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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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第二十四章:夜の修道院へ

 「・・・・それで、どうなったのですか?」


 子供達の父親はオルグが30匹も出て来た光景を思い浮かべたのか、少し顔を青褪めさせている。


 対して子供達は父親にしがみついていたが老人は淡々と答えた。


 「オルグ達は修道院へ行くと待っていたフランシス修道院長から命じられました」


 老人は淡々とした口調で喋るが、その眼は怒りの炎が宿っていた。


 「修道院の玄関前に立っていたフランシス修道院長はオルグ達に命じました」


 『獣は成獣になった。我々が緒戦の一番槍だ!!』


 「・・・・・・・・」


 子供達の父親はフランシス修道院長の宣言に何も言わなかった。


 ただ教院で歴史を学んだからか、一昔前の聖教が如何に自浄能力がないか垣間見た表情を浮かべている。


 だが老人は「実体験」している為だろう。


 静かに語った。


 「一昔前の聖教は想像以上に自浄能力が・・・・いえ、圧倒的に道を踏み外した輩が多かったんです」


 しかし聖教の内部でも確実に自浄しようという動きがあったと老人は語り、その証拠とばかりに鷲鼻の騎士の事を話した。


 「修道士達の話を聞いた鷲鼻の騎士と、弓使いの従騎士の2人ですが・・・・鷲鼻の騎士は犬割り騎士の第一番の臣下で、闇の世界を生きたから謀術に長けていました」


 だから協力を申し込んだ修道士達を弓使いの従騎士を先導にして密かに修道院の外へ連れて行き、ヴァエリエから来る途中だった調査団に会わせたと老人は語った。


 「彼等の説明で調査団は一先ず様子見を決めつつヴァエリエに居る時の宰相に指示を仰ぎましたが・・・・そこからが陰の騎士の本領発揮でした」


 調査団から指示を仰がれた宰相だが既に情報を手に入れていたようにこう言ったらしい。


 『ソワソン地方の2~3割は・・・・その騎士に統治させるから必要書類を作成しておくように。女王陛下も承諾した案件だ』


 「・・・・本当に陰の騎士ですね」


 子供達の父親は静かに相槌を打った。


 それは短時間で宰相にまで話をつけた点を言っているのを老人は察していたのだろう。


 苦笑とも言える笑みを見せながら言った。


 「彼の言葉で言うなら“段取り八分”です。そしてフランシス修道院長達は、その段取りを疎かにしたから・・・・皆、あのようになりました」


 子供達の父親は老人が指さした方角を見た。


 老人が指さした方角には犬割り騎士達の銅像がある。


 銅像達はオルグ達を踏み付けているが・・・・足下にも見えないだけで居るのだ。


 道を踏み外した輩が死体となって・・・・・・・・


 「オグル達は修道院に行ってどうしたのですか?」


 子供達の父親は老人に続きを促しつつ怯える子供達の頭を撫でる事で恐怖を和らげる。


 それを見ながら老人は続きを語った。


 「・・・・オグル達は獣の雄叫びを聞きながら修道院へ向かいました。言うまでもなくフランシス修道院長の所です」


 それをフランシス修道院長は玄関前で待っており、オルグ達が現れると歓喜の声を上げたと老人は語った。


 「フランシス修道院長が歓喜の声を上げたのは、オルグ達が居れば法王の側近は"真・聖教"から奪えると考えたからです」


 真・聖教と聞いて子供の一人が「夢の守護騎士団が倒した相手だっけ?」と問い掛けた。


 対して老人は今も怖がっている子供達を安心させるように頷く。


 「あぁ、そうだよ。ヴァエリエ付近で暴れていた相手さ。そして君が言った通り夢の守護騎士団が倒した。ただ、それには犬割り騎士様達と、もう一つの騎士団も協力したんだ」


 これを聞いて子供達は驚いたが、老人は優しい笑みを浮かべながら語った。

  

 「君等が知らなくても無理はないね。しかし事実さ」


 ただヴァエリエでは夢の守護騎士団が圧倒的に有名だから知らないだけと老人は言いながら話を戻した。


 「オグル達を前に歓喜の声をフランシス修道院長は上げたけどオルグ達も歓喜の雄叫びを上げたんだ」


 それはフランシス修道院長が緒戦の相手を犬割り騎士であると宣言したからと老人は語った。


 「何せ煮え湯を飲まされていたからね。ただ、彼等は悲しい事に"捨て駒"だったんだよ」


 「・・・・あくまで魔獣が犬割り騎士様達を倒す為、ですか」


 「えぇ、そうです。ただ、オグル達が犬割り騎士様達を倒せば儲け物とは考えていましたが」


 「・・・・・・・・」


 子供達の父親はフランシス修道院長の欲に塗れた思考に憤りを覚えた表情を見せた。


 「貴方が憤りを覚えるのも解りますが、彼にも罰は当たりました」


 その罰は「神罰」と言いたいが、と老人は区切った。


 「オグル達の“置き土産”という形でした」


 「置き土産・・・・ですか」


 意味あり気な台詞に父親は首を傾げるが老人は再び語り出した。


 「修道院へ駆け付けたオルグ達をフランシス修道院長は出迎えましたが・・・・魔獣も・・・・その姿を見せました」

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 暗闇の中をオグル達は我先にと修道院へ向かって走り続けた。


 ただ、誰も躓くような事はなかった。


 それもそうだろう。


 オグルは闇の世界---深淵の住人達。


 暗闇こそ「棲み家」なのだから自身の家で躓くなど如何に愚鈍とも称される彼等だって早々ない。


 そのためオグル達は難なく修道院の前まで無事に辿り着いた。


 しかし直ぐオグル達は片膝をついて頭を垂れる。


 それは修道院の前にフランシス修道院長---いや、次期「枢機卿」が立っていたのだから。


 「・・・・皆、よくぞ短い間だが耐え忍び・・・・聖なる戦士になったな」


 フランシス修道院長はオグル達に労いの言葉を掛けたが直ぐに歓喜の声を上げた。


 「フフフフ・・・・フハハハハハハハ!!これで我等が悲願は成就する!!」


 『おぉ!!』


 フランシス修道院長の宣言にオグル達は雄叫びを上げたが、それに合わせて獣の雄叫びが聞こえてきた。


 だが以前より力強い印象だったのだろう。


 オグル達はピリピリと肌を震わせる。


 「聖なる戦士になった、そなた等にも見せて進ぜ様。これが我等の神が遣わした聖獣だ!!」


 フランシス修道院長はオグル達に高々と宣言するや自ら修道院の左側へ足を運んだ。


 左側は右側より鬱蒼と森林が生い茂っていたが、フランシス修道院長は躊躇いなく足を運び・・・・一匹の巨大な犬を連れて出て来た。


 「これが・・・・聖獣・・・・・・・・」


 「何と・・・・巨大な事か・・・・・」


 「見ろ、あの猛々しい犬歯を・・・・・・・・」


 「おぉ・・・・この体格と犬歯なら・・・・・・・・!!」


 「あの憎き聖教の御敵も!!」


 フランシス修道院長はオグル達が口々に魔獣を賛美する声に満足した。


 もっとも魔獣の方はオグルを完全に「敵」と見なしているのだろう。


 低い唸り声を上げている。


 それを察したようにフランシス修道院長はオグル達に命じた。


 「皆、今宵が聖戦の・・・・”緒戦”である」


 『・・・・・・・・』


 オグル達はフランシス修道院長の言葉に無言となった。


 対してフランシス修道院長は言葉を言い続けたが、その姿は「酔い潰れた」感じだった。


 「緒戦は戦において大事だ。その任を我等が行う。大変名誉な事である。しかも相手は我等に今まで煮え湯を飲ませた、あの騎士共だ!!」


 この言葉にオグル達が一斉に殺気立ったがフランシス修道院長は薄ら笑みを浮かべながら今にも飛び掛かりそうな魔獣を宥めた。


 「さぁ聖なる戦士達よ!あの騎士共の首をネジ切れ!そして小聖職者をそなた等の聖剣で浄化せよ!これは神の意思だ!!」


 『おぉ!!』


 フランシス修道院長の言葉にオグル達は背を向けると夜の村を駆けて行った。


 その後ろ姿を見ながらフランシス修道院長は魔獣の毛を撫でながら悦に浸るが・・・・そのフランシス修道院長を今にも食い殺しそうに血走った眼で魔獣が見ていたのをフランシス修道院長は気付かなかった。


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