第十二章:黒い強風
少年は青年と森の中を歩き回り食べられる植物や木の蔓を入手して仮寝床に戻った。
その時には既に夜となっていたが、まだ浅いのが幸いと言えたのか少年は怖くなかった。
「意外と食べられる植物はあるんですね」
少年は自分の両手に溢れる勢いの植物と蔓を見ながら青年に話し掛けた。
「あぁ、沢山ある。しかし、取り過ぎるなよ?」
取り過ぎるとは後に困ると青年は言い、それに少年は頷いた。
「聖教の教えにもありますね。“強欲”は罪と」
「あぁ、あるな。それを偉そうに説教する奴等が強欲なのは皮肉だが・・・・小娘みたいな奴も居るからな」
存外に悪く言えないと青年は語るが仮寝床で肉を頬張る小聖職者を見るなり口端を上げた。
それを見て少年はまた悪戯すると察した。
もっとも2人の関係を聞く限り「じゃれ合い」と今では思っているが・・・・・・・・
「おうおう、よく食うな」
青年は小聖職者の前に植物と蔓等を置き、皮肉な口調で話し掛けた。
「体力向上の為ですっ。それより大丈夫でしたか?」
小聖職者は青年にツンと答えながら少年に声を掛けた。
「はい。色々と勉強できました」
対して少年は青年に倣う形で植物等を置きながら小聖職者の問いに答える。
「それは良かったですね。ですが、この方から学べる事は参考程度に聞いて良いですよ」
やる事が乱暴の一言に尽きるからと小聖職者は言うが、それに対して青年はふんと鼻を鳴らした。
「聖職者らしい台詞だな。まぁ良い。おい、坊主。さっき渡したナイフで小枝を削れ」
「木の羽」を作るんだ青年は言い、少年はポケットから折り畳み式ナイフを取り出した。
それを見て小聖職者は「刃物を持たせるなんて!!」と青年に噛み付いたが、青年は平然と返した。
「今の内に持たせて使い方を学ばせておくんだよ。大体てめぇは過保護すぎだ」
「過保護すぎではありませんっ。大体この子の手には余るではありませんか!!」
持たせるならこっちが良いと小聖職者は言い、懐から赤く塗られた折り畳み式ナイフを取り出した。
そして刃を起こすが、切っ先は丸く可愛らしい印象を少年は受けた。
「これなら切っ先も丸くて、この子にはちょうど良いです」
確かに、手に納まるサイズと少年は思った。
しかも切っ先が丸いからバター等を塗る時には良いとも見えたから初めて持つには打って付けだろう。
だが・・・・・・・・
『こっちの方が良い』
少年は青年から貰ったナイフを握りながら思った。
それは青年が渡したナイフは男心を刺激し、所有力を満たしてくれるからだ。
とはいえ小聖職者が差し出してきたナイフを要らないと言えば小聖職者を傷付けてしまう。
ここを幼いながら憂慮した少年は・・・・・・・・
「騎士様のナイフとは違う面で使えそうなので・・・・そちらも持ちたいです」
精一杯に考えたと青年には解ったのだろう。
小聖職者に「渡してやれ」と言った。
だが小聖職者としては不満なのか、顔を顰めている。
もっとも少年の考えを無碍にする訳にはいかないと思ったのか、刃を折り畳んでから少年に渡した。
「こっちの方が・・・・シンプルな作りですね」
少年は木製の柄に刃と、刃をロックする金具を取り付けたナイフを見ながら評した。
「それはあいつが最初に作ったナイフだからさ。しかし、奴の性格なんだろうな?俺にこう言った」
『初めて刃物を握る人でも手軽に使えるナイフを考えました』
「お前くらいだった時に作ったのも理由だろうが・・・・中々に洒落ているだろ?」
青年の言葉から少年は「確かに」と相槌を打った。
「まぁ、そっちの方が小さくて使い易いのは確かだから練習用にでも使え」
「はい。それで次は何をするんですか?」
「次は飯だ。まぁ、季節的に直ぐ痛んだりはしない」
今の季節が夏ではない事を少年は思い出し、なるほどと納得した。
その反面で今日は終わりかと物足りなを覚えたが・・・・・・・・
「そう落胆するな。言ったろ?お前は木の羽を作れ。今日の締めに焚き火をやる。焚き火にも種類があるからな」
少年の心中を読んだように青年は言い、採取した植物等を地面に敷いた布に置く。
それを言われて少年は苦笑せずにはいられなかった。
しかし気を取り直して刃を起こし小枝を手にする。
刃を起こしたナイフを小枝に添えた少年はゆっくりと小枝を削った。
削られた小枝は羽のように捲れたが、それを切り離さないように気を遣いながら少年は続けた。
慎重にやったから時間は要したが少年がナイフを小枝から退かすと見事に木の羽は出来た。
「初めてやるにしては上出来だ」
青年は少年が作った木の羽を評しながら「予備として2~3本ほど作れ」と命じた。
それに少年は頷き、2~3本の予備を作った。
ただ、何枚か木の羽は本体から切り離してしまった。
もっとも切り離してしまった木の羽を青年は捨てるなと命じ、傍らに設けた焚き火の前に切り離した木の羽を置かせた。
「この切り離した木の羽も“火種”になる。こいつと同じくな」
青年は少年に黒く炭化した布を見せた。
「それは・・・・・・・・?」
「綿を炭化させた“火口”だ。こいつの作り方も後で教えてやるが今は見ていろ」
言われるままに少年は青年がやる動作を注視した。
青年は地面に太めの枝を何本か置き、その上に細い枝を3~4本ほど置いた。
「空気を出し入れする空間を作るのと、延焼を防ぐ為に薪を敷いたんですか?」
樹皮を何枚か置いた所で少年が問うと青年は「あいつに似ている」と言いながら少年が切り離した木の羽も置いた。
「本当ならここまで用意する必要は無い。だが、もう直ぐ強風が吹くからな」
「強風が・・・・・・・・?」
少年は空を見上げたが、とても強風が吹くようには見えなかった。
しかし謎の魔獣が雄叫びを上げた点などから察するものがあったのだろう。
「次は、どうするんですか?」
恐怖を抑えて少年は尋ねた。
「これだけでも火は点けられる。しかし、より確実に火を点ける為に・・・・コイツを使う」
青年は黒く炭化させた綿の布切れを見せた。
「コイツに火打ち石鎌と火打ち石を使って火花を点火させる」
少年に見せるように青年騎士は火打ち石鎌と火打ち石で火花を散らせた。
そして青年は炭化させた綿布を置き、火打ち石鎌と火打ち石を当て火花を散らせた。
すると火花は炭化させた綿布に小さな火を灯した。
青年は上半身を屈めて息を吹き掛ける。
空間を作り空気の通り道も確保したからか、火は見る見るうちに大きくなった。
「凄い・・・・・・・・」
少年は目の前で大きくなった焚き火を見て感動した。
「なぁに大した事じゃない。慣れた奴やら更に上手くやる」
そう言いながら青年は焚き火の周りに今度は石を置いて竃を設けた。
「これで今夜は何とかなる。後は飯だから好きに食え。ただ、その前にナイフの汚れを落とせ」
「手入れは怠るな・・・・ですね」
青年は少年の言葉に頷き、乾いた布を手渡した。
その乾いた布で少年は木の羽を作ったナイフを綺麗に拭いた。
「後は油も定期的に塗れ。出来るなら椿とかの油が良いぞ」
それだけ言うと青年は荷物を入れたボンサックに手を突っ込んで小さな容器を取り出した。
その容器は浅くU字型に曲がった四角形の容器で色は黒色だった。
「それは?」
「“スキットル”っていう酒を容れる酒器だ」
少年の問いに答えてから青年は丸い蓋を開け、そのまま口にした。
「はぁ、美味い。一仕事やった後は美味いぜ。お前もやるか?」
「幼子に飲ませる代物ではありません!!」
青年の言葉に小聖職者が怒髪衝天を突いた。
「俺なんて5歳の時に飲んだぞ」
「貴方が非常識なんです!大体この子の為を思えば・・・・・・・・」
「説教する暇が在るなら魔法防御壁を張りやがれ。もう直ぐ来るぜ」
その言葉に小聖職者はハッとして、直ぐ魔法防御壁を張るために詠唱した。




