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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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第十一章:少年の家

 少年は青年が必要な木を運ぶ際、殆ど手伝いらしい事は出来なかった。


 倒木を運び終えてからも同じだった。


 青年は慣れた手付きで倒木を並べると次に厚みがあって広い布を広げると隅にロープを結んだ。


 それから倒木の何本かをロープで結んで立たせると、反対側に生えている生木にロープを結んでピンと張り、その上に布を被せるように張った。


 満足そうに一人、頷きながら青年は残った倒木を適当な場所に置いた。


 これで完成と青年は言うが「今は時間が無いからな」とも言ったので少年は問い掛けた。


 「完成と言ったのは・・・・・・・・」


 「一先ず雨風を凌ぐ為だ。明日にでも続きはやる」


 それまでの仮と青年は言いながら葉巻を銜えるが、それを一緒に来た小聖職者は咎めるような視線を送った。


 だが青年は異に返さずに葉巻に火を点ける。


 小聖職者は尚も咎める視線を送るが少年は何も言わずに改めて青年が設けた簡素な仮寝床を見た。


 仮寝床は木こり等のように林業あるいは狩人が設ける仮寝床と似ている。


 しかし領主たる青年が慣れた手付きで設ける辺り凄いと素直に思った。


 何せ大半は従者が設けるからだ。


 「これを水の騎士は自分でやっているんですか・・・・・・・・?」


 少年の問いに青年は鷹揚に頷いた。


 「あいつからやり方を教わった。何せあいつは多趣味だからな」


 何でもやると青年は語りながら荷物を仮寝床の中に置いた。


 「さて・・・・今度は食料と水の調達だな」  


 青年は荷物を置くと再び出ようとしたが、ここで小聖職者が待ったを掛けた。


 「それなら私が行きます」


 「生憎だな?お前は留守番だ」

  

 小聖職者の申し出を青年は一言で退けたが、それに小聖職者は食い下がった。


 「何で、また私が留守番なんですかっ」


 「お前なら敵も手を出し辛いからだ。さっきの“騒音”もそうだろ?」


 痛いところを突かれたのか、小聖職者は呻った。


 「解ったな?お前は留守番だ」


 「・・・・肉が減っても文句を言わないで下さいね」


 「暴食は聖書で禁じられているぞ。聖職者が破るのか?」


 「体力向上の為です。それより早く行って下さい!夜は直ぐ来ます!!」


 小聖職者が牧杖を今にも振り回しそうになったので少年は「早く行きましょう」と青年に提案した。


 「あぁ、そうだな」


 対して青年は少年に促されて再び出発した。


 しかし、その眼は悪戯が成功したのを喜んでいる眼だったのを少年は見逃さなかった。


 『本当にガキ大将みたいだ・・・・・・・・』


 青年の表情を見て少年は思わずにはいられなかった。


 もっとも自分の顔も自然と笑っている事に気付き、笑ったのが久し振りと自覚する。


 「へっ・・・・お前も面白かったんだな?」


ここぞとばかりに青年は問い掛けてきて少年は小さく頷いた。


 「良い傾向だ。それはそうと水がある場所までの距離はどれ位だ?」


 「少し歩く位の距離です。それが何か?」


 「あいつから教わったのさ」


 先ず寝床を確保し、次に水、食料を確保するべきと青年は水の騎士が教えた事を語った。


 「ここを考えると歩いて少しなら問題ない。ただ気を付けろよ?生水は体に当たる」


 だから火に掛けて「熱処理」をしてから飲むのが安全と青年は語り、少年は腹痛になった事を思い出し納得した。


 「まぁ、熱処理をしてもなる時はなるらしいが・・・・あいつから教わった事で失敗した事は今の所ない」


 失敗した時は自分が手を抜いた時だったと青年は語り少年は水の騎士に会ってみたくなった。

 

 しかし・・・・・・・・


 『この方みたいに強くなりたい・・・・・・・・』


 その思いが強くなったのを少年は自覚した。

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 水が在る場所に少年と青年が到着したのは間もなくだった。

 

 そこは溜め池で、周りを木の板が囲んでいる。


 「ここに水が在るなら飲み水は確保し易いな」


 青年は溜め池を見てから空の革袋を3つ腰から外して少年に渡した。   


 「こいつに水を入れろ。それが終わったら・・・・そうだ、こいつを渡しておく」


 青年は徐に手をズボンのポケットに突っ込むと何かを取り出した。


 それは刃が折り畳まれていた短剣と少年は直ぐ理解した。


 「こいつは俺の領土に居る鍛冶屋が作ったナイフだ」


 少年に説明しながら青年はナイフの刃を出した。


 刃先は背の部分が湾曲しており、切っ先は鋭利だから切る作業や突き刺す作業には向いていると少年は予想した。


 しかし大振りで、刃を仕舞う隙間があるから・・・・・・・・


 「動物を解体する作業には向いていないですね」


 少年がナイフの特徴を鋭く指摘すると青年は口端を上げた。


 「あぁ、その通りだ。よく見たな?」


 「亡父が言っていたんです。常に細かい点を見ろと」


 「言い台詞だ。ただ細か過ぎるなよ?女が嫌う」


 「確かに、そうですね。ですが僕が使って良いんですか?」


 少年は改めて渡された折り畳み式ナイフを見ながら青年に問い掛けた。


 「領土に帰れば新しいナイフを作れと頼むさ。何より刃物を持っていないなら持っておけ。そうすれば刃物の扱いを覚えられるからな」


 刃物は手入れで決まると青年は少年に語りながら水を革袋に入れた。


 「俺の場合は怠け癖があるからな。ついつい怠けて危うい眼に遭った」


 クソ親父との戦いで青年は語り、少年は怠けないようにしようと思った。


 「俺の話で怠けないように決めたな?賢いぜ」


 青年の言葉に少年は首を横に振り否定した。


 「僕より貴方の方が賢いですよ。このナイフの仕舞い方が分かるんですから」


 少年は刃が剥き出しとなったナイフを青年に見せた。


 「ハハハハハッ!あいつに似て人を上手く使うな?貸してみろ」


 笑いながら青年は少年からナイフを取るとグリップの下にある金属の板を力強く押した。


 そして空いている手でナイフを折り畳んで少年に返す。


 「ここを押してやれば仕舞える。出す時は押さなくても良いが・・・・ちょいと“仕掛け”を使えば片手で出せる」


 その仕掛けは自分で考えろと青年は言い、それに少年は頷きつつ初めて握る刃物に強い興奮を覚えた。


 『これがあれば野菜を切ったり、枝を削る事も出来る』


 以前までは石を使ったりしていたが、これがあれば生活は向上すると少年は思った。


 しかし、それとは別に亡き両親と、修道士達以外の人間から物を貰った事が少年には嬉しい事だったのだろう。


 大事そうにポケットに仕舞い込んだ。


 「後で小娘に余った革があるか聞いてみろ。鞘が必要だからな」


 青年は水を入れた革袋を2つ持ちながら少年に言った。


 「はい。ただ、その前に・・・・ナイフ、ありがとうございます」


 少年は青年に深く一礼してから革袋を片手で持った。


 「次は食糧の確保だ。こいつにもコツが要るんだが・・・・細かい点を見落とさないんだろ?」


 「はい。ちゃんと貴方の動きなどを見て勉強します」


 「良い返事だ。さぁ行くぞ」


 「はいっ!!」


 先に進んだ青年の後を少年は追い掛けた。


 しかし、その逞しい背中を焼き付けるように少年は青年から視線を外さなかった。

 

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