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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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第二十八章:腐れ司祭へ一石

 少年は懐に手を走らせて必要な物を取り出した。


 それは中央部が幅広めの1m前後の革紐だったが、革紐には石が添えられている。


 革紐の一端を少年は自身の右手首に回すと、もう片方の部分も握り締めた。


 「・・・・・・・・」


 石が添えられているのを確認してから少年は右側面で回した。


 これは陰の旗騎士の助言がある。


 『”スリング”を頭上で回せば必然と敵にも知られてしまうから・・・・自分の体で隠すようにやった方が良い』


 この助言を少年は体現したが・・・・的を射ているとフランシス修道院長を見て確信する。


 もっともフランシス修道院長は最初から自分なんて眼中に無いのだろう。


 自分を一瞥もせず青年騎士達を追うように眼を走らせている。


 ただオグル達は今も居る。


 そして中には「目敏い」者も居る点を鑑みれば・・・・体で隠すようにやるのが良い。


 『・・・・貴様の思い通りには、決してさせない!!』


 少年は十分にスリングを回したのを確認しながらフランシス修道院長の様子を注視する。


 フランシス修道院長は右手を握ったり、開いたりしていたが・・・・今はタイミングを見計らうように眼で青年達を追っている。


 ただし青年を真っ先に始末するつもりなのだろう。


 青年の隙を伺うように眼を走らせていた。


 しかし魔獣は違う。


 血の臭いを嗅いで興奮しているのだろう。


 今か、今かと鼻息を荒くしている。

 

 あのままでは何れ自分で行きそうな気配すらあるが・・・・フランシス修道院長が動けと指示を出すまで動かないように理性を総動員しているようにも少年には見えた。


 『フランシス修道院長ではなく・・・・魔獣を狙うべきか・・・・・・・・?』

 

 少年の脳裏に両者に石を投擲した際の行動が思い浮かんだ。


 フランシス修道院長に対して投擲したらどうか?


 『きっと邪魔されて怒り狂うだろう。そして魔獣に命じて僕を狙う筈だ』


 少年は直ぐフランシス修道院長の行動を思い描いた後に魔獣に同じ事をやった時を考えた。


 『魔獣も恐らくフランシス修道院長と同じ行動を取るだろう。だけど・・・・オグル達を先に襲うのでは?』


 最初はフランシス修道院長と同じ行動を取ると考えたが青年達に倒されるオグルを見て少年は途中で修正を図った。


 というのも獣の「習性」を従騎士の青年から教わったからである。


 『獣ってのは自分の”縄張り”に入られるのを極端に嫌う。仮に入った奴が居たら獣は怒り狂って襲う。若しくは子供を連れて居る雌なんかは子供を守る為に戦う。これを魔獣に置き換えるなら・・・・この村は、魔獣の縄張りだ』


 その縄張りに居るのは魔獣自身と、狩られる側に居る「獲物」しか居ないと従騎士の青年が語った事を少年は思い返した。


 『調教すれば野生の本能は大人しくなる。しかし本当に大人しくなるかと言えば・・・・そんなものは万に一つも在り得ない。あるとすれば兄ィみたいに自身も”自然の一部”になる事だ』


 自然の一部に自身もなれば獣は自然と体を休ませると従騎士の青年は説き、この点を聖教は出来ないとも説いたのを少年は回想し・・・・魔獣に投擲を行った後の結果を出した。


 『魔獣に投擲すれば間違いなく・・・・魔獣は怒り狂い、その場に居る全員に爪牙を向ける』


 これが良いかと言えば・・・・否と少年は結論付けた。


 『魔獣を倒すのは・・・・この方だ。しかも皆の居る前で倒してこそ意味がある』


 青年は「大いなる野望」を持っている事を少年は知っており、このソワソン地方も自身の野望達成の為に欲しているのも知っていた。


 ここを考えれば・・・・修道院に籠っている修道士達や家に閉じ籠り、戦いが終わる事を願っている民草にも現場を見せる必要がある。


 何せ大勢の者が見れば誰が魔獣を倒したかは一目瞭然で、王室が派遣した調査団にも説明および今後の領土経営にも大きく影響を与える事が出来る。


 如何に宰相と話を付けたとしても・・・・・・・・


 『”念には念を入れよ”とも言うしね』


 少年は自分の結論を確実な物とするように諺を用いて・・・・フランシス修道院長に狙いを定めた。


 もっともフランシス修道院長は見向きもしないが・・・・それこそ少年には「狙い目」だった。


 ビュン・・・・ビュン・・・・ビュン・・・・ビュン!!


 少年はスリングを回しながらフランシス修道院長に狙いを定めた。


 「狙いを定めたら躊躇うな・・・・でしたよね?」


 「お前なら外したりしねぇ。遠慮なく野郎の顔面に投げてやれ」


 従騎士の青年が矢を引き絞りながら少年の問いに答えた。


 「では・・・・これが私の宣戦布告です!!」


 少年はスリングで石をフランシス修道院長目掛けて投擲した。


 石は鋭い音を立てながら空中を引き裂くように飛んで行き・・・・フランシス修道院長の顔面にめり込んだ。

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 フランシス修道院長の顔面に少年がスリングで投げた石は深く・・・・めり込んだ。


 そう・・・・眼球が飛び出るほどで如何に少年が放った石が力強いか窺える。


 もっともフランシス修道院長も伊達に2000年前の野望を達成させようとしている訳ではないのだろう。


 普通なら倒れそうなのにグッとフランシス修道院長は耐えてみせた。


 そして石を右手で握ると信じられない力で握り潰した上で少年を殺気立った眼で睨み据えてから魔獣の頭に右手を乗せる。


 「聖獣よ・・・・あの”糞餓鬼”を食い殺せ」


 この言葉に魔獣がノソリと足を一歩、踏み出した。


 それだけで血生臭い戦闘が止む。


 「ふ・・・・フフフフ・・・・フハハハハハハッ!どうだ?神の遣わした聖獣に平伏すが良い!!」


 戦闘が中断したのを見るなりフランシス修道院長は高笑いしながら宣言したが・・・・その笑い声と共に魔獣が動いたのを少年は見逃さなかった。


 魔獣はフランシス修道院長が未だに置いている右手が煩わしいのだろう。


 首を動かした。


 それを見て少年は「あ・・・・」と小さな声を出す。


 対して青年達「言わんこっちゃない」とばかりに嘲笑を浮かべるが、オグル達は既に理性が無くなり始めているのだろう。


 フランシス修道院長の宣言を有り難く聞く気持ちより喧しいとばかりに顔を背ける。


 そんな中で青年は自身の勝利を疑わず高笑いするフランシス修道院長を鼻で笑った。


 「ケッ・・・・平伏せとは偉そうに言いやがる。いや・・・・何を”寝言”ほざいてやがる。てめぇの”手”を見ろよ」


 「手だぁ?ふんっ。何を言うのか・・・・え・・・・・・・・?」


 フランシス修道院長は青年騎士の言葉に高笑いしつつ自身の右手を見たが・・・・次が言えない様子だった。


 いや・・・・自分の右手が肘から先が無い事を受け入れられない様子だと言った方が良いだろう。


 しかし受け入れられない様子だった。


 それどころか青年達がやったと決め付ける辺り・・・・最早「末期」と言えた。


 ただし肘から先が無い部分からは大量の血が流れ落ちるのでフランシス修道院長も感じている筈だ。


 それなのに認めようとしない姿に憐れみを覚えた少年は・・・・静かに言った。


 「・・・・貴方の右手は・・・・貴方が聖獣と称した魔獣に食べられていますよ。今、直ぐ側で」

 

 これにフランシス修道院長は「戯言をほざくな」と言い返したが、その声が最初とは違い弱々しいのを少年は確認すると・・・・静かに首を横に振って問いを投げた。


 「では、どうして見ないんですか?」


 「ほ、ほざくな!小僧が!聖獣が食い殺すのは、貴様等の方だ!私の方・・・・・・・・!?」


 フランシス修道院長の声は途中で途切れた。


 それは魔獣がフランシス修道院長の腹を噛んだからである。


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