第153話「夕飯のおはなし」
お家に帰る時に、おいしいにおいがしてくる事ってないですか?
夕日で真っ赤な空の下、どこからともなくごはんのにおい。
どこのお家も窓の中でごはんの時間なんですよ。
今日のパン屋さんのごはんはなんでしょう?
そんなお話ですよ。
「ポンちゃん、今日はありがとう」
村長さん、ニコニコ顔です。
「どういたしまして、今日は観光バス来ない日だったし」
さっきまで老人ホームでレクリエーションのお手伝いをしていたんです。
「しかし疲れたのう」
コンちゃん、ぼやきます。
でもでも、コンちゃんはたいした事してなかったような……気が……します。
「じゃあ、これ、いいわよ」
村長さんは言いながら、小さな容器を二つくれるの。
ムースです、ムース、学校給食に出るヤツです。
「わーい、ムースなのじゃ!」
「甘いのは嬉しいかも!」
わたしとコンちゃん、ムースをもらってパン屋さんに帰るとします。
でも……
そんな帰り道に会いたくない人と出会ってしまうの。
「ポン姉~」
レッド、ダッシュでやって来るの。
「ポンちゃん、どうしたの?」
レッドの後からやって来るのは千代ちゃんです。
二人はわたし達の持っているムースをガン見。
「ちょ、このムースはわたし達のお駄賃なんだから!」
「むーす! むーす!」
レッド、もう貰えるものと思って獣耳モードです。
うーん、取られちゃうのかな~
ずっとわたしの服をひっぱるの。
「しょうがない……しょうがない」
もう、涙がちょちょ切れちゃうんです。
レッドはムースを貰って大喜び。
千代ちゃんはそんなレッドの頭を撫でながら、
「私もレッドちゃんに捕まっちゃって……」
って、目を細めてコンちゃんの方をチラチラ。
コンちゃん、髪をうねらせながら、
「ムースはわらわのものなのじゃ! あげないのじゃ!」
「コンちゃん、大人気ないよ、ムースあげなよ」
「嫌なのじゃ、わらわムース好きなのじゃ」
「千代ちゃん、ある事ない事ミコちゃんに言うよ」
「うっ! ううっ!」
コンちゃん、大泣きで千代ちゃんにムースをあげるの。
そうですよ、ムースくらい我慢するんです。
お姉さんは我慢なんです、我慢。
「からすがなくゆえ、かえるゆえ」
レッド、わたしのしっぽを握って言います。
「そうですね、早く帰りましょ、ちょっと長くなっちゃいましたよ」
そうそう、老人ホームのレクリエーション、今日はちょっと長くなっちゃったんですよ。
いつもはおやつの時間を区切りに終わるんですけど、今日はおじいちゃん達のテンションもすごくて、休み時間もなく夕方までブッ通しでしたもん。
そうこう言っているうちに、学校の方から5時のオルゴールが流れてきました。
「そうじゃのう、今日は本当に長かったのう」
「職員さん達も大変そうでしたもんね」
レッドはしっぽに取り付いて、もらったムースにニコニコしてます。
わたし、隣を歩いている千代ちゃんに、
「千代ちゃんも、今日は遅くないですか?」
「うん、レッドちゃん、なんだかお絵かきにはまっちゃって」
「はぁ」
「一枚もらった」
千代ちゃん、鉛筆絵を見せてくれるの。
千代ちゃんを描いた絵ですけど、レッド、たいしたものです。
本当、写真みたいな出来ですよ。
「レッド、絵はすごいんですけどね」
「今日はなんだかたくさん描いてたよ、もう、固まって動かなかったもん」
「千代ちゃん、別に付き合わなくてもよくない?」
「うーん、みどりちゃん、早々帰っちゃったから、私しかいなかったし」
「では、ムースくらいあげないとですね」
「えへへ」
千代ちゃん笑うと、コンちゃんプウと頬を膨らませて、
「わらわのムース……クスン」
「クスンはウソ泣き」
千代ちゃん即答です。
でも、ムースを見ながら、それをコンちゃんに返してしまうの。
「え! いいのかの!」
「うん、今日の給食でジャンケンで勝ったから、2個食べたし」
「やったのじゃ!」
コンちゃん、ムースを手にピョンピョン跳ねてます。
レッドと一緒になって獣耳になって大喜びですよ。
千代ちゃんと一緒にお帰りなんですが……
「千代ちゃん、なんで一緒に帰るんですか? 方向違うけど……」
って、千代ちゃん手を上げると、レッドの手が握られてます。
レッド、なんで千代ちゃんは手で、わたしだとしっぽなんでしょ。
「どうしよっかな、今日はパン屋さんに泊ろうかな」
「千代ちゃんならいいかも、お家に連絡したらいいと思うよ」
「え! いいの?」
「ええ、別に問題ないですよ、千代ちゃんなら」
「千代ちゃんなら? どゆこと?」
「吉田先生とか、保健の先生とか、花屋の娘はミコちゃん怒るかも」
「え? なんで?」
「家庭訪問でごはんをたかりに来るからですよ、ビールとから揚げ」
「吉田先生、そんな事してるんだ」
「もう、レッドをだっこして入るなり『ビールとから揚げ』で、ミコちゃんこわい顔になるんですよ」
「そ、そりゃぁ……」
「あれ? ミコちゃんと店長さんは?」
パン屋さんでお迎えしてくれたのはシロちゃんでした。
「二人は老人ホームに出かけたであります」
「なんで?」
千代ちゃんは家に電話を。
レッドは手を洗いに。
コンちゃんはムースをみどりに見つかって……泣いています。
シロちゃんが、
「なんでも老人ホームで鍋をひっくりかえしたそうです」
「むう、夕飯が一品、無くなったとか?」
「多分そうでありますよ」
見れば配達人がいます。
わたし、シロちゃんに目で聞くと、
「配達人は明日の朝にパンを貰うのにお泊りであります」
「そうなんだ」
シロちゃん、頭をかきながら、
「ごはんがないであります、ミコちゃんの帰り待ちであります」
「むう、どうしよう」
ジャーの中にごはんはあります。
でも、おかずがないみたいですね。
「どうしよう、ミコちゃんいないと……」
「本官もそう思ったので聞いたであります」
「どうだった?」
「老人ホームでついでに作ってくると言ってたであります」
「じゃあ、ミコちゃん待ちだね」
「であります」
配達人は……ま、どうでもいいでしょう。
千代ちゃんは……ま、大人しく待ってくれそう。
みどりも……まぁ、黙って我慢してくれそう。
レッドとコンちゃんが……特にコンちゃんが「ブーたれ」そうですね、むう。
そんなわたしとシロちゃんの前に、レッド・みどり・千代ちゃんが戻ってきました。
「手を洗ったゆえ」
「千代がいるのはどうして?」
「家に電話したから、お泊りOKだよ」
3人が言うのに、わたしはシロちゃんを、シロちゃんはわたしを見ます。
『ポンちゃん、温泉に行って欲しいであります』
『シロちゃん、なんで?』
『食事がまだであります』
『うん、わかるけど……』
『ミコちゃんと店長さんが戻ってくるまで、時間稼ぎをするであります』
『なるほど!』
シロちゃん、チラッと千代ちゃんを見て、
『幸い、千代ちゃんがいるであります、特別な感じで温泉に行くであります』
『温泉の神さまもいるから時間稼げそうだしね』
シロちゃんの言う通り、温泉に行くとしましょう。
温泉の神さま、レッド達と遊んでくれています。
わたしとコンちゃんは湯船に浸かりながら、そんなのを眺めつつ、
「なるほど、ミコは老人ホームに行っておるのかの」
「鍋をひっくりかえしたヘルプみたいです」
「ともかくミコが帰ってくるまでは時間稼ぎだったのかの」
「そうなんですよ、家のお風呂だとレッドすぐに上がっちゃいますよね」
「子供はそんなものかのう」
「え、そうです? わたし、みどりと一緒に入ると、みどりは長い~」
「むう、確かにみどりは長湯かの、うむ」
わたし、脱衣所の柱に掛かった時計を見ます。
そろそろ1時間。
時間稼ぎには充分でしょう。
「レッドー帰るよー」
って、温泉の神さま、レッドを乗せてやってきます。
「もう帰るのかの? もうちょっと遊ぶのじゃ」
「これ以上遊んでいたらユデダコになっちゃうよ」
って、わたし、コンちゃんに合図。
同時にコンちゃんが元栓を「きゅっ」です。
「ふごっ! 何をするかっ!」
「また連れて来ますから」
「タヌキ娘、覚えておれっ!」
『いちいち覚えてませんよ』
小さくなった神さまなんてコワクないです。
レッドとみどり、千代ちゃんを脱衣所に出したところで元栓開放。
「タヌキ娘、覚えておれっ!」
「また連れてきますよ、いつまでも遊んでるわけにいかないでしょ」
「むー! 卑弥呼が来たら嫌かのう」
着替え終わったら、レッドとみどりは船を漕ぎ始めちゃいました。
「むう、レッドとみどりはおんぶですね」
わたしはみどり、コンちゃんはレッドをおんぶして帰り道。
「千代ちゃんが寝なくてよかったよ」
千代ちゃんは着替えのカバンを持ってくれてます。
「私はそんなに遊んでなかったから」
「千代ちゃんは神さまと遊ぶの、嫌なんですか?」
「うーん、ちょっとはいいけど、温泉ならゆっくりしたいかな~」
「そうなんですか」
「レッドちゃんやみどりちゃんと一緒だと、それだけでゆっくりはできないかな」
「そう言われると、そうですね」
って、コンちゃんが、
「しかしレッドをおんぶしては、疲れるのう」
「コンちゃん、レッドとみどり、交換しようか、みどりの方が重いと思うよ」
「レッドでよいのじゃ」
コンちゃん、わたしから顔を背けるの。
そんなわたし、コンちゃん、ついつい鼻がひくひくしちゃいます。
「ああ、なにかおいしいニオイがしますよ」
「うむ、そうなのじゃ」
わたし、コンちゃんに続いて千代ちゃんもクンクン。
「夕ゴハンのニオイだね」
3人とも黙り込むの。
まず、わたしが、
「お味噌汁」
コンちゃんが、
「煮物……」
千代ちゃんが、
「焼き魚……かな?」
連想ゲームっぽいかな? わたしが、
「この感じだと、お魚に大根おろしとか」
「おお、いいのう、大根おろし」
ちらっと千代ちゃんが見回しています。
むむ、ちょうど駄菓子屋さんの前なんですよ。
「駄菓子屋さんのおばあちゃんなら、たまごやきとかないかな?」
「ああ、ですね、太巻きとか作ると、中に入ってます、おいしい」
コンちゃん、真剣にクンクンして、
「むむ、たまごやき……いやいや、かつぶしとしょうゆの香りがするのじゃ」
千代ちゃん、目が「ピキーン」となって、
「なら、きっとぽんた王国のお豆腐だよ、冷奴」
「おお、冷奴!」
「わたし、すごいお腹すいてきました」
「私も」
「わらわも」
もう、村のおうちの夕ゴハンの香りでお腹の虫も鳴き出すの。
コンちゃん、マジな顔で、
「わらわ、今のニオイのせいで焼き魚とお酒がいいのじゃ」
千代ちゃんニコニコ顔で、
「おばあちゃんの煮物、いつも食べるけど……あれがないと、ちょっと物足りないかな」
「ああ、それってありますよね、なんとなくいつも夕飯にあがるの」
「ポンちゃんは何?」
千代ちゃんが聞いてくるのに、わたし、ちょっと考えちゃいます。
「むう、ゴハンはともかく……海苔かな?」
「!」
「最初の一口はしょうゆをひたした海苔でパクっと……」
そうです、なんででしょ、いつも最初の一口ってそんな感じです。
千代ちゃんもコンちゃんも、わたしを嫌そうな目で見て、
「な、なんて事を!」
「ポンめ、よくも言いおったな!」
「わ、わたし、なにか悪い事言った?」
千代ちゃん、わたしをひじでつつきながら、
「なんだかすごく食べたくなった」
「わらわもじゃ」
「そ、そう……」
「早く帰ってゴハンを食べるのじゃ!」
コンちゃんが力説するのに、千代ちゃんも真剣な顔で頷くの。
燃える二人を見ていたら、なんだかわたしも唾がどんどん出てきちゃう。
頭の中はほかほかゴハンに海苔のイメージばっかりです。
「わたしも……早くゴハン、食べたくなってきました」
「ふふ、ポンが言い出しおったのじゃ」
「それはそうなんですけど、お腹も空いたからかな」
千代ちゃんニコニコ顔で、
「きっとそれもあるよ、早く帰ろう」
「ですね、もう、ミコちゃんも帰ってきてるでしょう」
「そうなのじゃ! そうなのじゃ!」
さっきまでレッドが重いとか言ってたコンちゃん、もう駆け出しそうな空気です。
「ああ、わらわ、どんどんお腹が空いてきたのじゃ、ポンがいかんのじゃ!」
文句を言ってるわりに、コンちゃんは笑顔です。
ですね、ともかく家路を急ぎましょう。
夕飯、楽しみです。
ああ、他所に家のゴハンの匂い、空腹に効きます。
「うまうまです!」
レッド、スプーンが止まりません。
「本当、アンタもやるわね!」
みどり、文句を言いながらも、トンカツを口に運んでいるの。
「ポンちゃん達も食べるであります」
家に残っていたシロちゃん、事も無げにスプーンを動かしています。
「ほら、食べて食べて、俺が作ったのだけど」
配達人、ニコニコ顔でわたし・コンちゃん・千代ちゃんの前にカレーを出すの。
わたし・コンちゃん・千代ちゃんはプルプル震えが止まりません。
「ははは配達人さんっ! これはっ!」
「カレー、カツカレーとハンバーグカレー」
配達人、胸を張って、
「カレーは簡単だけど、ハンバーグとカツは大変だったんだよ、手間だけだけど」
千代ちゃん・コンちゃんが配達人を挟みます。
二人の視線にわたし、応えます。
「ははは配達人さん……これはなんなんですかっ!」
「だからカレーだってば」
配達人がニコニコ顔で言うのに、レッドが、
「ちょううまです、おいしいです、うまうまゆえ」
みどりもスプーンを止めて、
「アンタ、なかなかね、ミコ姉には負けるけど、おいしいわよっ!」
言い終えると、ハンバーグを頬張ってますよ、本当においしそう。
シロちゃんも首を傾げて、
「ポンちゃん達はどうしたでありますか?」
わたし、配達人をゆすって、
「わたし達は和食と思っていたんですよ!」
「そうなのじゃ!」
「海苔とゴハン~!」
コンちゃんと千代ちゃんが続いてくれます。
配達人、一瞬嫌そうな顔をして、
「じゃあ」
すぐにホカホカごはんと海苔、そうそう、小皿の醤油も出てきました。
「どうぞ」
「「「わーい!」」」
ゴハンと海苔、最高です!
すぐにお茶碗一杯完食するの。
レッド、みどり、シロちゃんは不思議そうな目で見てますよ。
だって、さっきまで想像してたんだもん。
ゴハンと海苔、どうしても食べたかったんです。
「じゃ、これで終わりでいい?」
わたし達、きっぱり言います。
「カレーも食べるんですよ!」
「わらわはカツカレー」
「ハンバーグおいしそう」
「なんなんだか、もう」
配達人、わたし達の言葉にトホホ顔です。
でもでも、レッド達の食べてるのを見てたら、カレーも食べたくなっちゃいました。
配達人のカレー、ジャガイモやにんじん、すごく大きいの。
ふふ、おいしくいただきましたよ。
「ポンちゃん、配達ね~」
「はーい……って、むー!」
「どうしたの?」
「これ……」
配達するのはドラ焼きです。




