第二十章:未来ある少年
少年は鷲鼻の騎士の山刀を隅々まで見た。
『柄は木製で・・・・真ん中で麻糸を巻いているのは・・・・滑り止めの為・・・・かな?』
先ず少年は柄の部分を見て感じた事を頭で整理し、自分が鷲鼻の騎士だったらどうかと考えた。
そして自分の考えは間違いではないだろうと思ったのか、次に刃を見た。
『刃は厚みがあって両刃・・・・両刃だと斧みたいに“割る”作業には適している・・・・な』
少年は青年騎士の手斧を思い出し、両刃の効果を頭の中で確認した。
「その様子だと多少は分かったかな?」
鷲鼻の騎士に問われて少年は山刀を返しながら頷いた。
「なら次は俺の山刀を見てみな」
少年は従騎士の少年が差し出してきた山刀を今度は手にしたが、こちらは刃を直ぐに見た。
そして鷲鼻の騎士が持つ山刀と違う点を見つけた。
「刃が“片刃”に・・・・なっていますね」
従騎士の青年は小さく頷きながら両刃との違いを説明してみろと少年に言った。
「両刃はv字型ですから左右均等に刃は進みます。対して片刃はレの字になっているので、刃は振り下ろした方向に進むので“切る”作業に向いている・・・・ですか?」
「兄貴、こいつは将来が楽しみだ」
従騎士の青年は青年に屈託のない笑顔を見せた。
「だから鍛えるんだよ。俺は“無駄な投資”はしないからな」
青年は高飛車な口調で従騎士の青年に返答してから鷲鼻の騎士を見た。
「予備は有るんだろ?」
「ありますよ」
鷲鼻の騎士は青年の問いに頷くと懐から掌に納まるサイズの石を取り出した。
「収容魔石・・・・ですか?」
馬に乗り村へ来た事がある羽振りの良い行商人が持っていたのを思い出した少年は鷲鼻の騎士に問い掛けた。
「あぁ、そうだよ。高価だけど一つ位・・・・いや、予備も含めて数個は持ちな」
そう言って鷲鼻の騎士は魔石を握って発動させると渋柿色の皮鞘に納まった山刀を少年に渡した。
「抜いてみな。俺の眼に適った代物だから問題ないとは思うけどね」
差し出された山刀を受け取った少年は「拝見します」と断ってから山刀を鞘から抜いた。
刃の長さは30㎝前後で、身幅は細めだが厚みはあり刃の形は片刃だった。
柄は特に特徴は見られないが・・・・・・・・
『柄頭に鉄製の部品を用いれば金槌の“代用”に使えるかな?』
少年は青年が手斧を金槌代わりに使った姿を思い出し考えてみた。
本来なら金槌を使うのが正しい方法なのは解っている。
しかし、常に使いたい道具を持っているとは限らない。
また自然の中に都合良く転がっているとも限らないから・・・・・・・・
『フフフフ・・・・彼の幼少期を見ている感じですか?』
『まぁな。こんな風に・・・・あいつも考えたんだろうと見える』
『クッ・・・・男の尻ばかり追い掛けるのも大概にしては如何ですか?』
『確かに・・・・貴方様の年齢を考えれば御子の数人は居ても不思議ではありませんからね。とはいえ先に将来の御子の“友”を見つけた慧眼はお見逸れします』
『おい、姉ちゃん。顔が赤いぞ?まだ手を出され・・・・・・・・』
「何を馬鹿な事を言っているんですか!!」
小聖職者の怒声で少年はハッとする。
6人を見ると皆、何かを話していた。
ただ小聖職者は教える気が無いのか「脅威は去りました。幼子は寝なさい」と母親みたいに言ってきた。
その言葉に少年は素直に従った。
眠気はないが下手に何か言うと小聖職者が怒り狂うと容易に想像できたからだ。
そんな少年の心中を青年達は解ったのか、少年に生温かい視線を送ってきた。
しかし少年には家族の営みのように感じたのだろう。
『どうか、皆と居られますように』
心中で小さく祈った。
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少年は焚き火が爆ぜる音で目を覚ました。
起き上がると肉が焼かれている場面と出くわした。
しかし、少年は直ぐ視線を明後日の方角へ向ける。
視線の先には青年が壮年の騎士と対峙している所だった。
「・・・・・・・・」
青年は湾刀を両手で握り頭上高く掲げた構えを取っている。
「・・・・・・・・」
対して壮年の騎士は両手をダラリと垂れさせ上に槍の穂先を地面スレスレにまで下げていた。
「・・・・“水面の如く”だ」
少年は修道院で見たタペストリーに載っていた「然る場面」にあった言葉を口にした。
それが合図になったのか?
青年は猛然と地を蹴り壮年の騎士に白刃を振り落とそうとした。
ただ、青年の体が半身寄りになっていたのを少年はハッキリ見たが・・・・・・・・
『左右に刃がある槍だから躱すのは至難だ』
壮年の騎士が持つ槍を見て少年は直感したが、青年は相打ちも辞さないのか?
槍が蛇みたいに動いたにも係わらず更に前へ進む。
刹那・・・・・・・・
青年の額ギリギリの所で槍の穂先が止まった所を少年は見た。
しかし何時の間に槍が動いたかは見えなかったので如何にして壮年の騎士が動いたかは判らない。
「・・・・私が槍を如何にして動かしたかは見えなかったようだな?」
壮年の騎士が槍を青年から遠ざけながら問い掛けたので少年は頷いた。
「鍛錬で身に付けたから見えずとも仕方ない。ただ長柄は戦場においては弓矢同様に“主力”となる」
そこは記憶に留めろと言われて少年は素直に頷いた。
「宜しい。では私から問題だ。槍と長柄の刃・・・・どちらが集団戦には向いていると思う?」
「・・・・槍です」
壮年の騎士の出した問題に少年は少し考えてから答えたが理由も同時に考えていた。
だから壮年の騎士が「それは何故か?」という問いに対し直ぐ答えられた。
「長柄の刃は振り回すのに場所が広くないといけません。対して槍は突く事が出来ます」
特にロング・スピアーみたいな槍なら単純に上から振り下ろすだけでも力があると少年は言った。
「良き回答だ。では長柄の刃はどうか?」
「長柄の刃が持つ武器の強みは体が小さな者でも重い一撃を放てる点です」
間合いを槍と同じく取れる点も大きいと少年が言うと壮年の騎士は静かに頷いた。
「その通りだ。ただ、向き不向きが人にはある」
だから自分に見合った武器を選ぶのも大事と壮年の騎士は説いた。
「下手に見栄などを取っては足下を掬われん。そこは日々の研究が大事だから心得よ」
「はい。ただ書物を読む以外で研究するのは・・・・・・・・」
「その点は心配無用だ。弓矢、長柄、剣、体術、“陰術”等・・・・我等が基礎を教える」
基礎さえ出来れば応用は自然と解ると壮年の騎士は言いながらチラッと茂みから出て来た鷲鼻の騎士と、従騎士の青年を見た。
「我が主。村は蜂の巣を突いたように大騒ぎですよ」
鷲鼻の騎士が口端を上げて青年に言うと、青年も口端を上げて笑った。
「昨日の今日だからな。で・・・・どうなった?」
「小さな修道女が事情を説明していますよ」
白髪の騎士も一緒だから大丈夫と鷲鼻の騎士はわざとらしく青年に言った。
「何で俺が小娘一人を心配するんだよ」
「またまた・・・・ヴァエリエでも一人の少女を救った方が何を言いますか」
「あの“チビ娘”は関係ないだろ?朝っぱらから俺を怒らせるな」
青年は懐から葉巻を取り出すと口に銜える方を歯で乱暴に食い千切った。
「素直でありませんね。しかし、あの婦人の頑張りも褒めて下さい」
貴方に似て子供っぽい所があると鷲鼻の騎士は言いながら自身も葉巻を銜えた。
その様子を見て少年は小聖職者が気になったが、鷲鼻の騎士達が敢えて小聖職者を一人にさせたのだから動かないべきと思い直した。




