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犬割り騎士  作者: ドラキュラ
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幕間:4人の騎士達

 ソワソン地方の街道を4人の男達が歩いていた。


 先頭を進むのは革鎧を纏い、その上から獣の毛皮を纏った10代後半の青年だった。


 ただ騎士にしては剣を差していない点から従者と見るべきかも知れない。


 その青年の背後には2人の男が居た。


 右を歩く男は40代半ばで膝丈まである朱色のサーコートを身に纏い、腰には1m前後の反りが浅い湾剣を帯びている。


 右手には朱色に塗られた柄と三日月状の刃が特徴の槍を所持しているが容易に抜かないよう戒めているのか?


 顔は厳しい表情を浮かべている。


 対して左を歩く20代半ばから後半の男は真逆の印象を受ける。


 黒のサーコートを纏いつつ左手のみ白い籠手を身に着け、腰に90㎝前後の反りの浅い湾剣を帯びた姿は上位の騎士に見える。


 しかし整った美しい顔は冷たい表情をしており、肩まで伸びた髪は年齢とは逆に白髪だった。


 そして右を歩く男とは違い血を体臭のように身に纏っている。


 「うん・・・・間違いない。兄貴と姉ちゃんはここを通っている」


 青年は何気なく片膝をついて地面に残る足跡を見て2人に告げた。


 「ほぉ・・・・あの小柄な修道女は追い付いたか」


 白髪の騎士は皮肉そうな笑みを浮かべて知り合いと思われる修道女を評価した。


 「・・・・それだけ彼の娘は意思が固いのだろう。しかし、御大将も気を遣ったのだろう」


 良い傾向だと壮年の騎士は語りながら街道から離れた茂みを見た。


 「あの男が気になりますか?」


 白髪の騎士が壮年の騎士に問いを投げると壮年の騎士は鷹揚に頷いた。


 「我等より一足早く御大将の後を追い掛けた割には姿を見せんのが気になる」


 「ナンパでもしているんじゃねぇの?」


 青年はゲスな発言をしたが、白髪の騎士が「こんな茂みに奴が口説く女が居るものか」と冷静なツッコミを入れた。


 「いいや、分からないぜ?まぁ・・・・あのおっさんなら何か遭っても大丈夫と俺は思うけど」


 「奴に勝てる者はそう多くない。しかし・・・・姿を見せない点は確かに気になりますね」


 白髪の騎士は青年の言葉に相槌を打ってから壮年の騎士を見た。


 「・・・・聖教からの刺客が早々に来たのかもしれんな」


 壮年の騎士は自分達が従う主人の性格を考慮したような台詞を発した。


 「はぁ・・・・やっぱり兄貴、やっちゃったかな?」


 「恐らくな。しかし・・・・奴等は倒すべき敵だ。遅いか早いかの違いだ」


 白髪の騎士は青年の嘆息に淡々と答え、壮年の騎士に視線を送った。


 「・・・・行ってみるか」


 あの騎士が押されているとは考え難いと言いながら壮年の騎士は言いながら茂みへ足を踏み入れた。


 「・・・・・・・・」

  

 壮年の騎士に続いて白髪の騎士が後に続き、最後に青年が付いて行った。


 ただし主人の性格に似ている為か?


 3人は各々の得物を何時でも抜けるようにした。


 そして・・・・それは正しいとばかりに3人は鼻をピクリとさせた。


 「この臭いは・・・・・・・・」


 「・・・・真新しい血の臭いだ」


 「フッ・・・・やはり聖教は邪教だな」

 

 白髪の騎士は鞘から反りの浅い湾剣の鯉口を切眼を細めた。


 刹那・・・・瞬く間に湾剣を鞘から抜いて飛来してきた矢を真っ二つにした。


 「・・・・先ず一人」


 白髪の騎士は右手に持った湾剣を右肩に掛けると冷笑を浮かべて囁いた。


 すると・・・・かなり離れた場所から何かが倒れる音が鳴り、間もなく血の臭いが流れてきた。

  

 「・・・・何者か?」

 

 壮年の騎士は白髪の騎士に嘆息しながら森林に今も隠れている集団に問い掛けた。


 しかし・・・・答えは返って来なかった。


 代わりに四方から無数の矢が3人に向かい飛んできた。


 「ふんっ。人間の皮を被った獣が」


 白髪の騎士は飛来してきた矢を湾剣で切り落としながら冷笑を浮かべた。


 「おっと!?この野郎!!」


 青年は矢を軽やかに躱しながらロングボウに矢を番えると飛来した方角に矢を射た。


 「・・・・・・・・」


 壮年の騎士は十文字槍を短く持つと矢を最小限の動きで叩き落としながら足を踏み出した。

 

 すると矢は更に数を増やして行く手を阻もうとしたが、そんな真似は無意味とばかりに壮年の騎士は足を前に進める。


 そしてある程度まで行くと十文字槍を無造作に振るった。


 「!?」


 十文字槍が振るわれて間もなく近くの木の影から一人の騎士が口から血を吐きながら倒れた。


 その騎士が倒れると一斉に矢を射かけた者達が現れ矢を再び射た。


 しかし、それとは別にロングソードを持った騎士達が襲い掛かってきた。


 「ふんっ。卑しい邪教の手先が・・・・・・・・」


 白髪の騎士が悪態を吐きながら一番槍を決めようとばかりに壮年の騎士を抜いて敵の騎士に斬り掛かった。


 「死ねっ!!」


 敵の騎士が掛け声と共にロングソードを振り下ろし、白髪の騎士を真っ二つにせんとした。


 しかし白髪の騎士はスレスレでロングソードを躱すと左袈裟掛けに騎士を斬って捨てる。


 「!?」


 左袈裟に斬り捨てられた騎士は体から血飛沫を上げて地面に倒れるとピクリとも物言わぬ死体と化した。


 「この野郎!!」


 別の騎士が激昂してロングソードを振り上げるも白髪の騎士は身を低くして胴を払った。


 白髪の騎士が振るった湾剣は吸い込まれるように敵の騎士の胴に鎧を難なく斬り・・・・その騎士の胴を真っ二つにした。


 ドパァァァァァ!?


 大量の返り血が白髪の騎士を赤く染めた。


 しかし白髪の騎士は気にせず次の獲物に眼を向けるが・・・・肩を落とした。


 「やれやれ・・・・消化不良になりましたよ」


 白髪の騎士は血を吸った十文字槍を片手に事切れている敵の口に笹の葉を噛ませる壮年の騎士に愚痴を言った。


 「・・・・魔獣が棲む村では消化不良は起こらんさ」


 これを見てくれと壮年の騎士は事切れた敵の首から十字架を白髪の騎士に見せた。


 それを見て白髪の騎士は冷笑を深く浮かべた。


 「流石は邪教・・・・我等が御大将の正体を早くも嗅ぎつけましたか」


 「あぁ、その通りだ」


 白髪の騎士と壮年の騎士はチラリと声が聞こえた方角を見た。


 そこには30代半ばの男が立っていた。


 ブラウンが僅かに混ざった黒髪にグレーの瞳と、やや尖った鷲鼻と長身が特徴だったが、装備は地味な印象を受けた。


 それは藍色という地味な色で染めた革鎧を着ている点だ。


 だが白髪の騎士も壮年の騎士も見慣れているのだろう。


 壮年の騎士は音も無く現れた男に平然と問いを投げた。


 「随分と遅かったな?」


 「体力が無いんでね。一休みしていたんだよ」


 「おい、おっさん。あんだけの人数を相手にしながら体力が無いなんて言うなよ」


 弓矢を持った青年が音も無く現れた男の背後から声を掛けた。


 「おっさんに体力が無いなら姉ちゃんが泣くぜ」


 「そいつは困る。婦女子は敬うのが騎士だからな」


 青年の言葉に男は肩を落としながら答えた。


 「フッ・・・・偉くなったな?」


 白髪の騎士が軽く皮肉を言ったが、それに対して男はこう答えた。


 「偉くなったんじゃない。漸く俺の実力を正当に評価してくれる主人に会ったからさ」


 「なるほど・・・・それでどうだった?」


 白髪の騎士は男に問いを投げ、壮年の騎士と青年も鷲鼻の男を見た。


 「コイツ等、御曹司とやり合ったらしい。まぁ、御曹司の性格を考えれば“何時もの事”だ」


 鷲鼻の男の説明に3人は「やっぱり」と言わんばかりに肩を落とした。


 しかし鷲鼻の男は説明を続けた。


 「だが問題はコイツ等の主人が大して気にしてない点だ。どうやら自分の領地に来るから安心しているらしいです」

 

 「自分の領地内で始末するのは間違ってはいないが・・・・果たして隠し切れるかまでは考えていない訳か」


 壮年の騎士は鷲鼻の男の説明から魔獣が棲む村に居る聖教の人間が考えている事を予想したが、最後の方は中々に手厳しい評価だった。


 「聖教の考えが甘いのは今に始まった事じゃないですよ。しかし・・・・相手が先に喧嘩を売ってきたんです」


 売られた喧嘩は買うのが御曹司の性格と鷲鼻の男は語りながら自分達がどうするかも口にした。


 「御曹司が売られた喧嘩を買うなら・・・・俺達も御大将に加勢しようじゃありませんか」


 「フッ・・・・確かに。では行くか」


 白髪の騎士は血脂を拭った湾剣を鞘に納めながら言ったが白髪の騎士が死体を一列に並べるのを見て眼を細める。


 「・・・・死体を埋めるぞ」


 この言葉に白髪の騎士は閉口したが鷲鼻の男と青年は心得たように穴を掘り始めた。


 それを見て白髪の騎士も仕方ないとばかりに男が始末した敵の死体を持って来ようと茂みへ消えた。


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