表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第149話「隣の温泉」

「村長さん、村長さん!」

「何、ポンちゃん?」

「村はこれでいいんでしょうか?」

「は?」

 そうなんです、「ポンと村おこし」だけに、村おこしするんですよっ!


 今は老人ホームなんですよ。

 配達ついでにお昼のレクリエーションのお手伝いをしてるの。

 今、おじいちゃん・おばあちゃん達はおたまを使ってゲームの最中です。

 レッドもまざって、おたまリレーで盛り上がってるの。

 ふふ、おたまに乗せたピンポンを、どんどんリレーしていくんです。

 でもでもなかなかうまくいきませんよ。

 ピンポンが落ちるたびに、笑いが広がるんです。

 わたしがなにをしているかと言うとですね……はじめさんを担当してるの。

 はじめさんは目が見えないから、一緒になってやってあげるんですよ。

「タヌキ娘、声が近付いてきておる!」

「ですね……でもでも、さっきから思うんですよ」

「何じゃ!」

「はじめさん、見えてませんか?」

「ああん?」

 さっきから思ってたんですよ。

 はじめさん、目が見えないわりに、ピンポン落ちるとみんなと一緒になって笑うんです。

 それに、ピンポン近付いてくるの、わかってるし。

「それは音でわかるのじゃ!」

「?」

「ピンポンの音でわかるのじゃ」

「すごいですね、わたしでもわからないのに!」

「ふん、儂は見えないから、音には敏感なのじゃ!」

「そうなんだ、わたし、タヌキなのに、はじめさんに負けてます」

「ほら、ピンポン来たぞ、頼むぞタヌキ娘!」

「はいはい、あと一人で順番ですよ~」

 わたし、はじめさんと一緒になっておたまを構えるの。

 お隣さんからピンポンをおたまでリレー。

 受け取ったら、あとは手を放してはじめさん任せですよ。

 はじめさん、うまいうまい!

 本当に目が見えてないのか、びっくりです。

 そーっとお隣さんに無事にリレー。

 みんなも見ていたのか、ピンポンが渡った瞬間に拍手喝采です。

 はじめさん、照れてます、頭なんか掻いて、かわいいもんですよ。

 レクリエーション終わりそうなので、わたしはお茶の準備で給湯室へ。

「ポンちゃんありがとうね~」

「あ、村長さん、こんなお手伝いなら軽いかるい!」

「はじめさん、目が見えないでしょう」

「ですね、でも、たまに、本当に見えてないのかな~って思う事あります」

「そうねぇ、私もそう思う事、あるわ」

 村長さんが湯のみを並べていくのに、わたしはどんどんお茶を注いでいくの。

 レクリエーションの後だから、冷たい麦茶ですよ。

 さっきまでワイワイ騒がしかったのが、みんな静かにお茶を待っています。

 村長さんや職員さんと一緒になって、わたし、お茶を配りまくりなの。

 おじいちゃん・おばあちゃん達、湯のみをゆっくり傾けながら、お茶をおいしそうに飲んでいますよ。

「あの、村長さん」

「何、ポンちゃん?」

「なんて言うんですかね、レクリエーション終わったら、なんだか急に静かになっちゃいますね」

「おたまリレーでも、おじいちゃん達には結構神経使ってるから、疲れてるのよ」

「むう、そんなもんですか」

 わたし、おじいちゃん達を見て、それから窓の外に目をやります。

 学校も授業中で、村は静かな時間が流れているの。

「あの、村長さん」

「何、ポンちゃん?」

「なんていうか、村は静かですね」

「田舎だしね」

 わたし、村長さんと一緒におじいちゃん・おばあちゃん達を見守りながら、

「村長さん、村長さん!」

「何、ポンちゃん?」

「村はこれでいいんでしょうか?」

「は?」

「村は、これで、いいのかなって……」

「な、なにをいきなり」

「だってですね、わたしがパン屋さんにお嫁さんに来た時はですね」

「お嫁……」

「い、いいじゃないですか! わたしと店長さんは結婚する運命なんです!」

「店長さんに言っておくわね」

「や、やめてくださいっ! ダンボールでおやすみになってしまうから!」

「ふふ……」

「ともかく! あの時は村がダムに沈む運命だったですよね」

「そうねぇ」

「でも、ダムはなくなっちゃいました」

「そうそう、ポンちゃん現場監督さんの所にキャンプしに行ったのよね」

「そうなんですよ」

 ダムの跡地でテント張って、お泊りしてきたんです。

 星空はきれい……かもしれないけど、わたしにとって星空は「ダンボールの刑」でおなじみなの。

「ダムもなくなって、村はなくならないでよくなったけど……」

「けど?」

「村は前と全然変わってないような気がするんですよ」

「そうかしら?」

 村長さん、ちょっと考えるふうに視線が泳いでから、

「神社のヌシとかいるから、観光客も来るようになったわよ」

「それはそうかもしれないけど……」

「ポンちゃんのお泊りしたダムの所も、観光バスが寄ってくれたりしてるのよ」

「あんなになんにも無い所にですか?」

「噴火の跡で見学に来てるのよ、見るだけだけど」

 村長さんニコニコしながら、

「ポンちゃんが村の事を心配してくれるのは嬉しいけど、多分結構村おこしなってるわよ」

「そうですか?」

「ぽんた王国だって……お豆腐屋さんの頃から人は結構来るし」

「はぁ」

「パン屋さんも、観光バスが寄るでしょ」

「まぁ」

「長老のおそば屋さんも、ラーメン屋さんも出来たし」

「えぇ」

「やっぱり、ぽんた王国のニンジャ屋敷がいい感じなのよ」

「でもですねぇ」

「何? ポンちゃん」

「もっと村おこしをした方がいいと思うんですよ」

 そうです、もっと村おこしした方がいいんです。

 わたしだってテレビくらい見るの。

「過疎」って言葉があるんです。

「村長さん、過疎、過疎化ですよ、ピンチです」

「過疎……」

「もっと村おこし、しないとダメな気がするんです」

 村長さん、また視線が泳いでから、

「充分やってると思うんだけど」

「そうですか? 村は静かなんですよ」

「田舎だから、そんなものよ」

「これじゃ、きっとダメです!」

「……」

「溶岩も見てきたんですよ」

「……」

「村長さんだって、なにかした方がいいと思っているんですよね?」

 わたしが言うのに、村長さんゆっくり頷きます。

「でもね、配達人さんに言われたのよ、余計な事はしない方がいいって」

「……」

「だから、何もしないでいいかな~って」

「村長さんもあの目のない男にそそのかされたんですか!」

「目のない男ってひどい言い方ね」

 って、何かが急にやってきました。

 わたしのしっぽを捕まえます。

 はじめさんですよ。

「これ、タヌキ娘、今、儂の悪口を言ったであろう!」

「なっ! はじめさんっ! なにっ!」

「目のない男と言ったではないかっ!」

「はじめさん本当に見えないんですかっ! 今ダッシュでしたよねっ!」

「タヌキ娘が悪口を言えば、儂はどこでも行くのじゃ!」

「違いますよ! はじめさんじゃなくて別の人なんですよっ!」

「目のない男と言ったではないかっ!」

「はじめさんは男かもしれないけど、おじいちゃんですよ」

「む!」

「はじめさんは『目の見えないおじいちゃん』です」

「むう」

 はじめさん、納得したのか席に戻っていきます。

 目が見えないとは思えない動きなの。

 って、村長さん笑ってます。

「ふふ……配達人さんを『目のない男』はひどくない?」

「だって目、ないもん」

「今頃くしゃみしまくってるわよ」

 わたし、目を細めて配達人の真似をするの。

「だって目なしじゃないですか」

「ぷぷ……似てるわよ」

「誰だって目をつむったら似てますよ」

「それもそうね」

 村長さん、また微笑むと、

「配達人さんは夜空が、星空が綺麗って言ったら……」

 村長さん、耐えられないといった感じで肩が揺れるの。

「ポンちゃんダンボールでお休みってどうなの」

「わ、わたしにとって夜空は嫌な思い出だけなんですっっ!」

「花火したんでしょう?」

「でも、わたしにとっては『ダンボールな夜』なんですー!」

 って、村長さん笑いすぎです。

 うずくまって床を叩きながら笑うのを堪えるのは、もう堪えてるじゃないですよ。


 お風呂タイムです。

「と、そんな事があったんですよ」

「ふふん、老人ホームでレクの時かの」

「そうなんですよ、そんな話になったんです」

「村おこし……別にいいのではないかのう」

「えー! いいんでしょうか!」

「いいのじゃ!」

「簡単に言っちゃうんですね」

「いいかの、『ポンと村おこし』と言うから村おこしにこだわっておるのかもしれんが……」

「……」

「イカもカエルも侵略などせんのじゃ!」

「!」

「だからポンも何もせんでよいのじゃ!」

「……」

 わたし、じつはさっきからレッドの体を洗っているんです。

 ゴシゴシしている手が止まっちゃうの。

「いやいや、ダメでしょ!」

 わたし、思い出して手を動かすんです。

「ポン姉~、いたいゆえ~」

「痛いくらいがいいんですよ、しっかり洗うんですよ」

「やさしくしてほしいゆえ~」

「男の子でしょ~」

「やさしくしてゆえ~」

「ともかく、なにかやった方がいいんですよ、きっと」

「ポン、どうしたのじゃ」

「テントでお泊りした時、まわりは真っ暗でした」

「田舎じゃしのう」

「今日、老人ホームで」

「レクリエーションだったのであろう」

「ですよ、で、終わったら、急に静かになったんですよ」

「田舎じゃしのう」

「よくよく考えたら学校でもどこでも、騒がしい時なんて『ちょっと』です」

 わたし、レッドを泡まみれにしてたら、

「うわーん」

「あ、レッド、どうしました」

「おめめ、いたいゆえ」

「あ、ごめん、泡入った?」

 わたし、レッドの顔についた泡を取って、顔を洗うように促すの。

 頭からザブンとしたら泣きますが、顔を洗うのはへっちゃらなんですね。

「まだいたいゆえ」

 目、真っ赤ですね、泡入っちゃったんでしょう。

「ちょっと我慢したら治りますよ」

「ポン姉のせいゆえ、やさしくしないゆえ」

「はいはい、あとはコンちゃんに優しくしてもらってください」

 わたし、レッドを湯船に入れるの。

 コンちゃんそんなレッドを抱きかかえながら、

「これ、レッド」

「なになにー!」

「レッドは何か、村をにぎやかにする方法、思いつかんかの?」

「レッドに聞くんですか~」

「バカ者、こういうのは、子供の方が思いもよらぬアイデアを出すものなのじゃ」

「なるほど!」

 わたしとコンちゃんかレッドに顔を寄せると……

 レッド、しばらく難しい顔をしていましたが……

「さぁ」

「とほほ」

「いまのままでいいゆえ」

「レッドは本当、お子さまですね」

「えへへ、おこさまゆえ~」

 レッド、体をゆすりながら、

「ここがすきゆえ」

「そうですか~」

「ポン姉すきゆえ」

「じゃ、結婚しますか」

「えー!」

 この仔キツネはわたしが好きとかいいながらなんですか、この態度!

 ま、いいですけどね。


「お風呂で盛り上がってたわね」

 ミコちゃん、風呂上りの牛乳を持ってきてくれるの。

 わたし、腰に手をそえて「グッ」とやるんです。

 コンちゃんとレッドも一緒ですよ。

「村長さんもレッドも、コンちゃんもなにもしなくていいなんて言うんですよ」

「わたしも……何もしなくていいんじゃないかと思うけど」

「えー!」

「花屋さんも来たし、ラーメン屋さんも出来たし、おそば屋さんもあるし、駄菓子屋さんもあるでしょ」

「神社やぽんた王国もありますよ」

「もう充分じゃないかしら」

「え~」

「キャンプにも行ったんでしょ」

「花火しましたよ」

 レッドがわたしの腕をゆすって、

「おんせんのかみさま~!」

「……」

 あのめんどうくさい神さまは、正直どうでもいいんですよ。

 って、ミコちゃんコクコク頷きながら、

「温泉もそんなにメジャーじゃないけど、最近神社の帰りに寄る人多いのよ」

「えー、そうなんですかー、面倒くさいだけですよー」

 レッド、まだわたしの腕をゆすってます。

 えい、頭を撫でなで……くしゃくしゃにしちゃえ。

「大体、あんなの出てきたら誰も来なくなるんじゃないです?」

「神さま、レッドちゃんが行った時にだけ出るみたいよ」

「ああ、子供スキーですからね」

 わたし、なんとなーくテレビを見ていたら、旅番組をやってるの。

 するとレッドも、コンちゃんも、ミコちゃんも視線移ります。

「ほらほら、よその温泉がすごいんですよ!」

「泡の出るお風呂は気持ちよさそうね」

「でしょ、ミコちゃんもそう思いますよね!」

「そうねぇ」

 わたし達、みんな揃ってテレビの前に集合です。

 コンちゃん、牛乳をチビチビやりながら、

「おお、この白いお湯はすごそうじゃの」

「コンちゃんもわかってきたようですね!」

「うむうむ」

 レッドが腕をゆすってくるの。

「どうしたんですか、レッド!」

「ねぇねぇ、あれは! あれは!」

 テレビはちょうど、打たせ湯をやってるところです。

 なんとサルがあびてるんですよ。

 露天で打たせ湯なの。

「おさるさんたのしげ」

「ですね、これは打たせ湯ですね」

「うーたーせーゆー」

「レッドも温泉、もっといろいろやってみたいでしょ!」

「これならへっちゃらかも!」

 レッドはシャワーで頭から「ザバー」ってやっちゃうと泣いちゃうけど、これならへっちゃらかもしれません。

 サルも大丈夫だから、レッドもきっと大丈夫ですよ。

「温泉を改造するのは、いいんじゃないでしょうか!」

 わたしが言うのに、コンちゃん、レッドは頷くの。

 ミコちゃんも頷きはしたものの……すぐに考える顔になって、

「温泉を改造ね……」

 ミコちゃんシリアス顔。

「どうしました、真剣な顔で」

「いや、あの温泉を改造ってね」

「泡のお風呂とか入りたくないですか?」

「それは、入りたいんだけどね」


 そんなわけで、村長さんに直談判です。

 って、レッドを連れて学校に来たついでなんですけどね。

「村長さん村長さんっ!」

「あら、ポンちゃん、おはよう」

「そんちょーさん、おはようゆえ!」

「はい、レッドもおはよう」

 挨拶も済んだところで本題に突入です。

「村長さん! 昨日テレビで見てたんですよ」

「?」

「旅番組で温泉特集をやってたんですよ」

 わたし、レッドをつつくの。

 最初はキョトンとしていましたが、

「おさるがおんせんしてたゆえ!」

 い、いや、そこじゃなくて~

 わたし、肘でレッドをつつくと、

「ポン姉、あれは、えっと、なにゆえ?」

「なにゆえじゃないでしょ! 打たせ湯ですよ!」

「おお、うたせゆ、たのしげ!」

 村長さん、なんだか急に険しい表情になるの。

 わたし、なにか悪い事言ったでしょうか?

「ポンちゃんは……温泉を改造したいわけね」

「はい! ダメですか?」

「でもって、温泉を売りにして村おこしって事よね?」

「ですね! ダメでしょうか?」

 わたし、レッドをつつきます。

「うたせゆとか!」

 村長さん腕組みして、

「温泉を売りにしたいのよね?」

「そうですよ、特徴のある温泉にしてお客さんを呼ぶんですよ!」

「特徴……」

「あんなお湯が溜まってるだけじゃダメなんです、広いのはいいけど」

 それ、レッドをつつきます。

「うたせゆ、たのしげ」

「……」

 村長さん、なんで難しい顔になっちゃうんでしょう?

「特徴のある、楽しい温泉じゃないとダメだと思うんです!」

 村長さん、深いため息一つついてから、

「神さまいる……『出る』温泉なんてないんだけど」

「は?」

「神さまの出る温泉なんて、よそにはないって言ってるの」

「え?」

「だから、温泉は今のままでいいのよ」

 そ、そうですか?

 あんなめんどうくさい神さま、出ないほうがいいのに!


「さっき電話があったのよ」

「はぁ」

「花屋の娘さんが泥棒を捕まえたって」

「それってひまわりですよね」

 レッドと花屋の娘さん、一緒に帰ってくる感じですね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ