第十八章:オグルとの戦い
少年は目の前で繰り広げられている死闘を瞬きするのさえ忘れて見ていた。
青年は真っ先に先陣を切るやオグルの一匹と切り結び、残る4人は他のオグルと一対一で戦闘を始めた。
しかし体格の差は歴然としていた。
『死ねぇっ!!』
青年と切り結んでいたオグルが巨大な肉切り包丁を力任せに振り下ろす様を少年はマジマジと見る。
『あんな物を受けたら・・・・・・・・』
「へんっ!木偶の坊が偉そうに!!」
振り下ろされた肉切り包丁を青年は罵声と共に躱すと湾刀でオグルの左手を切った。
『ぬぅっ!?』
左手を浅く切られたオグルは呻き声を上げたが殺気立った眼で青年を睨む。
だが青年はオグルの持つ肉切り包丁が振るわれる前に体を屈めて左脚の臑を今度は切った。
『グアッ!?』
臑を切られたオグルは大量の血を臑から流しながら悲鳴を上げた。
しかし、傷が浅かったのだろう。
血走った眼で青年を睨みながら肉切り包丁を振るい攻撃の手を緩めない。
ただ青年は肉切り包丁をギリギリの所で躱すと湾刀を再び頭上近くから振り下ろした。
今度は頭を青年は狙ったが、それをオグルは左手で受け止めた。
青年の振り下ろした湾刀はオグルの左手を深々と切ったが、それでもオグルは勝利の笑みを浮かべながら言葉を放った。
『フンッ!甘い・・・・ぎぃっ!?』
「てめぇが・・・・な」
少年はオグルの額に深々と手斧が食い込む様を見た。
額に手斧が食い込んだオグルは肉切り包丁を手放したが息はあるのだろう。
両手で青年を絞め殺そうと手を伸ばした。
しかし青年はサッと身を引きオグルの両手を躱すと止めとばかりに首を狙って湾刀を振った。
『!?』
首を切られたオグルは目を見開き、両手をガクリと地面に落としてから巨体も傾けた。
だが少年は切れる寸前にオグルが笑ったのを見てハッとする。
先ほど小聖職者に問い掛けた際に小聖職者は肯定したではないか。
オグルは仲間を増やせると!!
「心配いりません」
小聖職者がポンッと肩を叩いてきたが少年は「でも」と食い下がった。
「あの方達はオグルが何匹、来ようと倒します」
御覧なさいと小聖職者は笹の指し物をした壮年の騎士を指さした。
少年が壮年の騎士を見ると、騎士はオグルを槍で貫いていた。
しかし息は乱れていないし、鎧兜も傷はおろか汚れすら付着していない。
つまり大して苦戦せず倒したという事だ。
そして直ぐ隣で戦っていた白髪の騎士を少年は見たが、こちらも返り血すら浴びていなかった。
ただオグルは頭上から股間を一刀両断されたのか・・・・体を左右にされて事切れている。
そこから離れた場所で火花が散ったので少年はそちらに今度は視線を向けた。
火花が散った方では鷲鼻の騎士が山刀を片手にオグルと戦っている最中だった。
しかし少年は疑問を抱いた。
『どうして剣を使わないんだ?』
鷲鼻の騎士は剣を装備して・・・・・・・・
ここで少年はハッとする。
鷲鼻の騎士が居る場所は木が生い茂っており、あちらこちらから枝も生えていた。
そして鷲鼻の騎士は長身だ。
対するオグルは更に巨体だが、肉切り包丁を武器としている。
『死ねぇっ!!』
ブンッ!!
豪快にオグルは肉切り包丁を鷲鼻の騎士目掛けて振り下ろした。
肉切り包丁は枝と木を叩き割り、鷲鼻の騎士に迫るが鷲鼻の騎士は素早く躱すとオグルの腹部を山刀で突き刺した。
山刀はオグルの腹部を深く突き刺したがオグルは怯まず鷲鼻の騎士に再び肉切り包丁を振るう。
しかし鷲鼻の騎士はオグルの頭上を飛び越える跳躍で躱した。
「!?」
少年はオグルを飛び越える跳躍をした鷲鼻の騎士に驚きを隠せなかった。
あんなに跳躍が出来るなんて信じられなかったからだ。
それはオグルも同じだったが鷲鼻の騎士は冷酷にオグルの眼球を山刀で突き刺した。
『!!』
眼球を貫かれたオグルの動きが停止する様を少年は見つめたが鷲鼻の騎士は止めとばかりに山刀を一押しする。
だが、オグルは肉切り包丁を捨て、両手で鷲鼻の騎士を絞め殺そうと手を伸ばすが鷲鼻の騎士は山刀から手を離した。
山刀を手放した鷲鼻の騎士はオグルの顔を飛び越え、首に回ると山刀とは別の短剣でオグルの首に突き刺した。
『!?!?!?』
オグルは体をビクリと体を震わせたが、直ぐ両手をダラリと下げ、そして巨体を地面に倒した。
「パワーだけが全てじゃない。勉強になったかな?」
鷲鼻の騎士はオグルの巨体から離れると驚愕している少年に笑い掛けた。
だが鷲鼻の騎士はチラッと別方向に視線を向け、それに釣られて少年も視線を向けた。
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少年は傷だらけのオグルと対峙する白髪の騎士を見た。
白髪の騎士は平然と立っているがオグルは全身から血を流している。
ただ、その傷は浅く、蚊に刺された程度なのだろう。
『フンッ!さっきから小賢しい攻撃ばかりしているな』
オグルは肉切り包丁を右手に握りながら左手の節を折って白髪の騎士を嘲笑した。
「・・・・その少年を“教育中”だからな」
白髪の騎士はチラッと視線を送ってきて少年は驚愕した。
『僕の為・・・・・・・・』
驚愕する少年を白髪の騎士は一瞬だけ視線を送ると直ぐオグルの方を見た。
ただ口から放たれた言葉は少年に向けられていた。
「見ていたから解るだろうが・・・・この“ウドの大木”は非常に打たれ強い。そして腕力も強い」
その一撃を受けたら・・・・・・・・
「ああいう風になる」
無惨に叩き折られた木を白髪の騎士は一瞥してから少年に言った。
「・・・・・・・・」
「しかし・・・・当たらなければ“無意味”だ」
『フンッ!減らず口を叩くな!!』
白髪の騎士にオグルは吼えつつ、もう一匹のオグルと合流した。
もう一匹のオグルも体に矢を無数に浴びているが蚊に刺されたと言わんばかりにピンピンしている。
『残ったのは我と、そなただけだ』
『あぁ、そうだな。しかし我等2匹でも事は足りる。それに・・・・食える量が増えた』
喜ばしいと白髪の騎士と戦っているオグルは言い、それを聞いて少年は仲間意識も薄いと知った。
『確かに・・・・では、早々に殺すか』
『あぁ。少々手こずりそうだが・・・・その分、美味となると考えれば・・・・な!!』
オグルは肉切り包丁を大きく振り上げると白髪の騎士に突進した。
対して矢を受けていたオグルも弓矢を持つ青年に突進する。
2匹のオグルは左右から挟むように2人へ肉切り包丁を振り下ろしたが、2人は余裕で躱すと距離を取りながらオグルに攻撃を浴びせた。
白髪の騎士が振った剣から真空の刃が無数に飛んだ。
「魔法剣」だと少年は直ぐ分かったが、オグルの頑強な体を切断できるとは思えなかった。
だが真空の刃が確実に同じ箇所を切るのを見た。
それとは対象的に弓矢を持つ青年は連続でオグルに矢を放った。
こちらも急所と見られる箇所を狙っていたが少年は疑問を抱いた。
『矢の数は少ないのに・・・・何で余裕なんだ?』
弓矢を射る青年の腰に吊された矢筒に有る矢は残り数本・・・・・・・・
それでオグルを仕留められるのか?
いいや・・・・出来ない。
それは高笑いしながら矢を甘んじて受けるオグルを見れば一目瞭然だった。
だが喉に矢が突き刺さった瞬間・・・・オグルは片膝をついた。
しかしドシンと大きな地響きを聞いて少年は視線を音がした方へ向ける。
音がした方を見れば白髪の騎士と対峙していたオグルが片脚を折るようにして倒れている。
「どう・・・・・・・・ハッ!?」
少年は2匹のオグルを如何にして倒したのか疑問だったが直ぐ察するものがあったのだろう。
白髪の騎士と弓矢を持つ青年を見た。




