第二十一章:家族の触れ合い
少年は青年達と朝食を取ったが、今から修行は始まっていると少年は考えていたのだろう。
青年の食べる分を真っ先に用意した。
「そこまで俺に気を遣う事は・・・・・・・・」
「いや、それで良い」
青年は葉巻を銜えたまま少年に止めるよう言おうとしたが、それを壮年の騎士は遮った。
「小姓は主人の身の回りを世話するのが役目。そなたの行動は間違っていない」
壮年の騎士は毅然とした口調で少年に言ってから青年を見た。
「我が主人。人の上に立つ者は例え煩わしい事だろうと・・・・時には他人に任せる時が多々があります」
それによって仕事を得られる上で人を育てる事が出来るからと壮年の騎士は青年に説いた。
「加えて言います。葉巻を食い千切る”悪癖”を直して下さい」
そういう「悪い仕草」なども足下を掬われると壮年の騎士は青年に言った。
まるで父親が聞き分けのない子供に注意しているように少年には見えたが実際その通りだ。
「確かに我等が主人を“醜犬伯爵”はこう評しましたね」
鷲鼻の騎士が青年とは打って変わり「優雅」に葉巻を吹かしながら青年の評価を言った。
『見た目は公爵家の一人息子だが、中身は悪ガキの大将だ』
「・・・・どう思う?」
従騎士の青年が青年の評価を尤もと頷きながら少年に問い掛けた。
「まぁ・・・・的を射た評価だと・・・・・・・・」
この言葉に3人は鷹揚に頷き、青年は面白くなさそうに顔を歪めた。
しかし自覚はあるからか「まぁな」と最終的に頷くが、既に「悪戦況」を挽回できないのだろう。
「自覚しているなら今日から直して下さい。この地も手に入れるなら」
追撃とばかりに壮年の騎士に言われて青年は「努力する」と言い、葉巻を吹かしたが・・・・噛み癖があるのだろう。
葉巻を小刻みに噛んでいるのを少年は目敏く認めた。
「ところで坊や。冒険者の事は知っているかい?」
ここで鷲鼻の騎士が嘆息する壮年の騎士に苦笑しながら少年に冒険者について問い掛けてきてきた。
それに対して少年は従騎士の青年から聞いた話をした。
「それならもう少し俺が詳しく教えよう。男だけで朝食を取るのは味気ないからね」
そう言って鷲鼻の騎士は肉を食べながら冒険者について少年に語った。
ただ青年は先程の仕返しも兼ねてか「卑猥な事は教えるなよ」と鷲鼻の騎士に皮肉を言った。
だが鷲鼻の騎士の方が口は達者なのだろう。
「御婦人の御怒りを買う真似はしませんよ」
「貴方と違って」と涼しい表情で言い返してきた。
「・・・・・・・・」
これに青年はこれでもかとばかりに表情を歪める。
しかし鷲鼻の騎士は慣れている為か、青年を無視する形で冒険者の事を少年に話した。
その内容は歴史から始まり、装備や報酬金等と多岐に渡っており少年は胸を驚かせた。
ただ多岐に渡る仕事の中でも「荒事」に関して少年は注意を払うように耳を傾ける。
それは自分の将来を考えた末であったが、鷲鼻の騎士が挙げた過去の例が理由でもあった。
鷲鼻の騎士が話した「腕白小僧」は商工組合---ギルドが定めた冒険者階級を無視して仕事をパーティーで行った。
本来なら厳罰物だし、仮に依頼を遂行できず死傷しても致し方ない。
しかし何とか依頼は遂行できたらしいが・・・・・・・・
『焦るなと言ったのは・・・・こういう事なんだ』
話を聞いて少年は青年達が焦るなと言い聞かせるように自分へ言ったのが頭を過ぎり納得した。
それは冒険者をギルドに職業として推薦したフリードリヒ王が何で階級を設けたのかを鷲鼻の騎士が説明した事で固まった。
「フリードリヒ王はパーティーだろうとソロだろうと先ずは”基本”をシッカリ学べと言いたかったのですね」
「その通り。こんな言葉がフリードリヒ王の回顧録には載っているからね」
『高みへ登りたい・・・・道を極めたい・・・・こういう気持ちを抱くのは人の性だ。しかし最初から誰も最頂に行ける訳ではない。誰もが最初は生まれた““赤子”のようなものだ。だから焦らず経験を血肉とせよ』
「・・・・何だか今の僕を表している気がします」
少年は鷲鼻の騎士が語ったフリードリヒ王の回顧録の一節を聞いた感想を述べた。
「俺達の中じゃ最年少だからそう思うのも無理ないね。しかし”今の気持ち”を失わなければ立派な冒険者になれるさ」
ポンッと少年は頭を叩かれて眼を向ける。
頭を叩いたのは青年だったが、その左手には程良く焼けた肉が握られていた。
「こいつを食って一休みしたら“授業”を始める」
シッカリ食べておけと言われ、それに少年は力強く頷き、肉を頬張った。
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朝食を終えて青年が再び壮年の騎士と対峙するように立った頃・・・・小聖職者と白髪の騎士が帰って来た。
2人とも無傷であったのは当然と思っていた青年は村の様子を尋ねた。
「貴方が“想像していた通りの事”がありましたよ」
青年の問いに皮肉な笑みを浮かべて白髪の騎士は答えた。
対して小聖職者は何も言わなかった。
ただ気に入らないとばかりに白髪の騎士を見たので少年は何も言わなかった。
青年も小聖職者に言葉は掛けず左手に填めた腕輪を胸辺りに掲げて少年に話し掛けた。
「今から模擬戦をやるからよく見ておけ」
この言葉に少年は頷き、既に準備を終えた壮年の騎士を見た。
壮年の騎士は大小の湾剣と、左右に刃の付いた槍が得物で、それ以外は見られない。
壮年の騎士から青年へ少年が視線を向けると青年は長柄武器を手にしていた。
その長柄武器は反りを持たせた刃で、グレイヴに似ていたが装飾は最小限にしてあるから武骨な印象が強い。
「こいつは“薙刀”という長柄武器だ。先ず見た印象はどうだ?」
青年は長柄武器の名前を言いながら第一印象を尋ねてきた。
「全体的に・・・・斬る事に特化した印象です」
「その理由は?」
「刃に反りを持たせている事・・・・石突の部分も刃だからです。ただ、突き技や柄の部分での叩く動作など攻撃のバリエーションは多いとも思いました」
「よく見ているな」
青年は一言だけ言うと薙刀の刃を地面すれすれに構えた。
「この構えは一般的に“下段”と言われているが・・・・お前は水面の如しと言った。その理由は何だ?」
「僕・・・・いえ、私が修道院で見たタペストリーに載っていたんです」
そして水面の如しという名前は合っていると少年は言った。
「その根拠は?」
「その構えが“水面”のように見えるからです」
「正解だ。しかし俺の放つ気は・・・・どうだ?」
青年は壮年の騎士を睨むやグッと気を放ったのを少年は見た。
「・・・・荒れ狂う“荒波”です」
少年の言葉に壮年の騎士が改めて水面の如しと言われる構えを説いた。
「水面の如しと言われる構えは古の時代を生きた“湖の傭兵”と言われる人物が得意とした構えだったとされている」
その傭兵は古の時代を生きたハスカールだったと壮年の騎士は言い、少年は眼を細めた。
「水の騎士の・・・・ご先祖様ですか」
「そう聞いている。しかし一般的に我等が総大将が取った構えは下段あるいは土の構えと称されている」
これには理由があると壮年の騎士は言ってから構えと気の違いを説いた。
「構えは形で、気は己を表す。どちらも欠けていては体を成さない。しかし構えより気が真剣勝負では大事だ」
それは先程も言った通り気は己を表すからと壮年の騎士は説きつつ十文字の槍を構えた。
青年と同じく水の如しだったが、壮年の騎士が放つ気は静寂な気だった。
その気が少年には見えたのだろう。
まさに気は己だと称した壮年の騎士が言った言葉に納得した。
もっとも説明の次は形とばかりに2人は構えを解かず距離を縮め合った。




