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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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幕間:賎しい聖職者の策略

 ブルケン村の修道院の中に在る自室でフランシス修道院長は椅子に座っていた。


 ただ何時もより気分が悪いとばかりに顔は険しい。


 その理由は先ほど現れた騎士と、小柄な聖職者が原因だった。


 『やはり王室の回し者だったか』


 フランシス修道院長は小柄な聖職者が名乗った修道院を思い出して鼻を鳴らした。


 「王室が創設した修道院など聖教ではない」


 確かに聖エルーナ修道院の生い立ちを考えれば間違いではない。


 寧ろ政治色が極めて強いが・・・・そこをフランシス修道院長は危惧していた。


 『下手に手を出せば王室が大義を得たとばかりに干渉して来るのは明白・・・・となれば動かないべきか?』


 ただし・・・・・・・・


 『間もなく聖戦の火蓋は切って落とされる。となれば・・・・現時点で排除できる存在は排除すべきでは?』


 脅威は早めに取り除くのは間違いではないとフランシス修道院長は自分の出した結論に確信を持っていた。


 しかし、それをやるにも方法が大事と自分に言い聞かせる。


 『下手に自分の部下を出しては墓穴を掘るからな。かといって民草など以ての外だ』


 自分に従う民草は私兵団と同じとフランシス修道院長は考えていたが、それは強ち間違いではなかった。


 何せ王室はエリーナ第一王女が統治を行うようになってからは厳罰に処する傾向が強いからだ。


 しかも、以前とは違い少しでも突ける点を見つけると、そこを突いて傷口を広げながら干渉するなど「狡猾」な手口も使っている。


 ここを考えると・・・・・・・・


 「聖戦の前に・・・・試すか」


 フランシス修道院長は凡そ聖職者に似合わない邪悪な笑みを浮かべた。


 「・・・・・・・・」


 邪悪な笑みを浮かべたフランシス修道院長は椅子から立ち上がると本棚を横に移動させた。


 横に本棚を移動させると隠し扉があり、その扉をフランシス修道院長は躊躇せず開けた。


 扉を開けると邪悪な気が地下へ通じる階段から部屋に立ち込めてきたがフランシス修道院長は躊躇わず階段を下りた。


 階段を下りていくと新たな扉があったが、それもフランシス修道院長は開けて中に入った。


 中には魔法陣が描かれた広い部屋があった。


 魔法陣は魔術師が異界より召喚する「召喚魔法」の陣だった。


 「・・・・・・・・」


 その魔術師にフランシス修道院長は蝋燭を6本ずつ並べた。


 ただ、蝋燭を置く順番、そして置き方は正規の方法ではない。


 寧ろ逆だった。


 本来ならば六芒星になるように蝋燭は置くが、フランシス修道院長は逆の形にした。


 六芒星の逆は「祈らない者」を召喚する方法---即ち「黒魔術」だ。


 「我が名はフランシス・・・・・・・・」


 フランシス修道院長は逆六芒星になるよう蝋燭を置き、その蝋燭に火を点けると自らの名を名乗った。


 『フランシスとやら・・・・・・・・』


 フランシスが名乗ると逆六芒星から地を這うような声が聞こえてきた。


 『汝、我々を呼んだが・・・・何用か?』


 『我々は祈らない者・・・・その我々を呼んだ理由を言え』


 『内容によっては我々は、汝の力を貸そう』


 『されど我々を悪戯に呼んだなら・・・・・・・・』


 『その身を代償に払うが・・・・呼んだ理由は何だ?』


 逆六芒星から聞こえる声は邪悪な声で問い掛けてきたがフランシス修道院長は怯えずに答えた。


 「私が貴殿等を呼んだ理由は唯一つ。貴殿等の力を持って敵対者を殺す事だ」


 フランシス修道院長の言葉に祈らない者達は愉快そうに笑った。


 『フハハハハハ・・・・祈らない者である我々とは対を為す汝が・・・・我々を呼ぶとは・・・・・・・・』


 『何時の世も汝のような輩は居たが・・・・今回は頻繁に呼ばれるな』


 『全くだな。しかし・・・・我々を呼ぶならば・・・・見返りは何だ?』


 『見返りなくして我々は動かんぞ』


 『それこそ・・・・村一つ位は、我々に捧げるのだろ?』


 「聖職者・・・・しかも年若い娘と、元気な幼子はどうか?」


 フランシス修道院長は祈らない者達が言った「頻繁」という単語を聞き漏らさなかったが、敢えて無視する形で贄の質を口にした。


 すると祈らない者達は愉快そうに笑ったが、直ぐにフランシス修道院長の願いを聞き届けると答えた。


 それは年若い娘も幼子も彼等には何物にも代え難い「大好物」だからだ。


 『では、フランシス。今宵・・・・汝の前に現れる』


 祈らない者の声にフランシス修道院長は頷いた。


 「感謝する。しかし・・・・・・・・!?」


 グワァァァァァン!!


 地上から聞こえてきた獣の雄叫びにフランシス修道院長は瞠目した。


 対して祈らない者達は愉快そうに笑った。


 『フハハハハハ・・・・この雄叫び・・・・自分の縄張りを荒らされると捉えたな?』


 『それはそうだろう。しかし・・・・我々には関係ない』


 『欲しければ・・・・奪い取れ』


 『それが我々の唯一掲げる掟だからな』


 何処までも愉快そうに祈らない者は笑ったが、暫くすると蝋燭の火が消えた。


 それに伴い祈らない者の気配も消え、残されたのはフランシス修道院長だけとなったが・・・・・・・・


 「この雄叫び・・・・間もなく成獣となるな」  


 フ、フハハハハハ・・・・・・・・!!


 「我等が悲願、間もなく成就せん!!」


 狂った高笑いをフランシス修道院長はしながら部屋から出て階段を登り始めた。


 その表情は、まさに「賎しい聖職者」という言葉が実に似合う表情だった。

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 深夜となった修道院の外にフランシス修道院長は居た。


 フランシス修道院長は松明はおろか蝋燭すら持たずに立っていたが、間もなく召喚の魔法陣で応じた者は来ると確信していた。


 それは前修道院長が書き残した日記から得た情報からきている。


 前修道院長の日記では召喚魔法陣の中に呼び出し、そこで契約を交わす異界の者の他にも魔法陣の外に自ら出て契約を交わすよう求める者も居るとの事だ。


 もっとも魔法陣は術者を護る「結界」の役割を担っているので、おいそれと魔法陣の外で契約を交わすのは軽率とされている。


 しかし・・・・・・・・


 『この身は神に護られているから心配あるまい』


 首から提げた十字架と聖水で清めた服を撫でながらフランシス修道院長は心中で自信を持っていた。


 ただ、祈らない者達の語った内容から・・・・然る人物に怒りを覚えた。


 『あの小僧・・・・やはり法王猊下を何れは亡き者にするつもりだな』


 祈らない者達が言った「頻繁」とは・・・・恐らく彼奴が召喚しているとフランシス修道院長は考えていたから怒りを覚えるのも彼の立場から言わせれば無理もない。


 とはいえ・・・・・・・・


 『先ずは、あの騎士共という”障害”を潰さねばならん』


 だからこそ召喚魔法で祈らない者達を呼び出した訳だが・・・・・・・・


 ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


 とても強い風が吹いてフランシス修道院長は思わず目を閉じた。


 今まで静寂だったのに突如として吹いたのは何故か?


 『来たな!!』


 フランシス修道院長は目を閉じながら耳を澄ませた。


 すると強風に紛れて足音が複数・・・・聞こえてきた。


 そして強風に乗り・・・・異臭が鼻を突いてきた。


 何とも表現し難い異臭だが、直ぐ真新しい血の臭いが来たのでフランシス修道院長は目を開ける。


 目を開けると強風の中だというのに平然と立つ人影が見えた。


 ただし、その人影は優に2メートルを越える身長とガッチリした体格をしており闇夜に紛れるように黒い肌の色をしている。


 やがて暗闇になれたフランシス修道院長は2本足で立つ異界の者の異形な顔形を見て生唾を飲み込む。


 異界の者達は口が耳まで裂け、歯は全て犬歯で左右の端に生えた犬歯は口から飛び出し薄汚れていた。


 言うまでもなく血の汚れとフランシス修道院長は確信しつつ・・・・異界の者達の名を問い、異界の者達は血生臭い息を吐きながら名乗った。

 

 『我等は”オグル”だ』


 「・・・・そなた等を呼んだフランシスだ。早速だが・・・・貴殿等に捧げる贄は、ここには居ない」


 『ほぉ・・・・我等を異界より呼び出しておきながら贄を用意しなんだか?』


 コキッとオグルの1匹が右手の節を折った。


 「それについては言い訳しない。しかし、ちゃんと贄は居る。この村外れの森に在る小屋に居る。聖職者も一緒だが・・・・護衛の騎士が一人だけ居る」


 『なるほど・・・・そいつを殺した後に我等で食えと言う訳か』


 『やれやれ、随分と高飛車な召喚者も居たものだな』


 『だが、良いではないか。頻繁に呼ばれて出てみれば魔法陣の中で身動き一つ取れなかった時に比べれば・・・・ここは自由だ』


 『確かに・・・・そして贄を我等の手で探して、仕留めるというのも中々に乙だ』


 『もっとも・・・・先ほど雄叫びを上げた獣も居るが・・・・あの獣は、汝の飼う”ペット”か?』


 オグルの1匹が皮肉を込めてフランシス修道院長に問い掛け、それに対してフランシス修道院長は恐怖と怒りを堪えつつ首を横に振った。


 「あの獣は、神が遣わした聖獣だ。ペットではない」


 『クッ・・・・クククク・・・・フハハハハハハ・・・・神が遣わした聖獣とは驚きだ』


 オグル達は耳まで裂けた口を開けて笑い声を上げた。


 その笑い声は強風に紛れて誤魔化されたが・・・・その邪悪な気は、風に乗り四方へと散らばった。


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