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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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第十九章:オグルとの戦い2

 「坊主、答えを言ってみろ」


 青年が少年に命令してきたので少年は今も息のあるオグルを見ながら言った。


 「白髪の騎士様は同じ箇所を風の魔法剣で切りました。それをオグルは治療しなかったので・・・・巨体を支え切れなくなったと思います」


 「正解だ。同じ箇所を狙えば如何に硬い部分でも耐えられないからな。じゃあ俺の従騎士はどうだ?」


 青年は更に問いを投げてきたが、それも少年は答えた。


 「従騎士様は・・・・矢に毒を塗っていたと思います。痺れる効果がある毒を」


 「・・・・正解だ」


 少年が青年の問いに答えると白髪の騎士は満足そうに頷いた。


 「お前が言った通り・・・・私はウドの大木の同じ箇所を切った。それをウドの大木は気にしなかったが・・・・こういう結末を迎えた」


 やはりウドの大木はウドの大木だと白髪の騎士は冷笑をオグルに投げた。


 対して青年の従騎士は少年に温かい笑みを送ってきた。


 「兄ちゃんソックリだな?大正解だ」


 ただ巨体だから全身に回り効果を発揮するのが遅かったと従騎士の青年は言いながら息のあるオグルを見た。


 2匹のオグルは血走った眼で白髪の騎士と、従騎士の青年を睨んだが体が言う事を聞かない為か呪詛を吐いた。


 だが2人は意に返さず・・・・止めの一撃をオグルに浴びせた。


 2匹のオグルは止めの一撃を受けると事切れたが・・・・笑みを死ぬ間際に浮かべたのを少年は見逃さなかった。


 笑みを浮かべた2匹のオグルは完全に死んだのか?


 忽ち巨体を泥のように崩したと思いきや・・・・跡形もなく消えてしまった。


 「・・・・・・・・」


 少年は跡形もなく消えてしまったオグルが見せた笑みに言い知れぬ恐怖を一瞬だけ胸に抱いた。

 

 もっとも円陣から自分の手を引いて出た小聖職者が言った通り・・・・青年達なら再びオグル達が現れても問題ないと思う。


 そして青年が「自分色」を持てと言った意味を何となく察する事が出来た。

 

 『皆・・・・自分の武器や戦闘スタイルが違う』


 こういうのが戦場で何の役に立つのか?


 そこは想像の域を出ないが、それでも少年の胸には大きな影響を与えたのだろう。


 青年の下へ来た4人を畏敬の念で少年は見る。


 「さぁて・・・・これで一先ず終わりだな」


 「御意。ですが、これからが・・・・勝負かと」


 壮年の騎士が青年の言葉に相槌を打ち、ジロリと村落がある方角を見た。


 「恐らくフランシス司祭はオグルがやられた事を直ぐ知りましょう。そして獣を動かすと思われます」


 「というと?」


 「俺の経験からして獣は後もう少しで成獣になると思う」


 青年の問いに従騎士の青年が答えた。


 「雄叫びが子供だって訳か?」


 青年の問いに従騎士の青年は頷いたが、その眼は「楽しそう」だったのを少年は見た。


 常人なら成獣になる前に仕留めるべきと考えるのが普通だ。


 それなのに敢えて成獣になるまで待つべきと言った理由は・・・・・・・・


 「成獣になった所を仕留める事で・・・・これ以上・・・・聖教が暗躍しないように釘を打つんですね」


 少年は自分の考えを出したが、それを誰も否定しなかった。


 それは正解と少年は捉え青年を見た。


 そうする事で自分も5人の輪に入りたいと意思表示をしたのだが心中は不安だった。


 しかし白髪の騎士が少年に語り掛けてきた言葉で少年は安堵する。


 「やはり我等が主人の目に留まっただけある・・・・な」


 「さっきの戦いでもそうだが随分と“丸く”なったな?」


 鷲鼻の騎士が皮肉を言うと白髪の騎士は鼻で笑った。

 

 「私は剣を捧げた婦人から言われた言葉を実践したに過ぎん。それとも私が本当に丸くなったか・・・・試してみるか?」


 チャキッ・・・・・・・・


 白髪の騎士が愛剣の鯉口を切りながら挑発する台詞を発したが、それに怯えるよりも前に少年は騎士と婦人の関係に疑問を抱いた。


 少年が知る限り騎士は位の高い婦人に献身的な奉仕を行う事で自分を高めるとされている。


 しかし、それによって何を高めるのかは解らなかった。


 「そなたは何歳だ?」


 ここで壮年の騎士が場の雰囲気を変えるように問い掛けてきて少年は7歳と答えた。


 「では“小姓”になるな。我が主人、武術に関しては我等に一存してくれませんか?」


 壮年の騎士が放った言葉に青年はあからさま「過ぎる」ほどに嫌そうな表情を浮かべた。


 「そう嫌そうな表情を浮かべても無駄ですよ?」


 鷲鼻の騎士が笑いながら青年に言うが青年騎士はムスッとしたまま少年を見た。


 「知っているとは思うが・・・・小姓ってのは騎士になる“最初の一歩”だ」


 7歳から高名な騎士か、貴族の邸宅に住み込んで14歳まで武術と婦人に対する接し方を学ぶと青年は説明した。


 「そして14~15歳で“従士”になり、22歳くらいで騎士に叙任する」


 「つまり・・・・僕の年齢から修業は始まる訳ですか」

 

 「あぁ、そうだ。坊主、明日から俺の小姓をやれ。ただ期間は限定だから詰め込めるだけ詰め込む」


 この言葉に少年は静かに頷いた。


 何せ成長したら旅に出るとは青年との会話で決めた。


 そして青年も自分に色々と教えると言っていたから今さら戸惑う事もない。


 ただ少年は改めて青年に言った。


 「僕に・・・・私に貴方の技術を教えて下さい。私も貴方みたいになりたいんです」


 頭を下げる少年に青年は鷹揚に頷いた。


 「あぁ、教えてやる」


 青年は少年の頭を乱暴に撫でながら言ったが、些か不満そうな表情だったのを少年は見逃さなかった。


 「我等が主人は好き嫌いが激しいんだよ」


 鷲鼻の騎士が青年を面白そうに見ながら少年に言った。


 「我等が主人は君に野外で生きる技術や戦闘技術を教えるつもりだったけど俺達に奪われたからね」


 それどころか宮廷での作法や女性の扱い方などを教えるから余計に気分が悪いと鷲鼻の騎士は少年に語った。


 しかし、青年の不満を更に昂ぶらせるような語り口調だから・・・・・・・・


 案の定と言うべきか?


 青年はあからさまに機嫌が悪い表情を浮かべた。


 「まぁまぁ、そう怒らないで下さいよ。本当の事なんですから」


 「・・・・うるせぇ。しかし俺から”楽しみ”を奪ったんだ。キッチリ教えろよ?」


 完全に口喧嘩では鷲鼻の騎士に勝てないと青年は解っていたのだろう。


 「精一杯の報復」を言ったが、それに対して鷲鼻の騎士は鷹揚に頷いた。


 「えぇ、勿論ですよ。坊や、我等が主人が渡した刃物を見せてくれないか?」


 鷲鼻の騎士に言われて少年はポケットから折り畳み式の刃物を取り出した。


 それを手にした鷲鼻の騎士は慣れた手付きで刃を起こし、刃幅等を見た。


 「全体的に悪くないけど・・・・初心者に持たせるには少し危ないね」


 これなら小聖職者の刃物が良いと鷲鼻の騎士は言い、これに小聖職者は先程の口喧嘩を思い出したのだろう。


 自分が勝利したとばかりに青年騎士を勝ち誇った眼で見上げた。


 「でも我等が主人は君を見込んで渡したんだ。これは持っておいて良いよ」


 ただ折り畳み式の刃物は強度の面で不安があると鷲鼻の騎士は刃物を少年に返しながら言い、それに少年は問い返した。


 「折り畳み式では不安があるという事は・・・・ダガー等のように刃が固定された物なら強度的には問題ないのですか?」


 「あぁ、そうだよ。本当なら2種類を持つのが良いね。ただ、これを見て・・・・どう思ったのか教えてくれ」


 鷲鼻の騎士は従騎士の少年に視線を向けた。


 すると従騎士の青年は自ら腰に提げた山刀を抜いた。


 対して鷲鼻の騎士も山刀を抜き、それを少年に見せながら改めて問いを投げた。


 しかし少年には自分を試していると見えたのだろう。


 「・・・・失礼します」


 断ってから鷲鼻の騎士が持っていた山刀を両手で恭しく取り上げて隅々まで眺めた。


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