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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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第八章:聖エルーナ修道院

 少年は青年と小聖職者の間に挟まれる形で街道から外れた茂みを進んでいた。


 敢えて街道から外れた道を歩くのは先ほどで出会った私兵団の眼を誤魔化す為であり・・・・・・・・


 「よし・・・・見つけた」


 青年は膝を折ると地面から生えていた植物を手にした。


 それが食べられる植物と少年は悟ったが小聖職者の方も薬草を見つけたのか、嬉しそうに笑った。


 そう・・・・私兵団の眼を誤魔化す為に以外の理由は食糧と薬草の確保法だ。


 しかし歩く速度はやや速いので、採取する時間は少ない。


 青年としては今日の昼か、夜には村に着きたいからだったが・・・・・・・・


 『果たしてフランシス修道院長は・・・・騎士様達が逗留する事を許可するか?』


 先ほど私兵団が話した内容を考えると少年は心中は別として表向きは逗留する事を許可すると考えた。


 だが魔獣の話も聞いたから・・・・・・・・


 「・・・・・・・・」


 修道院が飼っている獣が如何なる獣かは少年には想像も出来ない。


 しかし、自分が食われる姿は容易に想像できたのだろう。


 ゴクリと唾を少年は飲み込んだ。


 「・・・・安心しろ」


 青年の声に少年はハッとして前を見た。


 すると青年と視線がピタリと合った。


 「あいつ等の言っていた魔獣は倒す。理由は私情だが・・・・それは約束してやる」


 「・・・・はい」


 青年の言葉には不思議な力があると少年は頷きながら思った。


 それは先ほど抱いた恐怖や不安が嘘みたいに消えたからだ。


 いや、消えたと言うよりは「燃やされた」と言うべきかもしれない。


 もっとも青年は少年から視線を既に外し前を向いていた。


 「まったく・・・・仕方ない方です」


 後ろに居た小聖職者は少年に聞こえるように小さく嘆息した。


 だが、その嘆息は青年の不器用な性格を言っているんだと少年には察しがついた。


 とはいえ青年の進む道を共に歩いて照らす事を少年も青年も知っている。


 知らぬは小聖職者本人だけだが・・・・・・・・

 

 『言わない方が良い』


 少年は幼い頭で直ぐ結論を出した。

 

 それは言えば2人が口喧嘩をすると容易に想像できたからだ。


 しかし・・・・・・・・


 『2人とも本音をぶつけ合っている』

 

 自分が厄介になった叔父夫婦とは違うと少年は思ったが、だからこそ2人はこうして歩いているとも思った。


 それは2人が気持ちを隠さなかったからだが、少年には2人の性質が炎だからと捉えた。


 小聖職者の言う通り炎は全てを焼き払う力を持っている。


 しかし・・・・・・・・


 『人の不安な気持ちを焼き払い、安心感を与えてくれるのも炎が持つ力だ』


 そして2人は片方の性質しか持っていないように少年には見えた。


 だからこそ・・・・こうして一緒に居ると結論を出した。


 そんな結論を少年が出したなんて2人は知らない。


 そして青年が先ほど言った通り・・・・夕方に少年の故郷ブルケン村に到着した。

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 少年がブルケン村に到着すると待ち構えていたように修道院の長フランシスが私兵団が居た。


 ただ、そこには自分が厄介になっていた叔父夫婦も居た。


 「貴方がブルケン村を守護する騎士修道会の騎士達を傷つけた騎士ですか?」


 フランシスの問いに青年は鼻を鳴らした。


 「ふんっ。ガキ一人に抜き身の刃を振るって追い掛け回すのが、ここの騎士修道会なのかよ?」   


 「私が統治する、この地周辺は王国の憲法より・・・・・・・・」


 「お待ち下さい」

  

 フランシスの言葉に小聖職者が待ったを掛けて前に出た。


 「貴女は・・・・・・・・?」

  

 ジロリとフランシスは小聖職者を値踏みするように見たが小聖職者は怯えもせず名乗った。


 「私は”聖エルナー修道会”から来た者です」


 『!?』


 小聖職者が言った修道会の名を聞いてフランシス修道院長達は目を見開いた。


 何せ聖エルーナ修道会は聖教の中でも権威ある修道会の一つとして数えられているからだ。


 それは第5代目国王レイウィス・フォン・バイサグ女王の実妹だったエルーナ第2王女が夫と死に別れた後に修道院を創設し、そこに籠った経緯があるからである。


 レイウィスから国王の座を引き継いだ6代目国王イファグは姉が完成させた政教分離に対し・・・・更に個人なりに聖教への釘を打ったとされている。


 その釘は妹であるエルーナを「聖人」の列に入れるよう聖教に命じた事だった。


 もっともイファグが命令するよりも以前にエルーナの人格や徳を称賛あるいは崇拝している者は多く、民草の間でもエルーナを聖人と見る動きがあったとされている。


 そして聖教としても罪滅ぼしという面もあったのだろう。


 時の司教は数人の司祭および牧師と相談した結果・・・・エルーナを聖人の列に入れ、そして彼女を慕って共同生活を送った女性達の集まりを「聖エルーナ修道会」として認知した。


 こういう経緯もあり聖エルーナ修道会は聖教の中でも特異な修道会と知られている。


 同時に王室に味方している事でも聖教派の間では知られていたが・・・・これを無碍にする事は出来ない。


 それをフランシス修道院長は苦虫を噛み潰したような表情で証明していた。


 「フランシス修道院長。この騎士が言う通り・・・・この少年一人に騎士修道会の者達は剣を抜いておりました」


 私が保護しなければ今頃は殺されていただろうと小聖職者は語りながら聖書の言葉を引用してきた。


 「汝、罪を犯した者を見つけたならば先ず罪を犯した事情を聞き、その事情を聞いた後に法に沿って罰を与えなさい。ただし、行き過ぎた罰は己の為にもなりませんので注意しなさい。こう神も教えた筈ですが・・・・騎士修道会の者達が行おうとしたのは行き過ぎたのでは?」


 「それを決めるのは、神が住まう修道院の長である私です。如何に聖エルナー修道会の方とはいえ干渉は止めて頂きたいですね」


 フランシス修道院長の言葉に小聖職者の口が再び開いた。


 「フランシス修道院長。貴方の言葉は一理あります。ですが・・・・貴方も私も国王陛下が統治する王国の臣民です。ならば王国の定めた法に従う義務があります」


 「・・・・仮にも聖エルーナ修道会の修道女だと言うのに聖教の教えより国法を取るのですか?」


 フランシス修道院長の口調が硬くなったのを少年は敏感に感じ取ったが、青年は口端を上げ続けたままであるのも少年は見た。


 それを見て少年は確信した。


 『修道女様は・・・・勝つ』


 少年の確信を証明するように小聖職者はフランシス修道院長に反論とも言える台詞を発した。


 「”真っ当な聖職者”だからこそ国法に従うのです。ただ、同じ聖職者として・・・・貴方様に御忠告します」


 「・・・・忠告とは?」


 フランシス修道院長が見下ろすのに対し、小聖職者は見上げる形だったが・・・・表情と声の硬さを考えると・・・・どちらが押しているかは明らかだった。


 その証拠に小聖職者は滑らかに言葉を発した。 


 「何人たりとも私刑を行使する事を固く禁ずる。もし、私刑を行えば・・・・その者には同じ刑罰を与える。こう国法では定めております。またエドリアス司教様もこう言っておりましたわ」


 『聖教の中に設けられた”聖教法”は聖教の中で定めた法。対して国法は王国に住む者達が守るべき法律である。つまり聖職者であろうと国法に従うのが筋というもの。もし、これを破るようなら司教の立場を持って国法から逸脱した信者を”大破門”に処します』


 「・・・・・・・・」


 フランシス修道院長は無言となったが眼が血走っているのを少年は見た。


 いや・・・・フランシス修道院長だけではない。


 フランシス修道院長に従っている者達は・・・・眼が血走り、今にも小聖職者を殺しそうな勢いさえあった。


 「フランシス修道院長。私は聖エルーナ修道会から然る命令を与えられて来ました」


 小聖職者の言葉にフランシス修道院長は血走った眼を隠すようにしながら如何なる命令か問いを投げた。


 それに対して小聖職者は懐から羊皮の紙を取り出し・・・・その紙に書かれた内容を読み上げた。

 

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