第二十九章:魔獣の攻撃
フランシス修道院長の腹に噛み付いた魔獣は喉を潤すように血を吸い出した。
ゴクッ・・・・ゴクッ・・・・ゴクッ・・・・・・・・!!
勢いよく飲む姿は、荒々しいが対照的にフランソワ修道院長は見る見る内に骨と皮になっていく。
「ち、ちが・・・・う・・・・私では、ない・・・・!!」
骨と皮の体に変貌していく中でフランシス修道院長は弱々しい声で魔獣に語り掛けた。
「私ではなく、あの小僧・・・・・・・・おっ!?」
フランシス修道院長の声が耳障りなのだろう。
魔獣は首を軽く横に振った。
すると骨と皮だけとなったフランシス修道院長はオグル達の方に小石みたいに転がった。
「うっ、うぅ・・・・ば、馬鹿なっ・・・・こんな、事が・・・・・・・・!!」
オグルの一匹にしがみ付くようにフランシス修道院長は左手を回した。
そして現実を受け入れられないとばかりに首を横に振る。
しかし魔獣はフランシス修道院長の現実逃避を阻止するように・・・・左手首も噛んだ。
「ギャアッ!?」
左手首も噛まれたフランシス修道院長は悲鳴を上げ、魔獣を罵声した。
「は、放せ!たかが獣が私に・・・・・・・・!!」
フランシス修道院長の罵声を無視するように魔獣は噛んでいたフランシス修道院長の左手首を食い千切った。
それにフランシス道院長は再び悲鳴を上げたが・・・・魔獣は黙らせようとのし掛かるや喉首を噛んだ。
「!?」
これにフランシス修道院長は目を見開かせたが、両手首を食い千切られた事もあり抵抗らしい抵抗は出来なかった。
そのため魔獣に容易く喉首を食い千切られると・・・・アッサリ事切れた。
完全に事切れたフランシス修道院長は生気を失った眼で天を見上げる。
しかしオグル達は見向きもしない。
いや、それどころか「喧しい声」が聞こえなくなり満足そうな表情を浮かべている。
それは魔獣も同じだったのだろう。
完全に沈黙したフランシス修道院長を食らい始めた。
グシャッ・・・・・・・・
強靱な顎でフランシス修道院長の腹を食い千切った魔獣は皆に自分の強さを見せ付けるように咀嚼した。
バリ・・・・ボリボリ・・・・バキィッ・・・・・・・・!!
魔獣が咀嚼する音と姿を少年はジィッと見ていたが、強い嫌悪感を胸に宿していた。
それは魔獣が自分の強さを見せ付けるようにフランシス修道院長を食らっているからだ。
普通の動物なら自分の強さを見せ付けるような食い方はしない。
ただ腹を満たす為に食う。
ところが魔獣は強さを見せ付けるように食っている。
「・・・・悪しき獣」
少年は魔獣を見ながら呟いた。
「あぁ、そうだな。まさに聖教の薄汚い本性だ」
少年の呟きに青年が真っ先に相槌を打った。
「おい、小娘。こいつの側から離れるなよ」
「言われなくても・・・・解っています」
青年の指示に小聖職者は何時になく厳しい声で答えると少年を護るように立つと詠唱を始めた。
それが魔獣やオグル達にはフランシス修道院長の声より煩わしいのだろう。
地を揺らすような雄叫びをどちらと言わずに上げた。
そして襲い掛かって来た。
魔獣達との最終決戦の始まりである。
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小聖職者に護られるように少年は立ちながら青年達の戦いを見続けた。
『死ね!人間ッ!!』
『食わせろ!!』
2匹のオグルが青年に左右から襲い掛かったが、その2匹の両脚を青年は薙刀で斬った。
2匹の両脚は立った状態で体から離れた。
当然2匹は悲鳴を上げたが青年は間髪入れずに2匹の首を刎ねた。
そして半月状の石突で背後から襲い掛かって来たオグルの首を薙いだ。
その姿を焼き付けるように少年は見続けたが他の者達も負けていなかった。
壮年の騎士は長い経験を積んだ事を体現するようにオグル達を次々と倒していく。
しかし倒したオグル達に必ず「笹の葉」を一枚、噛ませる点は聖教の掲げる慈愛に通じていた。
対して白髪の騎士は先日とは違い左手で長刀を振るいながら群がるオグル達を葬っている。
ただ最初に見せた時より刃から放たれる気に変化があったのを少年は見逃さなかった。
もっとも白髪の騎士以外にも・・・・気が変化した者は居た。
鷲鼻の騎士である。
鷲鼻の騎士は闇の魔物である影鰐の背に跨がってオグル達を穂先が長大な槍で突き倒している。
しかし初日のオグル達に放った気より強かった。
その理由を少年は言葉で察した。
「貴様等のような騎士に“あるまじき者達”は、さっさと地獄へ帰れ」
この言葉と共に鷲鼻の騎士は槍を振り回しながらオグル達を葬って行く。
その様子を見ていた少年の側へ従騎士の青年が来て弓に矢を番えた。
しかしオグル達ではなく魔獣を睨むように見つめている。
「・・・・厄介なんですか?」
少年の問いに従騎士の青年は魔獣を狙うように睨みながら答えた。
「お前なら分かると思うが・・・・ヤツは、様々な魔物の”異種交配”で生まれた」
他種との交配は今以上に優秀な生物を生む事も出来ると従騎士の青年は語った。
「だが、中には弱くなる時もある。それこそ魔物の異種交配は王国内じゃ禁じられているからな」
表立って異種交配は出来ないから記録は殆ど無いと語る従騎士の青年を見た後に少年は魔獣を見た。
魔獣は血で汚れた口周りを見せ付けるように左右に顔を向けている。
しかし事切れたオグル達を食らうような素振りは見られない。
ただ、戦いの様子を静観している。
『まるで“勉強”しているようだ』
少年は胸に抱いた「違和感」の正体を予想したが、それを従騎士の青年は同じく抱いたのだろう。
「姉ちゃん、魔法を使うのは控えてくれ」
小声で言われた小聖職者は「解っています」と答えた。
「それなら・・・・もう一つ注文だ。坊主と一緒に離れろ」
真っ先に姉ちゃんと坊主を狙うと従騎士の青年は小声で言いつつ・・・・弓に矢を番えるが最初と違い強張っている。
対して魔獣はタイミングを計るように青年騎士を見ていた。
青年は元私兵と思われるオグルと戦っていたがオグルは既に虫の息だった。
『あのオグルが倒れた時に魔獣は・・・・動く』
少年は本当なら左肩から出た木剣の柄を握りたかった右手を小聖職者の左手を握った。
小聖職者は少年の気持ちを察するように握り返したが、それとは対照的に青年とオグルの戦いは終わりを遂げた。
青年の打ち込んだ薙刀の刃がオグルの額に深々と決まった。
すると待っていたように魔獣が雄叫びを上げ突進して来た。
「走れ!!」
従騎士の青年が叫ぶと同時に小聖職者は走り出すが魔獣は疾風のように距離を縮めて来た。
ここで今も無傷なオグル達が魔獣に群がって、行く先を阻止するように立った。
『小娘と小僧は我等が食らう!!』
オグル達は魔獣に肉切り包丁を始めとした刃を閃かせるが魔獣は鼻で笑うように一匹のオグルが振り下ろそうとした腕に噛み付いた。
『ギィッ!?』
腕を噛まれたオグルは悲鳴を上げながら魔獣を無事な左腕で叩こうと試みる。
しかし、それを魔獣は嘲笑するように・・・・噛み付いたオグルの右腕の肘から先を食い千切ると咀嚼して見せた。
それを見て小聖職者は半ば本能とも言えるように少年の掴んでいた手を離すと両手で牧杖を握り詠唱を唱え始めた。
だが、それこそ魔獣の「狙い」だったのだろう。
グガアアアアアアウ!!
地を響かせる雄叫びを上げて小聖職者を狙って飛び掛かった。
「や・・・・止めろぉ!!」
少年は左肩に背負った木剣を右手で「背負う」ように抜くと同時に跳躍した魔獣の額目掛けて打ち込んだ。
しかし木剣が額に当たった瞬間・・・・少年はニヤリと口端を上げて笑う魔獣を正面から見た。




