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幸せの花

作者: 燃えるキリン

ある噂がたった。

『幸せの花』たる物があるという噂だ。

無論、誰もがその花を求めた。

その花は蓬莱山に咲く金の花より美しく、その香は御釈迦様の産まれた時に降った甘露より甘いといわれた。


まず初めに、ある大国の大統領がその花を探させた。

彼は全ての権力を掌握していたが、「幸せ」ではなかった。

彼は自国の軍隊を総動員した。

世界中の僻地奥地を探させた。

軍の入国を拒む国はその軍隊で脅し、無理矢理自軍を入国させた。


だが、結局見つからなかった。

世界中のどこにもなかった。

兵士たちは疲れはて、不平を漏らし、世界中の識者はその大統領を非難した。

大統領は邸宅の外のデモ隊の群衆を衛兵たちに命じ一掃した上で、軍の撤退の命令書にサインをした。

シワだらけの顔を真っ赤にして。

書類を受け取った秘書が大統領室をそっと出た後、独り取り残された大統領はおもむろに革張りの椅子に腰掛け、口を歪めていた。


次にある富豪がその花を求めた。

彼は全ての富を手に入れていたが、「幸せ」ではなかった。

彼は燦然たるジュラルミンケースを高らかに積み上げ、その花を手に入れた者がいたなら、これと交換しようと言った。

世界中の人々が血眼になってその花を探した。

富豪はその小さな眼球を肥満した顔の中でグリグリさせて、人々の探している様子を観察していた。


だが、結局見つからなかった。

世界中のどこにもなかった。

人々は諦め、必死に探す者は誰もいなくなった。

富豪はそれを知ると不満そうに、そして少し恥ずかしそうにジュラルミンケースの山を片付けさせた。

富豪はテレビのワイドショーで自分が愚弄されているのを見て、わざと大きな音を立てて舌打ちをした。


次にある物理学者がその花を求めた。

彼は全てを知り、全てを定義していたし、森羅万象を解明したと考えていた。

しかし、「幸せ」だけはそれが出来ていなかった。

そして、幸せも科学的に解明できると考えていた。

彼は植物学者や生態学者、果てには気象学者や天文学者とともにその花を探した。何百枚もの紙を数式で黒く埋め、スーパーコンピュータに計算させた。


だが、結局何も分からなかった。

数式は虚しく「解無し」を表し、スーパーコンピュータはひたすらエラーを表示した。

科学者たちは小さく首を傾げて、顔を見合わせた。

それから皆、寂しく笑って各々の研究室へ帰った。

その後、科学雑誌に1ページだけ「幸せの花」は存在しないだろう、といった内容の論文が掲載された。


そして、誰も探すのを止めた。

誰もがそれを無意味だと思った。

そして、誰もかも「幸せの花」のことを忘れた。


「幸せの花」は「手に入れると幸せになれる花」ではない。


「幸せなら手に入る花」だ。


つまり、その花を探した者に幸せ者はおらず、幸せ者は初めからその花を探そうとしてなかったというだけの話だ。

(完)


読んでくださりありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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