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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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幕間:恋しくも倒すべき相手

 既に黄昏の時間になった森林の中を青年は一人で歩いていた。


 しかし、その足取りは荒々しく苛立っているのが目に見えていた。


 「たくっ・・・・あの小娘には参ったぜ」


 愚痴を零しながら青年は野宿する場所に居るだろう小聖職者に怒りを滲ませたが・・・・・・・・


 「・・・・先ずは焚火の枝探しだな」


 それが無いと凍え死ぬと言いながら青年は愚痴を中断し周囲を見回した。


 そして目当ての物が見つかったのか、手斧を握り直し・・・・その目当ての物へ歩み寄る。


 青年が見つけたのは倒木だった。


 その倒木に近付いた青年は手頃な太さの枝に狙いを定めると手斧を振り下ろした。


 手斧は枝に食い込むと左右に割れて倒木から切り離された。


 それを青年は後ろ腰に装備していた袋から取り出した紐の上に置き、次々と枝を叩き割るようにして倒木から離した。


 周囲を見れば手頃な枝はゴロゴロしている。


 だが、その枝はまだ「生きている」木から生えた枝だ。


 ここを青年は嫌がったのだろうと思わせる台詞を発した。


 「自然の“恵み”から得る物で暮らせ・・・・だったか?」


 青年は手斧を見つめながら呟いた。


 この言葉を言ったのは自分が倒すと宣言した「恋しい宿敵」が言った台詞だ。


 「確かに・・・・正しいぜ」


 青年は恋しい宿敵が言った台詞に同意した。


 それは今まで旅した中で・・・・どれだけ自然の恵みで助かったか分からないからだ。


 特に目の前に在る倒木は時に椅子となり、時に屋根となり、時に寝台となった。


 生きている木でも出来なくはないが・・・・既に命が終わった倒木だからこそ出来る面があると男は思わずにはいられなかった。


 現に倒木の割れた間から虫が出て来た。


 倒木の割れ目から出て来た虫は幼虫だったが、外に出て蛹へなる準備段階に入ったのだろう。


 しかし運悪く空から飛来した鳥によって食われてしまったが・・・・その鳥は更に大きな鳥によって食された。


 何とも残酷な光景に見えるが・・・・これこそ恋しい宿敵が言った自然の恵みだと青年は思った。


 恋しい宿敵は「生命は一つの輪で成っています」と言った。


 草木を虫が食べ、その虫を鳥が食べ、その鳥を更に大きな鳥・・・・或いは動物が食べ・・・・その動物を別の動物が食べた末に・・・・人間が食べる。


 魔物に至っても同じだ。


 このように一つの輪で生命は繋がっていて、同時に自然の前では自分みたいな人間なんて「小さな存在」と思い知らされると・・・・その相手は語った。


 それは自分も仕事と修行の「合間」を見て旅をした中で理解している。


 しかし・・・・自然の前では自分なんて所詮は小さな存在だが・・・・・・・・


 「・・・・あいつに勝ちたい」


 ギュッと青年は手斧を握り締め心中を独白した。


 宿敵は自分より高い所に今も居る。


 そして今も努力し・・・・更に高みへと行こうとしているのが青年には容易に想像できた。


 だからこそ・・・・青年は言った。


 「・・・・待っていろ。俺は・・・・必ず・・・・お前と同じ位置に立った末に・・・・勝つ」


 青年は手斧を握り直すと倒木の枝を薪に仕えそうな分だけ叩き折ると、別の倒木を探し、その倒木からも必要な分だけ枝を叩き折った。


 そして必要な分の薪を用意すると今度は周囲を見回し食べられる草木を探し、それも必要な分だけ積み取る。


 ただし・・・・その必要な分には・・・・あの小聖職者が食べる分もある辺り・・・・・・・・

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 青年が戻って来ると小聖職者は椅子代わりに座っていた石の上でスヤスヤ眠っていた。


 その表情からは疲労が伺え、必死に自分を追い掛けて来た様子が垣間見えた。


 「・・・・・・・・」


 青年は小聖職者の頑固な性格に呆れたが、小聖職者は自ら立てた誓いを守る為に来たと言った時の表情を思い浮かべた。


 あの時の表情は確固たる「自我」を持っていた。


 そして自分に追い付いた辺り根性もある。


 確固たる自我を持ち、根性もある相手を・・・・青年は嫌いではなかった。


 「たくっ・・・・あの“チンチクリン”といい、この“チビ娘”といい・・・・・・・・」


 青年は嘆息したが直ぐ気を取り直したように体の良い枝3本を纏めた。


 そして荒縄で上の部分を縛り即席の三脚を作ると風向きを確認してから三脚を置いた。


 次に青年は足首に巻いていた鞘から鋸状の両刃が特徴の短剣を抜くと地面を軽く掘り出した。


 「・・・・こんなもんか」


 ある程度まで掘った青年は枝と、ほぐした麻縄、そして「炭化」させた綿布を置いた。


 枝は小さい物を最初に使うのか、小さい枝しかない。


 「・・・・・・・・」


 青年は小さい枝と、ほぐした麻縄、炭化させた綿布に「火打石鎌」を近付けて着火に取り掛かった。


 火打石鎌を使って黒曜石の火打石を削るように擦り火花を散らした。


 すると炭化させた綿布に火花が飛び移って火が点いた。


 それを青年は両手で風から守るようにすると息を吹きかけ大きくして麻縄、そして枝に移す事で火を大きくする。


 麻縄、枝に火は飛び移り忽ち小さな火となった。


 「・・・・何とか成功したな」


 満足そうに笑いながら青年は枝を順に足して行き火を大きくし、ある程度の大きさにすると3脚を焚火の間に置いた。


 そしてボンサックから鉄瓶を取り出すと、水を入れてから3脚の上に結んだ紐に鉄瓶の取っ手を結び付けて吊り下げた。


 すると鉄瓶は焚火の下で忽ち沸騰を始めるが青年は黙ってボンサックから別の物を取り出す。


 新しくボンサックから出て来たのは木製のカップと、干し肉、ソーセージ、ジャガイモだった。


 干し肉を齧りながら男はソーセージとジャガイモを細い枝を削って作った串に刺すと焚火近くに突き刺して炙り始める。


 すると匂いを嗅いでか・・・・小聖職者が目を覚ました。


 「おはよう。食い意地の張った聖職者様」


 ニヤリと青年は笑うが端から見れば「意地の悪いガキ大将」にしか見えない辺り青年の性格を物語っていた。


 それに対して小聖職者も心得ていたのか・・・・・・・・


 「あの・・・・眠っていて・・・・ごめんなさい」


 萎れた花みたいに謝った。


 「別に気にしてねぇよ。それより・・・・食えよ」


 青年は萎れた花みたいになった小聖職者に干し肉を差し出した。


 「これ・・・・猪の肉ですか?」


 青年から受け取った干し肉の素材を小聖職者は尋ねた。


 「あぁ、猪の肉だ。熊は臭いがキツイから嫌いなんだろ?」


 「え・・・・?お、憶えていたんですか・・・・・・・・」


 小聖職者は思わぬ青年の発言に驚きつつ尋ねた。


 「あぁ、憶えていた。まぁ俺一人だけなら熊の肉で良かったが・・・・気分を変えて猪にした」


 文句あるかと問う青年に小聖職者は首を横に振り干し肉を頬張った。


 「はぁ・・・・美味しい・・・・あむ・・・・あむ・・・・」


 干し肉を小聖職者は本当に美味そうに食したが瞬く間に食い終えると直ぐ次の肉を求めるような視線を青年にやった。


 「ふんっ。体形に似合わず“大食家”だな。相変わらず」


 「た、体力を・・・・付ける為です」


 小聖職者は青年の皮肉に赤面しながら言い返した。


 しかし、その言葉に青年は何か感じ取ったのか空色の瞳を細めた。


 「・・・・“あいつ等”から助言でもされたか?」


 「・・・・・・・・」


 青年の言葉に小聖職者は無言となったが、それこそ青年には明確な答えとなったのだろう。


 「たくっ・・・・俺が取り立てたのに俺よりも女を優先するか。まったく“良い性格”しているぜ」


 青年は皮肉気に笑うが、その笑みを見て小聖職者は敢えて別の話題を投げた。


 「ソワソン地方に広まっている噂を・・・・知っているから行くのですよね?」


 「あぁ、そうだ。生憎と俺は自分が統治する領土の近くで・・・・獣が騒いでいる土地を見逃すつもりはない」


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