ニュートン先生と猫
それなりのお屋敷にお住いのニュートン先生。
庭師の熊さんには庭仕事の他にも色々頼んでらっしゃるご様子。
でもそれなりに気心は知れたお二人は談論風発。熊さんも実はそれなりにインテリのような。
そんなわけで、猫に関する二人のお話。
熊「先生、ニュートン先生。庭の手入れは終わりやした。」
先生「おぉ、庭師の熊さんかい。今日は早いね。」
熊「へぇ、おうちの方がしっかり水をやってくださっているから花柄摘んだくらいですから。」
先生「そうかい、いつもすまないね。まぁ、お茶でも出すからこっちへお上がりよ。」
熊「お茶ですかい? あっしはおちゃけの方がようござんすが……」
先生「なんだい、うちの奴がクッキー焼いたからどうかと思ったんだが。おい、熊さんがお帰りだ。」
熊「ちょっと、先生もお人が悪いや、あっしが甘いものにも目がないことご存じでしょうに。」
先生「ははは。まぁ、上がった上がった。おい、やっぱり熊さんにもお茶だ。」
熊「へぃ。ところで、上がるもへったくれも、同じ高さにおりますが。」
先生「国は違うがそういう言い回しがあるんだよ。家に入って来いってことだ。」
熊「分かりました。それじゃ、失礼しまして。」
先生「ほら、紅茶が入ったよ。」
熊「はー、相変わらず先生のところの紅茶はいい香りですねぇ。」
先生「おや、お前さんにも分かるかい? 印度に知り合いが行っててね、新茶を送ってくれるんだよ。」
熊「そいつは大したもんだ。あっしなんかがいただいちゃぁ勿体無いってもんですね。」
先生「まぁまぁ、いつも世話になっている礼だよ。時に熊さん、だからって訳じゃないが一つ頼みがあるんだがね。」
熊「頼み? なんですか? 先生の頼みってぇといいことないような気がするんですがね。」
先生「いやいや、そんな大した話じゃないよ。実はうちの猫が子供を産んでね。」
熊「へぇ、それはおめでとうございます。ですが、要りやせんよ。」
先生「え?」
熊「ですから、仔猫は要りませんと。どうせ先生のことだから、一匹引き取れってんでしょ?」
先生「馬鹿言っちゃぁいけないよ、誰がお前さんになんてやるもんかい。そうじゃぁないよ。」
熊「あーそうですかい、それならよかった。先走って済みません。で、なんですって?」
先生「いやね、お前さんも知っているとは思うんだがうちの玄関の扉には小っちゃな潜り戸がついてるだろ。」
熊「へぇ、そりゃあっしがこさえましたんでね。」
先生「仔猫が産まれたんだ、仔猫の数だけまた潜り戸を作っちゃくれないか。」
熊「なんで?」
先生「え?」
熊「いやさ、なんでこれ以上潜り戸がいるんです?」
先生「だって仔猫が入ってこれないじゃないか。」
熊「なんで?」
先生「え?」
熊「仔猫は親猫より小さいんだから今ある潜り戸でも充分通れますぜ。」
先生「そりゃぁ一人立ちした後ならいいが、未だ親猫と一緒じゃないか。」
熊「なんで?」
先生「え?」
熊「あれですか、先生は親猫と仔猫が「せぇの!」で一緒に潜り戸を潜るとでも?」
先生「違うのかい?」
熊「え?」
先生「え?」
熊「先生、仔猫は親猫が潜った潜り戸を後から続けて潜りますよ。」
先生「そうかい、そりゃ賢いもんだねぇ。」
熊「猫が賢いって言うより、先生がアレなんじゃないんですかい?」
先生「おや、熊さん紅茶はもう要らないんだね?」
熊「いや、先生、素晴らしい。天才数学者、自然科学の父。」
先生「おいおい、なんだかお茶を濁された気がするねぇ。紅茶だけに。」
えー、皆様方毎度お世話になっております、性悪狐の清水悠と申します。
今回は比較的最近の物を再掲載してみました。初出は2014年の6月5日です。
落語の脚本風と言うことで、語られていない登場人物の紹介を前書きに入れてみましたが如何でしょうか。
と言うわけで今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
もしよろしければ評価や感想などいただけたら幸いです。