幕間:老人の語り
「・・・・ここまでの話は解ったかな?」
老人は目をキラキラさせて話を聞いていた幼子達に問いを投げた。
すると幼子達は「うんっ!!」と頷いた。
「それは良かった」
幼子達の回答に老人は満足に頷いたが、幼子達の父親は問いを投げた。
「犬割り騎士様と、小聖職者様が少年と出会った経緯は解りましたが・・・・その犬割り騎士様が追い掛けていた水の騎士とはどんな方だったのですか?」
小聖職者は2人を運命のように繋がっていると説いた点が気になると父親は語り、それに老人は鷹揚に頷いてから答えた。
「水の騎士は炎の騎士とも称されている犬割り騎士様とは・・・・まさに対を成す存在だったのです」
片や直情的で豪快を絵に描いた騎士なのに対し・・・・・・・・
「水の騎士は冷静沈着で、臨機応変に戦う事を旨としていたそうです。ただ、この2人は対を成すからこそ・・・・互いに足りない点を埋めるかのように伝説を幾つも作ったのです」
「大カザン山脈」を御存じですかと老人は問い、それに幼子達の父親は頷いた。
「では、そこに伝わる”湖の騎士団”の伝説は知っておりますか?」
「多少は・・・・・・・・」
子供達の父親は老人の問いに頷いたが詳しい事は知らないのか、少し顔を下げている。
「湖の騎士団は水の騎士が出て来る逸話の一つですが・・・・犬割り騎士様も水の魔物と戦った逸話があるんです」
対して水の騎士も炎の魔物と戦った逸話があると老人は語り、それを聞いて子供達の父親は老人の言った内容に合点がいったのか眼を細めた。
「ねぇ、御爺ちゃん。その水の騎士は犬割り騎士様と戦った事があるの?」
幼子の一人が老人に問いを投げ、それに続いて2人の幼子も聞きたいとせがんだ。
「あぁ、何度か戦った事があるよ。ただ、勝敗は大抵が引き分けだったんだよ」
どちらも決定的な一手を打てなかったからと老人は語りながら犬割り騎士と小聖職者の四方を囲むように立つ騎士達の像を見た。
そして幼子達に問いを投げた。
「ここで問題だ。どうして2人の騎士は決定的な一手を打てなかったと思う?」
この問いに幼子達は口を揃えて答えた。
『どっちも優秀な部下達が居たから!!』
「ふふふふ・・・・正解だ。そう・・・・2人の騎士には優れた部下達が大勢いたんだ」
「犬割り騎士様を囲む4人の騎士がそうなの?」
幼子の一人が再び問うと老人は頷いた。
「あぁ、その通りだよ。この4人の騎士はこれから出て来るから名前だけ教えよう」
老人は四方に立つ4人の騎士を見ながら名前を幼子達に教えた。
「東を護る騎士は笹の指物を背負っている事から”笹の騎士”と呼ばれているんだ」
5人の中で最年長という事もあり、一種の父親的な存在とされていると老人は説明した。
「そして西を護る騎士は左手だけ白い籠手をしている事から”白の騎士”と呼ばれているけど聖教のシンボルである十字架を握り潰している事から”警告の騎士”とも呼ばれているんだ」
聖教が変な真似をしないようにする為と老人は幼子達に説いたが・・・・父親だけは察するように眼を細めた。
しかし老人は次の騎士を説明する事で幼子達の眼が父親にいかないようにした。
「北を護る騎士は弓矢を持ち、犬割り騎士様の従騎士だった事から”弓の従騎士”と呼ばれているんだ」
4人の騎士では一番若かったと老人は語り、それを聞いて幼子達は「だから顔が幼いんだ」と納得した。
「そして最後に南を護る騎士の名前は”風の騎士”だ」
「え?陰の騎士じゃないの?」
「だって手裏剣を持っているよ」
「ねぇ、どうして風の騎士なの?」
幼子達は修道士が言った名前に疑問を口にした。
「確かに、この騎士は手裏剣を持っているから陰の騎士と呼ぶ人も居る。ただ今より昔は陰の騎士の地位は低かったんだよ」
ただ陰の騎士は自分の技術に誇りを持っていたと老人は語った。
「そして鷹のように空高く跳べた事から風の騎士と渾名されたのさ」
この騎士が犬割り騎士様の第一の部下と修道士は説明した。
「皆、小聖職者様が言ったように癖が強い方々だったけど・・・・この方達の活躍でソワソン地方は救われたと言っても良い」
もし、この方達が居なければ・・・・・・・・
老人は無言で5人の騎士達を見上げていたが、少し経つと改めて説明を始めた。
「犬割り騎士様と小聖職者様達が少年と共に村へ先に着いて、少年が住んでいた小屋に居を構えたんだ」
対して4人の騎士は少し遅れる形で出発したと老人は語った。
「ただ、4人の騎士が村まで後2日の距離まで来た時に聖教は刺客を放ったんだ」
既に情報を入手していたからと老人は語り、幼子達はどんな話なのかベンチから身を乗り出して耳を傾けた。
「聖教が放った刺客は犬割り騎士様が倒した私兵達だけど・・・・4人は難なく倒したんだ」
4人揃って癖は強いが、同時に実力もあったから問題なんて無かったらしいと老人は語るが・・・・・・・・
「だけど、これが聖教には脅威と映って”禁術”で創造した兵を出して来たんだ」
それがオグルと修道士は幼子達に語った。
「オグルは心身ともに汚れた人間の末路と言われている通り・・・・元は人間だったんだ」
ただし魔界にオグルは居ると老人は説いたが・・・・・・・・
「当時の修道院長---フランシス修道院長は先代の修道院長が残した書物などを持っていたから・・・・村民をオグルにしたんだ」
人間をオグルにするという聖職者にあるまじき行為をしたと老人は語り幼子達は怯えた。
「でも犬割り騎士様達の敵ではなかったから全員が成敗されたよ」
老人は怯えた幼子達を安心させるように笑いつつ腰に吊していた蕨の柄頭が特徴の短剣を鞘から抜いた。
「さて話を犬割り騎士様に戻そう。犬割り騎士様は手斧を装備して日常生活から戦闘に至るまで幅広く活用したんだ」
少年を伴いソワソンの地へ着く間も野営の際に活用したと老人は語りつつ子供達に蕨の形をした柄頭を見せる。
「犬割り騎士様は手斧の峰をハンマー代わりにするなどしたんだ。対して私は蕨の形にした柄頭で草木を磨り潰したりしているんだけど・・・・新鮮に映ったよ」
タペストリーや話で聞いた事はあるが目の前で見る事と自分でやるとでは明確な差が出ると老人は説いた。
「犬割り騎士様が・・・・少年には父兄に見えたのですね」
子供達の父親は老人の語りを聞いて静かに相槌を打った。
「その通りです。そして4人の騎士を含めて・・・・家族だったのです」
例え短い付き合いでも少年には大きな影響があったと老人は語ったが・・・・・・・・
その眼には昔を懐かしむ色があったのを父親は見た。
「ねぇ、犬割り騎士様の後を追い掛けて来た4人の騎士達の御話を聞かせて!!」
「聞かせて!!」
「聞きたい!聞きたい!!」
老人の裾を幼子達は引っ張り話の続きをせがみ始めた。
「あぁ、すまなかったね。では4人の騎士が犬割り騎士達達の後を追い掛けて来た所を話そう」
老人の言葉に幼子達はベンチに再び腰掛け直すのを見てから老人は語り始めた。
「犬割り騎士様達より数日ほど遅れて4人の騎士達は出発したんだよ」
ただ先ほども話した通り聖教は私兵団を派遣して行く手を阻もうとしたと老人は語ったが・・・・・・・・




