序章:異形の騎士
どうもドラキュラです。
今回は1年くらい前から書いていた小説を投稿します。
この話は栃木県の「崇真寺」にある「犬切り不動」という昔話をベースに書き上げた小説です。
些か粗削りとなっているので修正を掛けながら投稿しますが、物語り事態は完結させたので気長に読んで下さると幸いです!!
サルバーナ王国の王都ヴァエリエから15日ほど離れた場所に在るソワソン地方の然る小さな村。
そこには小さな修道院があった。
しかし、通常なら聖教の修道院である事を示す為に屋根に見える形で在る筈の十字架が無かった。
いや・・・・十字架はあった。
ただ・・・・その十字架は雄牛と見間違えるほど大きな犬が咥えていたが、大きさだけではなかった。
十字架を咥える犬は山羊のような角を額から生やし、白と黒の斑模様を全身に刻んでいた。
そして耳は猫みたいに三角形だが兎みたいに長いのも特徴で、魔術書を読んだ者なら如何にして犬が誕生したか察するだろう。
そんな犬だが、当時の聖教を皮肉るかのように・・・・一人の騎士に踏み付けられていた。
ここだけ取ってもよく見かける騎士の銅像にしては余りに異常だ。
何せ怪物を退治する騎士像はよく見られるが、ここぞとばかりに踏み付ける姿は早々に見ない。
しかし、それだけではない。
聖教を皮肉るような犬を踏み付ける騎士は炎を纏うようにして立っていた。
この点は神話や伝説の類をモデルとしていると考えれば大した問題ではないかもしれない。
ただ出で立ちは些か教会に立てる銅像にしては品位が欠けると聖職者は眉を顰めるだろう。
顔面が露わになった緋色に塗られ翼を生やした虎の前立てを取り付けた兜を被り、片袖の無いラメラー・アーマーを着ている。
そして右手には手斧を持ち、左手には荒縄を持って犬を踏み付けていた。
このような姿は芸術にも宗教的観点を見出す聖教の信者から言わせれば目も当てられないだろう。
それを助長するように騎士の表情は憤怒の表情だった。
格好から表情まで凡そ騎士とは思えない。
加えて騎士を囲むように東西南北の位置に立つ4人の騎士に至っても当時の聖教を皮肉ってか、性格も外見も歪んだ悪鬼である「オグル」を踏み付けている。
同時に中央に立つ手斧を持った騎士同様に格好も奇抜な出で立ちである。
東側に立つ騎士は朱色のラメラー・アーマーを纏い、笹の葉を指し物のように背中に差し、右手には十文字の槍、そして左手には酒瓶を手にしていた。
西側に立つ騎士は黒のコート・オブ・プレートを纏っていたが右籠手だけは白いという出で立ちだった。
左手には反りが浅く長い湾剣を握り、右手は十字架を握り潰している。
そして東側に立つ騎士が自戒も兼ねたように厳しい表情を浮かべているのに対し、この騎士は冷笑にすら見える表情を浮かべていた。
ただ北側と南側の騎士はこの2人とは若干・・・・毛色が違っていた。
北側の騎士はブリガンディンを纏い、その上から毛皮を着て弓矢を番えていた。
騎士の装備は剣、槍、メイス、そして盾とされており弓矢またはクロスボウは「雑兵の武器」と蔑まされていた。
しかも3人に比べ顔立ちが幼く青年のように見えるのが特徴だった。
ただ、南側に立つ騎士も北側に立つ騎士と同じく騎士とは見られ難い出で立ちだった。
南側に立つ騎士は藍色に染めたラメラー・アーマーを纏い、右手には穂先が長大な大身槍を持ち、左手にはラウンド・シールドを改良したと思われる「手裏剣」を持っていた。
そして表情も何処か愛嬌を持たせつつ眼の底は「氷塊」の如く冷たかったのも印象深い。
そんな奇妙な・・・・それでいて一度でも見れば胸に刻まれる出で立ちをした騎士達に囲まれた騎士の左隣を見ると・・・・小柄な像が見えた。
5人揃って聖教に喧嘩を売っているように見える騎士だが・・・・ただ一人だけ・・・・中央に立つ騎士の左隣に・・・・付き添うように立つ小柄な女性の聖職者は違う。
静かに・・・・しかし優しく騎士を見ている。
まるで目の前の騎士はただの乱暴者ではないと言わんばかりに・・・・・・・・
そして・・・・その銅像がある教会を通った民草達は深く頭を下げる辺り信仰の対象なのだろう。
その騎士像の前を一人の老人が通り掛かった。
老人は旅姿をしており背中には柄頭が「蕨」のような形態をした柄頭が特徴の反りが浅い湾剣と、同じく柄頭が蕨の形態をした短剣を吊るしている。
騎士像の前に立った老人は深々と頭を下げた。
「“犬割り騎士”様・・・・・・・・」
老人は騎士像を「犬割り」と称したが、まさに騎士像の姿そのものだ。
「うわぁ・・・・犬割り騎士だ!!」
老人の背後から子供が2人ほど走り出て騎士像を指さした。
その子供達を追い掛けて両親と思われる大人が来て老人に頭を下げた。
「すいません、子供達が・・・・・・・・」
「いいえ・・・・ヴァエリエから来たのですか?」
老人は謝る男に首を横に振りながら問い掛けた。
「はい。実は3人目を妻が宿したのですが・・・・余り体調が優れないのです」
それで妻が元気に子供を生めるようにと願掛けに来たと男は言い、それに対して老人は安心させるように微笑んだ。
「それなら御安心ください。この犬割り騎士様の加護があれば如何なる邪悪な存在も忽ち消え去りますよ」
今まで難病や悪霊に取り憑かれた者が多く訪れたと老人は語った。
「ですが皆、回復しました」
「それなら良いのですが・・・・・・・・」
男は老人の言葉に相槌を打ったが不安そうな表情で犬割り騎士を見上げる。
対して子供達は違う。
「ねぇ、御爺ちゃん。どうして、ここの騎士は犬割り騎士と呼ばれているの?」
「どうして恐い表情を浮かべているの?」
子供達は老人に犬割り騎士の由来を尋ね、それに老人は笑った。
「それは昔の話が由来しているんだよ・・・・・・・・」
老人は犬割り騎士を再び見上げた。
「だが、その前に質問だ。坊や達はこの像をどう見えるかな?」
老人に問われた子供達は改めて犬割り騎士を見上げた。
犬割り騎士は憮然と子供達を見下ろすように立っているが子供達は笑みを浮かべた。
『恐い表情を浮かべているけど目の奥が優しい!!』
この言葉に老人は温和な笑みを浮かべて頷いた。
「あぁ・・・・正解だ。この犬割り騎士様は確かに見た目が恐ろしいけど実際はとても慈悲深い方だったんだよ」
老人は子供達に何ゆえに憤怒の表情なのか教えた。
「犬割り騎士様が忿怒の表情を浮かべているのは敵対者等を脅す為・・・・ひいては邪な考えを抱く者を正道へ導く為なんだ。ただ、それでも従わない者には力尽くでも正すんだよ」
左手を見なさいと老人は子供達に言いながら犬割り騎士の左手を指さした。
「あの縄は“ラクエウス(罠)”と言って邪悪な者や煩悩を抱える者を縛り上げるんだ」
普通なら天使などが優しく教え諭すと老人は言った。
「だけど犬割り騎士はそんな真似はせず“実力行使”で救うのさ」
ただ、それでも従わない者が居れば・・・・・・・・
「右手に持った“エルガー(怒り)”という名の手斧で煩悩を断ち切り、背中に纏った炎で焼き尽して救うんだよ」
これを聞いて子供達は怯えるどころか「直情的な騎士」と称した。
「ははははははっ。いやはや実に正直だ・・・・昔の私みたいだよ」
老人は正直な子供達に笑ったが最後の方は幼少期を思い出したのか、小さな声で呟いた。
「ねぇ、お爺ちゃん。昔話ってなぁに?」
「さっき昔話に由来しているって言ったよね?どんな御話?」
『聞かせて!!』
「あぁ、聞かせて上げよう」
老人は犬割り騎士の直ぐ近くに設けてあったベンチに親子を誘い、親子を座らせると改めて犬割り騎士を見上げた。
『・・・・この悩みを抱える親子を・・・・どうか、御助け下さい』
老人は犬割り騎士に心中で言葉を掛けてから早く話してと急かす子供達に微苦笑しながら静かに口を開いた。
「犬割り騎士様の御話は今から70年以上も前の話だよ・・・・・・・・」