たとえ騎士一人一人の方がゴブリンよりも強くても、埋まらない数の差というものはある。
「《召喚・スケルトン》」
ーーーなら、その数の差を埋めてしまえばいい。
俺はスケルトンを召喚する。
剣士スケルトン五十体。
弓兵スケルトン三十体。
締めて八十体のスケルトンだ。
まず、弓兵スケルトンが矢を引いた。
だがこのままでは騎士に当たってしまうが、待ってやる暇はない。
「死にたくなければ馬車に隠れろ!」
俺の声を聞いて、騎士達は一瞬で判断した。
馬車の中に入り、身を守った。
これで矢は当たらない。
「放て!」
俺の声に合わせて、矢が一斉に放たれる。
まるで雨のような矢がゴブリンを襲う。
「次!」
次は剣士スケルトンだ。
ゴブリンが矢を恐れている間に前に出て、ゴブリン達を切り裂いた。
そして馬車を囲うように守りを固め、馬車の通り道を作ってやった。
「今だ! 逃げろ!」
「か、感謝する!」
騎士達は馬車で逃げていった。
どうやら、この道の先に街がありそうだな。
辿ってみよう。きっと街に辿り着ける。
「ギィギィ!」
「ギィイ!」
「ギィー!」
さて。残りのゴブリンは三十体ほどか。
「殲滅しろ」
俺の命令により、蹂躙が始まった。
しばらくしてゴブリンは片付いた。
一応、耳を剥がせてもらった。
討伐証明になり、金になるんだ。
「おお! ここが街か!」
騎士達が逃げていった道を進むと、街に辿り着いた。
しっかりとした壁があり、これなら魔物の群れが来ても大丈夫そうだ。
門の周りには門番が立っていた。
「街に入りたいんだが」
「それじゃあ、通行証か身分証は持ってるか?」
「いや、持ってないな」
「そうなのか? なら、少し高いが1000ミアを払ってもらうことになる」
財布から1000ミアを門番に渡した。
一応、勇者パーティ時代にはそれなりに稼がせてもらってたからな。旅の資金はばっちりだ。
「うん。確かに」
これで街に入れる。
とりあえず、適当な宿を取った。
流石に疲れているからな。
晩飯ついでに情報収集だ。
その結果、宿の女将さんからこの国はクローバー王国だと分かった。帝国とはライバル関係にあって、独自の戦力である、冒険者を保有している。その中でも、Sランク冒険者というのは勇者にも匹敵するらしい。
ちなみにこの街の名前は「フランメッツ」。王国の中では、それなりに大きい街の一つらしい。
そして話しの中で気になる情報があった。
「騎士団の墓?」
「そうさ。正確には、「救国の英雄」の墓だね」
「救国の英雄? 聞いたことがないな」
「まあ、あんたは他の国から来たみたいだし、知らなくてもしょうがないね。いいかい? 救国の英雄ってのはね……」
今から百年前。
王国を揺るがす大事件が起きた。
炎帝龍が王国に飛来したのだ。炎帝龍は街を焼き、人を喰らい、王国を滅茶苦茶にした。
三つの街が破壊され、このフランメッツが四つ目の街になりそうな時、彼らがやってきた。王国騎士団だ。
当時の団長だった、フレア・スカーレットがたった百名ほどしかいない騎士団を率いて、炎帝龍から王都を護ったのだ。
最終的に騎士団長のフレア・スカーレットが炎帝龍と相打ちにまで持ち込み、王国は滅亡を免れた。
その後、王国中の人が感謝し、街の中央にある大広場に騎士団長フレア・スカーレットの墓を建てた。
……ということらしい。
「それは、面白そうですね」
「だろう? 気になるのなら、行ってみるといい。夜は人通りも少ないし、じっくりと見ることができるよ」
「そうか、ありがとう。是非行ってみるとするよ」
面白そうだ。
特に、騎士団長の墓というのが。
騎士団長の骨はそのままの状態で保存され、ガラス越しに鑑賞できるそうだ。
是非、是非とも見てみたい。
炎帝龍を倒した騎士団長の骨を。
騎士団長の墓があるという、大広間までやってきた。すでに人は寝静まっていて、人は一人もいなかった。
「これが、騎士団長フレアの骨……」
思わず、うっとりと魅入ってしまった。
それほどまでに美しい骨だった。
俺は極度の骨フェチで骨や人の骨格を見ただけで、その人が生前にどんなことをしていたのかが判るんだ。
この女性、騎士団長のフレア・スカーレットと言ったか。彼女はきっと、努力家で真面目だったんだろう。特に訓練は欠かしていなかった。骨が擦れている箇所がある。両手の骨も少し傷ついてるな。この傷つき様はきっと大剣だな、フレアは武器に大剣を使っていたんだ。後は微かに骨に火傷?や焦げ目のような跡がある。おそらく、炎使いだったのだろう。
ああ、骨を見ただけで判る。
この人は素晴らしい人だ。
手が思わず、骨にまで伸びる。
だがなんとか止める。
ここでネクロマンスしてしまえば、この後に大変なことになる。
だけど、我慢できなかった。
「《ネクロマンス》!」
フレアをネクロマンスした。
その結果ーーー。
ドガァン!!
フレアの墓が爆発した。
失敗か?と焦ったが、成功のようだ。
爆炎の中から誰かが現れた。
「ここは、どこだ………?」
赤髪紅眼の女性だ。間違いなく騎士団長のフレア・スカーレットだ。眠たそうな顔で、目を擦っている。
服までは復活させられないから、全裸の状態だ。美しい胸の形、大きすぎず、小さすぎず、丁度いい大きさ。そう、美乳というやつだ。そして、お尻も良い大きいだ。揉みごたえがありそうだな。
そんなくだらないことを考えているとーーー。
「何かあったのか!?」
「場所は大広場だ!」
「なんだと! フレア様のお墓があるんだぞ!」
爆発音を聞きつけて、騎士団がやってきた。それだけではなく、衛兵や門番、街の住民達も起きてきた。
「っ! まずい、とにかく、一度俺の中に入ってくれ」
「了解した……」
「《棺》!」
俺は死霊術師として、死体を保存できる術を持っていた。それがこの棺だ。棺といっても、実際に棺の中に入るわけではなく、異空間の中に移動してもらって、必要な時に呼び出すことができる。
俺はひとまず、その場からバレないように宿まで戻った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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本日、12時と17時に一話ずつ投稿します。
ぜひ、そちらも見てください。