第一話 裏切り
今日からよろしくお願いします。
「……え?」
俺の腹に剣が突き刺さっていた。
何が起きたのか、分からない。
どうしてこんなことに。
ここはデースガルロ帝国の最北端。
海と隣接する崖上にあるダンジョン「海際の堅城」だ。
俺はデースガルロ帝国の勇者と一緒にパーティを組んでいた。
剣術なら並ぶ者なしと言われる、勇者ガルバリン。
あらゆる攻撃を受け止め、重量級の一撃で敵を屠る、戦士デュアス。
地形を変えてしまう極大魔法で要塞すらも破壊する、魔法使いのエリー。
あらゆる傷を癒やし、時には人の手足さえも再生させてしまう、時期聖女候補のカルナ。
そして、数万を超えるアンデッドを操ることができる死霊使いの俺、アレン。
この五人で帝国の勇者パーティを何年もやっていた。
俺はこのパーティに貢献してきたし、帝国にも全てを捧げて尽くしてきた。
だが、俺の扱いは酷いものだった。
「遅えぞ、ノロマアレン!」
勇者のガルバリンに怒鳴られ、すでに限界を超えている足を必死に動かす。
「ぶはははは! 情けねえなあ! そのくらいの荷物、俺様なら軽々と持てるぜ!」
じゃあ代わりに持ってよ、とは死んでも言えない。そんな事を言ったら、殴り殺される。
戦士のデュアスはいつもこうだ。俺が全員分の荷物を持ってヘトヘトになっているところに、自分の力自慢をしてくるんだ。
「はあ。遅いですね。このペースでは打ち上げに遅れてしまいます」
次期聖女候補のカルナだ。
この女、表では孤児院などに多額の寄付をしている心優しい神官、という設定だが、パーティ内では俺に悪口を言ったり、暴力を振るってくる。それに孤児院に寄付する金は俺の金だ。
「カタツムリみたーいっ! ダサいんですけど〜っ!」
箒で飛ぶのは魔法使いのエリーだ。
見た目は十歳前後の子供だ。年上の俺のことを舐めきって、いつも嘲笑ってくる。
生意気なクソガキだ。
これが俺の日常だった。
俺は死霊術師だ。死体を操る。
あまり好かれない職業だ。死体のメンテナンスをしなければいけないし、契約の時は死体に触らないといけない。
まあ、不遇職ってやつだ。
それでも俺が頑張っているのは、婚約者のためだ。
婚約者と俺の立場が少しでも良くなるように頑張っているんだ。
そのおかげか、帝国では死霊術師を嫌う風潮がなくなってきたと言える。
それだけでも頑張ってきた甲斐があるってもんだ。
そして俺は「海際の堅城」にやって来た。
「打ち上げがあるからよ! 来いよ!」
そう言って、ガルバリンが誘ってくれた。
誘ってもらったのは初めてだった。
俺は嬉しくなり、二つ返事でOKした。
そして、攻略したダンジョン「海際の堅城」を攻略した場所のすぐ近くの崖にやってきた。
と、思えばこれだ。
俺の腹は誰かに刺された。
俺の後ろにいる、誰かに。
「な、んで……?」
俺の後ろにいる仲間達を見た。
「ギャハハハッ!」
「ぷ、ふふふっ!」
「な、んで……? だってよぉ!」
「ダサいんですけどぉ!」
ーーー笑っていた。
俺が血を吹き、苦しんでいるのを嘲笑っているんだ。
「ーーー死ね。アレン」
俺の腹を刺しているのはガルバリンだった。
急所が外れている。いや、剣の達人のガルバリンがそんなミスをするわけがない。
俺を苦しめるためにわざと外したんだろう。
「そん、な……。俺は、パーティのために、帝国のために……」
「帝国のためと思えるのなら。……死ね、アレン」
「………え?」
そこにいたのは帝国の皇帝だった。
「皇帝、陛下? なぜですか? なぜ、俺を……」
「お前はもう無用だ。死霊術師は評判も悪いしな。汚い死体を操って、衛生的にも悪い」
鼻を摘んで、顔の前で手を振る皇帝。
ふざけるな、俺の死体からは死臭はしない。
「それだけで、たったそれだけで俺を殺すのか!? リリスが黙っていないぞ!」
リリス。
この国の第一皇女で俺の幼馴染、そして俺の婚約者でもある。
リリスは強かった。
皇女という立場がなければ、勇者パーティの一員になっていただろう。
そんな彼女は俺のことを愛している。
断言できるほどに彼女を、俺は信頼している。
きっと俺のことを助けてくれるはずだ。
だが。
「それも心配ない。ガルバリンとリリスの婚約が決定したのだ」
「っ!」
そんなの、信じられるはずがない。
だって、だって……。
「そんな、そんなの嘘だ!」
「嘘じゃないさ」
「俺と皇女、リリスは恋人なんだぞ!」
「今は、そうだな」
「は? どういう……」
俺にはその意味がよくわかっていなかった。
だが、次の一言で全てを理解する。
こいつらの悍ましい考えを。
「お前を死んだことにするのだ」
「え?」
「そしてお前の遺言として、こう残そう。『俺は死ぬけど、ガルバリンなら君を幸せにできる。彼と結婚するんだ』と、な」
「この、クソ野郎がぁぁああああっ!」
頭に血が上って、気がつくと皇帝に殴りかかっていた。
「おら、よっ!」
俺の目の前に突然、デュアスが現れた。
腹を蹴り上げられ、内臓が破裂した。骨も何本か折れた。
「ゲフッ……」と血を吐く。
そのままの勢いで俺は崖に転がり落ちた。
「消えろ。じゃあな、美しいお姫様をありがとう。美味しくいただくよ」
最後に見た光景は、ガルバリンの汚いニヤケ面だった。
「ーーーくそっ」
俺は海に落ちた。
その後の記憶は、ない。
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