ホウカゴキミ二コクハクスルヨ
「何時まで待たせるつもり?」
屋上に横たわって読書をしていた僕の顔を、同級生の篠塚が覗き込んでいた。
可愛らしい口元を、不機嫌そうににすぼませている。
「あまり、女の子を待たせるものじゃないわよ」
「男とか女とか、関係あるのかな?」
「茶化さないの。とにかく、私、もう待てない」
「……僕も、いつまでもこのままにしておこうとは思わないよ」
「覚悟は決まったの?」
「君には根負けしたよ。僕の口から君にちゃんと告白する」
「嬉しい。私の想い、届いたのね」
「まあ、あれだけあからさまに念を送られたらね」
苦笑しながら文庫本を閉じる。
「放課後に君の家に行く。学校だと人目もあるからね」
「分かったわ。じゃあ、家で待ってる」
「決まりだね」
男に二言は無い。
放課後は、真っ直ぐ篠塚の家に向かうことにしよう。
「さよならだ。篠塚」
僕が遠方から見つめる篠塚家は、猛り狂う炎に包まれている。
特殊な燃料を使って着火したことで、篠塚家は瞬く間に延焼した。
あまりにも突然の出来事に、篠塚は逃げる間もなく、煙と炎に巻かれたはずだ。
篠塚が探偵の真似事をしていることは知っていたけど、まさか僕が巷を騒がせる連続放火犯であることに感づくとは思っていなかった。
証拠を掴んだといいながらも、篠塚は僕自身の口から真実を語らせることに拘り、数日前から、罪を告白するようにと僕に訴えてくるようになった。
同級生のよしみか、あるいは性善説を信じていたのか。
彼女はあくまでも、僕自身に決着をつけさせようと考えていたようだ。
正義感に溢れ、誰よりも優しくて、そして愚かな女。
証拠とやらがあるなら、問答無用で警察に突き出せば良かったものを。
僕という人間に良心など期待するから、愚かにも命を落としてしまった。
「篠塚。君の推理通り、連続放火事件の犯人はこの僕だ。理由なんて何もない。僕にとってそれは、ゲームとイコールだから」
約束は果たした。これで君も満足だろう。
放課後(放火後)に(罪を)告白する。
我ながら悪趣味なとんちだ。
さようなら篠塚。
君のことは嫌いじゃなかったよ。
好きでもなかったけどね。
了