終章:騎士団総長
「それで少年はどうしたんですか?」
子供達の父親は語り終えた老剣士に問いを投げた。
しかし子供達同様に続きを早く聞きたい様子だったのを老剣士は察したのだろう。
温かい微笑みを浮かべた。
「騎士達が去った後、少年は再び一人で暮らし始めましたが向こう傷を持ち、敵わぬとはいえ魔獣に挑んだからでしょうか?」
誰も以前のように少年を悪く言ったりはしなかったと老剣士は語った。
「ですが少年は傲慢にならずに騎士達から教えられた技術を磨き続けました」
朝から晩まで・・・・雨の日も・・・・風が強く吹く時も・・・・雪が降った時も・・・・・・・・
「これは言うまでもなく・・・・犬割り騎士様と再会した際は一緒に戦う為でした」
そんな少年の努力が実を結んだのか?
15歳になると夢で見たように冒険者になり村を出たと老剣士は語った。
だが、その日は今も憶えているような語り口だったのが興味深いが父親も子供達も話に夢中なのだろう。
気付かない様子だったが、それこそ老剣士は狙っていたのだろう。
静かに「その時」の心境を語った。
「村を出る時・・・・今まで育てた人々に感謝しながら村を出たのですが・・・・心はウキウキしていました」
この先に果たして何が待っているのか?
「考えるだけで心は弾みましたが、不安な気持ちもありました」
「・・・・騎士達と再会を果たせるか・・・・ですか?」
子供達の父親の問いに老剣士は静かに頷いた。
「えぇ。何せ・・・・既に騎士達はオリエンス大陸には居なかったからです」
「えっ?犬割り騎士は領主じゃないの?」
「領主なのに他の大陸に行っちゃったの?」
「それって駄目じゃないの?」
立て続けに疑問を投げる子供達に老剣士は苦笑しながら一つずつ答えた。
「先ず犬割り騎士様が領主ではないのかという質問に答えると今もサルバーナ王国の貴族だよ」
爵位は最初こそ子爵だったが魔獣退治を皮切りに多大な功績から今は辺境公爵になっていると老剣士は説明した。
「次に領主である犬割り騎士様が他の大陸へ行くのはどうかという質問に答えると・・・・これも問題なかったよ」
犬割り騎士達が生きた時代は俗に「大動乱時代」だった事もあると老剣士は説明した。
この大動乱時代とは五大陸の様々な国で天災あるいは侵略または内乱が多発した時代を表している。
もっともサルバーナ王国では更に意味のある時代でもあったが・・・・・・・・
「君達の年齢では、まだ詳しい内容は教えてもらってないだろうから本で調べなさい」
そして分からない点は先生や両親に聞きなさいと老剣士は言い、犬割り騎士達と少年の続きを語った。
「オリエンス大陸を出た犬割り騎士様達が向かったのは南北大陸でした」
何で南と北に挟まれた大陸に行ったのかと子供達の父親は考えたのだろう。
暫し無言となった。
対して子供達も考え始めたが、老剣士には微笑ましい光景なのだろう。
温かい微笑みを浮かべながらジィッと見つめていた。
しかし子供達が先に答えを見つけたのだろう。
老剣士を見て声を揃えて言った。
『水の騎士がどっちかの大陸に渡ったから!!』
「あぁ、正解だ。水の騎士はセプテントゥリオーネス大陸に渡ったのさ。そしてメリディエース大陸には・・・・・・・・」
「“馬車の戦士”が戻ったからよ」
老剣士は自分が言うより先に答えた人物を見た。
その人物は黒と紫を主にしたドレスを着た老婦人だった。
傍らには護衛と思われる8人の老人が控えていたが、その老人達の後ろにも一人の老婦人が居た。
「やぁ、来たかい」
「来たかじゃありませんわ。妻である私を置いて自分一人でさっさと行くんですから」
仮にも夫ならエスコートして下さいと老婦人は腰まで伸ばした白髪を右手で撫でながら老剣士に苦言を呈した。
「しかし、久し振りに彼等と一緒に旅したから楽しかったんじゃないかな?」
図星を指された老婦人は恨めしそうに老剣士を睨んだが勝てないと解っていたのだろう。
「仲間達と旅したので楽しかったのは否定しませんが・・・・どう思いますか?」
老婦人は黙っていた老婦人に問いを投げた。
「まぁ彼の気持ちも解るけど・・・・仮にも私の亡き夫から“副王”の地位を与えられたんだから自重しなさい」
今は皆、隠居した身だが、それでも好き勝手には出来ないと老婦人は言い、ここに来るまで苦労した出来事を話した。
その話を聞いて子供達の父親は瞠目した。
何せ副王という地位を老剣士は頂いたと老婦人は言った。
更に老婦人が語った苦労話を合わせると・・・・・・・・
「確かに私は貴女様の亡き夫---大王様から副王の地位を与えられましたが、副王の前に私は大王の御側を護る“親衛騎士団総長”にして“特級冒険者”です」
老剣士の言葉に老婦人は言い返したが、それにも子供達の父親は驚愕した。
何せ騎士団総長も特級冒険者も簡単にはなれない地位だからだが、それに対して老婦人は鼻を鳴らした。
「それなら私だって“特級冒険者”の肩書きを持っているわ」
「大王の側妃」の前に・・・・・・・・
こう老婦人が言うと残った老人達と、老婦人も自身の肩書きを言い始めた。
その肩書きを聞いた子供達は素直に凄い御爺ちゃんと御婆ちゃんと思ったが父親は違う。
何せ自分みたいな一平民では死ぬまで会えない人間と対面しているからだが、それ以前にヴァエリエに流れていた情報が頭を過ぎった。
『三大陸から国賓が一度に来るらしい』
これを仕事の傍らで「へぇ、そうか」と軽く聞いていたが・・・・まさか国賓と自分が小一時間も一緒に居るとは夢にも思わなかったのだろう。
「・・・・も、も、申し訳ありません!!」
父親は勢いよく立ち上がると深々と老剣士に頭を下げた。
しかし老剣士は笑いながら父親の謝罪を受け流して子供達に話の最後を語った。
「犬割り騎士様は水の騎士と馬車の戦士がそれぞれの大陸に渡った後に自身も南北大陸へ渡ったんだよ」
そして当時の南北大陸を治めていた敵を打倒し、自らが新たな統治者になったと老剣士は語った。
「この情報を入手して私は後を追い掛けようとしたんだけど・・・・その時に皆と出会ったのさ」
老剣士の言葉に子供達は老人達を輝いた眼で見た。
その眼が老人達には若かりし頃の自分達と重なって見えたのだろう。
「皆で南北大陸へ渡る際に大冒険をした」と語ってみせた。
そして南北大陸へ渡った後に亡き大王と再会したと語ってから自分達の名前と職業を名乗った。
それに道行く人間達は驚愕した表情を見せた。
何せ何れの名前も半世紀が経った今も光り輝いているのだから無理もない。
しかし老人達は気にした素振りを見せなかった。
それは自分達が仕えた主人の銅像が高々と立っているからに他ならなかった。
「・・・・最後は私だね」
老剣士は皆が名乗りを終えると静かに腰を上げた。
「・・・・・・・・」
立ち上がった老剣士は太陽に照らされて輝く犬割り騎士達を暫し見つめた後に高々に名乗りを上げた。
その名乗る姿は犬割り騎士達のように光り輝いており、誰もが足を止めて老剣士を見た。
銅像は何も言わないが老剣士には再会した際に言われた言葉が頭に浮かんだ。
『十数年振りだな。しかし、皆の眼もある。名乗れ』
十数年振りに再会した主人は年を重ねたからか、最初より威厳があった。
しかし眼の奥は最初と変わらなかった。
それを見抜いたので老剣士は高々に名乗ったが・・・・今も再会した時と同じように名乗った。
「アルメニア・エルグランド大公国大王“右脇侍”を守護する“蕨手帯剣騎士団総長”・・・・・・・・!!」
老剣士の名乗り声に誰もが足を止めて聞き入ったが、老剣士の眼に映ったのは・・・・・・・・
犬割り騎士 完
これにて物語は終了となります。
12時までには完結させたかったのですが間に合いませんでした(涙)
ですが今年も頑張って執筆してくので今後とも宜しくお願いします!!




