第二話 死の女神ペルセポネ
気がつくと俺は知らない場所に立っていた。
木も草も地面も空も雲も湖も、全てが灰色の世界だ。
「ここは、どこだ……?」
辺りを見渡しても誰もいない。
「ふふふ。私が答えてあげるわ」
「っ!」
突然、後ろから声がした。
俺は慌てて振り返った。
そこにいたのは美女だった。色が全て灰色の世界で、その美女だけは色があった。
腰まで伸びる銀色の髪に翡翠の瞳だ。顔以外の全てを隠す黒いローブを着ている。
「ここは死後の世界、かしらね?」
死……?
そうか、俺は死んだのか。
「あら? 驚かないのね」
「まあな。ガルバリンに腹を刺されたし、海に突き落とされたことも覚えてる。逆にあれで死ななかったら、俺は不死身じゃないか」
俺はガンバリンに刺された。
デュアスに蹴られ、内臓が破裂した。
そして崖に落とされ、荒波に呑まれた。
確実に俺は死んだ。
俺の記憶が、今も残る痛みがそう告げている。
「ふ、ふふふ、ふふふふふふふふっ」
すると美女は俯いて笑い出した。
そしてとうとう我慢できなくなったのかーーー
「流石よ、アレン!」
俺に抱きついてきた。
って、ええ!?
「ええ!?」
「冷静な状況分析! 普通の人間なら、ここに来た時点で逃げ惑うか、私に媚びるか、私を犯そうとする者がほとんどなのに! ああっ、可哀想に。あんな塵どもにいいようにされて、よく我慢したわね。偉かったわ、アレン」
褒められて、同情されて、褒められた。
美女の胸に押さえつけられ、柔らかいもので俺の顔は包まれる。
正直、幸せ。
「あ、あぶっ……」
「ああっ、ごめんなさい、アレン!」
だが流石に息が続かなくなり、ギブアップした。
そんなことよりも疑問があった。
「あの、貴女は一体……?」
「私は死の女神ペルセポネよ」
「え?」
「ふふふ。驚くのも仕方ないわね。これでも、帝国の絶対神ですもの」
そう。俺達、いや、アイツら帝国には唯一の絶対神がいる。
それが、死の女神ペルセポネだ。
帝国は侵略国家で、毎年必ず戦争をしている。
兵士たちは死を恐れる。だが、ペルセポネ教の教えは「死んでも幸せが待っている。何故なら、死ねばペルセポネ神に会えるのだから」、だ。ペルセポネ教の教えは兵士達の心の拠り所であり、希望でもある。
「ああ、あれは嘘ですよ。普通、死んでも神には会えません。基本的には書類を通して確認し、天国行きが地獄行きか、はたまた転生かを決めます」
衝撃の事実だった。
帝国の兵士はペルセポネ神に会うために死を恐れない軍隊となっている。
この事実を知れば、帝国軍は内部分裂することだろう。
「えっと、それならどうして俺は?」
「ああ、それは貴方が特別だからですよ。アレン」
また抱きつかれた。
でも、今度は優しくだ。
「これまで辛かったでしょう。もう大丈夫です。貴方は自由に生きていいのです」
「っ、自由……」
「そうです。貴方の夢のために生きなさい。私は貴方を応援しますよ、アレン」
ピカッと、俺の身体が光出した。
そのままふわりと浮く。
「でも、俺にはまだ帝国にやり残したことが……っ!」
「皇女リリスの事ですね?」
「そ、そうだ! リリスを助けないと……」
「そちらも大丈夫。私が必ず助けます」
「っ! で、でも……」
「私を信用してください。貴方の力の源は私なんですよ?」
「え?」
「私は死を司る女神。死霊術師の生みの親ですから。だから、親を信用してください」
ペルセポネの眼に嘘はなかった。
「わかりました。信じます。だから、必ずーーー」
そして、俺の身体は光の粒子となって消えた。
「ーーーええ。必ず、リリスを助けます」
ペルセポネは大切なものを抱き締めるように、胸の前で両手を握った。
「それにしても、あの塵どもめ。私のアレンになんて酷いことを……ッ!」
そしてすぐに豹変する。
ドス黒いオーラを発し、灰色の世界が震撼するほどの魔力を放った。
「覚えておきなさい。死の女神の男に手を出して、無事に死ねると……いえ、死んでも死ねると思わないことです」
この時、帝国の滅亡は確定した。
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