表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬割り騎士  作者: ドラキュラ
7/49

第三章:2人の寝息

 強大で邪悪な者・・・・・・・・


 聖職者として打倒すべき存在なのは変わらないと小聖職者は答えを出した。

 

 だが・・・・・・・・


 『その存在を創生しているのが・・・・私達---聖職者というのが問題ね』


 対を成すべき存在が邪悪なる者を創生している皮肉に小聖職者は心を痛めずにはいられなかった。


 しかし全聖職者が邪悪な者を創生している訳ではない。


 それは自分が生まれ育った修道院やヴァエリエで活動している現司教を見れば一目瞭然であるが・・・・・・・・


 『今、王国全土は・・・・聖教に対する怒りに包まれている』


 何せ聖教の暗部が一気に立て続けに露呈したのだから無理もないが・・・・当の聖教は今も野心を燃やしているのも事実だ。


 現に今ソワソンから感じる邪悪な気が如実に物語っている。


 それを先ほど男は見逃さないと言い、小聖職者自身も聖職者の卵として見過ごすつもりはない。


 ただ・・・・・・・・


 『果たして倒せるの・・・・・・・・?』


 魔力探知機が粉々に砕け散る辺り相手は相当な邪気を持った相手だ。


 そんな輩を倒せるのか?


 いや、それ以前にソワソン地方に住む民草達が自分達に協力してくれるのかさえ小聖職者は疑問だった。


 何せ暗部が露呈し王国全土で反聖教運動が起こっているとはいえ聖教が統治する荘園に住む民草は聖教が領主と言う考えを持っている。


 中には聖教の企みを知りながら敢えて協力する人間も居る。


 ここを考えると果たして・・・・・・・・


 「・・・・・・・・」


 小聖職者は徐に焚火を見つめた。


 焚火は風などの影響で上へ横へと時たま移動するが、それを見るだけで小聖職者は心が安らいだ。


 それは焚火が持つ独特の力と思っている。


 そして焚火の温かさによって・・・・小聖職者はウトウトし始めた。


 しかし男は黙って薪を焚火に投げては火を絶やさないようにしている。


 「あ、あの・・・・・・・・」


 「明日は今日より歩くから早く寝ろ」


 「ですが・・・・・・・・」


 貴方は眠らないのかと小聖職者は言おうとしたが青年はジロリと空色の双眸で睨んできた。


 「俺は寝ろと言ったんだ。早く寝ろ」


 強い口調で言われた小聖職者は抗う気を一気に失った。


 それは「あの件」からだ。


 目の前の青年はあの時も有無を言わせない口調で言うことを聞かせたが・・・・今もそうだ。


 「・・・・分かりました」


 小聖職者は青年から視線を外し自分が背負っていた行嚢の紐を解いて中から簡素な毛布等を取り出し寝る準備を始めた。


 準備を終えると小聖職者は毛布に包まってから青年に眠りの挨拶をして眼を閉じた。


 直ぐ側では焚火が燃える音が聞こえてくる。


 そして焚火の温かさも毛布越しに伝わってきた為か?


 小聖職者は見る見る内に眠りの世界へと旅立った。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

 青年はスヤスヤ眠る小聖職者を焚火越しに見つめていた。


 小聖職者は年齢もあってか、酷く幼い印象を受けるが青年には関係ないのか直ぐ新しい薪を焚火に放り投げた。


 そして粉々に砕けた魔力探知機の事を思い出す。


 『あれが壊れるって事は・・・・かなり強いんだな』


 自分が召し抱えた魔術師兼「土木家」は魔力探知機をこう説明した。


 『私が作った魔力探知機はかなり強力な魔力にも耐久性があります。しかし、完全ではありません。そう・・・・余りにも強大な魔力などは探知する前に壊れます』


 この言葉を聞く限り・・・・ソワソン地方に居る敵は計り知れない邪悪な気を持つとなる。


 「ふんっ・・・・腐れ宗教がやりそうな事だ」


 青年は聖教に皮肉を言ったが、それは旅などで体験した聖教の浅ましい姿を知っているからだ。


 もっともヴァエリエで暮らしていた時から人間の醜悪な面は見てきたから聖職者だろうと汚い部分はあると認識はしている。


 しかし問題なのは・・・・・・・・


 「俺の統治する土地の直ぐ近くで問題を起こす事だ」


 他の所で好きにやれと青年は愚痴るが、直ぐ今後の事を考えた。


 『俺と小娘が来れば直ぐ敵は素性を探るだろうな・・・・・・・・』


 これは旅の経験と、自分に従う「騎士」の言葉からきている。


 『御曹司。貴方が追い掛けている彼の書籍にも書いてある筈ですよ?敵を知り、己を知れば100回戦っても負けやしません。つまり・・・・御曹司が行けば先ず敵は御曹司を調べる筈です』


 それから手を打ってくると騎士は言ったが・・・・・・・・


 「俺だって馬鹿じゃねぇよ」


 青年はクッと笑いながら左の指につけた指環を口元に近付けた。


 「おい、聞こえるか?」


 青年が指環に声を掛けると・・・・・・・・


 『えぇ、聞こえてますよ。御曹司』


 指環から男の声が聞こえてきた。


 これは魔石を使った通信手段の一種で、魔術師ではない旅人、あるいは傭兵などが好んで使っている。


 もっとも魔石の単価自体が高いので持てるのは少数に限られているが・・・・・・・・


 「今、何処に居る?」


 『まだ出発していません。御曹司が留守にしたから事務屋が大変なんですよ』


 魔石から聞こえる声は何処か人を食ったような口調だったが、それに青年は怒りもせずこう言った。


 「それなら事務屋に言っておけ。俺が帰るまでに仕事を終わらせておけと」


 出来なかったら半年の減給にすると青年が言うと・・・・・・・・


 『総大将、そのような脅しは控えて下さい。あの者は地道に仕事をこなしている。そこへ脅しなど言って急かしては心労で倒れかねません』


 魔石から別の声が聞こえてきた。


 その声は最初の声に比べると年を取った声だった。


 「だったら土木家に伝えておけ。もう少し事務作業を効率よくこなせる道具を作れと」


 『それなら引き受けましょう。それはそうと・・・・貴方の後を一人、追い掛けた修道女は大丈夫ですか?』


 貴方が一人で行ったと知るや直ぐ荷物を纏めて追い掛けてしまったと言われ、青年はチラッと小聖職者を見た。


 「今は寝ている。まったくチンチクリンといい・・・・頑固な女だ」


 『貴方が“彼”を追い掛けているのと同じです』


 暗に自分も似ていると指摘される台詞を言われた青年はふんっと鼻を鳴らした。


 「そいつは悪かったな。それで・・・・お前等はどれ位でソワソンに来れる?」


 俺の方は2~3日もあれば行けると青年が言うと・・・・・・・・


 『明日には我等も出立するので恐らく3~4日後と思われます』


 「それなら良い。どうも・・・・今回は手強い相手そうだからな」


 『・・・・ほぉ、貴方の口からそのような台詞が出て来るとは・・・・また彼の邪教は悪巧みをしていますか』


 再び魔石から新しい男の声が聞こえてきた。


 しかし最初の2人に比べると陰険と冷淡な感じが極めて強く話すのでさえ嫌悪する者も居そうな声だ。


 だが青年は直ぐ答えた。


 「あぁ、そうだ。しかし・・・・お前には留守を護れと命じた筈だぞ。“ヤモリ”野郎」


 青年は声の人物をヤモリと称し咎める口調で喋ったが、ヤモリと称された男はこう答えた。


 『確かに貴方様からは留守を守れと命じられましたが・・・・私が剣を捧げた“御婦人”からは貴方を護るよう頼まれました』


 私にとって御婦人からの頼みは主人の命令より優先される事だとヤモリは断言した。


 「ちっ・・・・陰険な性格のくせに紳士だな」


 『陰険な性格だから・・・・あの手の女性を大事にするのですよ。それは貴方も同じでは?』


 「・・・・知るかよ」


 ふんっと青年は再び鼻を鳴らしたが、魔石の近くに居る者達が嘆息するの音を聞くと青年はこう言った。


 「とにかくソワソンに俺と小娘は先に行って現状を調べる」


 『調べるって兄貴が?悪い事は言わないから止めた方が良いよ。兄貴だと知らべる前に何でもかんでも壊しそうなんだからさ』


 また魔石から別の男の声が聞こえてきたが、その声は4人ぶん聞こえてきた男の声の中では一番若かった。


 しかし例に漏れでは語弊があるかもしれないが・・・・中々にズバズバした物言い方である。


 「山奥の僻地で育った“野生児”である、てめぇと一緒にするな。俺だって調べるくらい出来る」


 『・・・・・・・・』


 青年の言葉に魔石からは無言が返ってきた。


 それは青年の性格が如何に乱暴で破壊に特化しているか知っているからだろう。


 青年は無言となった魔石を粉々にしたい怒りを覚えたが何とか抑えた様子でこう言った。


 「・・・・とにかく早く来い。以上」


 『承知しました。我等が総大将』


 これを聞いてから青年は指環を口から離した。


 「たくっ・・・・揃いも揃って好き放題に言いやがって」


 愚痴を再び青年は零したが焚火に新たな薪を放り投げた。


 しかし、それ以上は大丈夫と考えたのか腰から外した愛剣を左肩に当てると腕を組んで眼を閉じた。


 そして暫くすると小さな寝息が聞こえてきた。


 そんな2人を凍えさせないように焚火は燃え続けたが、その炎は何処までも優しい感じであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ