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わたしが困る理由。

 え?そうだったの?






 その確信に光る瞳に、ついそう聞いてしまいそうになる。成る程、成る程。わたしがこのように痩せてそこそこ美しくなったのはフィアンセ殿のためだと。ふむ。すごいな、その恋愛脳。だが!そもそもわたしはフィアンセ殿に『痩せて欲しい』など一言も言われていない。突き詰めれば、痩せてキレイになったらフィアンセ殿はわたしに振り向いてくれるわ!……なんてことも思ったことは一度もない。

 なにもしないデブでブスなわたしでもフィアンセ殿がわたしと結婚するのは決まっていたのだから。

 つまり、麗美子嬢が言いたいのは、『わたしに惹かれているのに気付いて、取り戻そうと努力したのだわ!』ということに他ならないだろう。

 あのな、半年前盗み聞きしたから君らの関係性に気付いたわけで、君らの恋愛事情をわたしが知っているという前提は決して公になっていないのだぞ。まあ、勿論、フィアンセ殿があちらこちらで工作しているようだから公になっていないとはいえ、わたしの耳に届いているとしてもおかしくないがな!


「……失礼ですけど、わたし、今誠二郎さんと二人で話していますの。見てお分りにならない?割り込むなんて無礼とは思わないの?」


 姉達を真似て出来る限り優雅に、高飛車に、それでいて、貴女の行動が本当に心から理解出来ないの、といわんばかりに困った様に微笑む。

 鏡はないが、きっと上手くできた筈だ。


「……それは、申し訳ありません。私がこの場に割って入ることが無礼だとは承知です。だけど、私はすれ違うお二人の関係を壊したくなくて!」


 麗美子嬢は私の渾身の笑みにも臆することもなく、力強く言った。

 駄目だ。意味が分からない。麗美子嬢、予想遥かに斜め上に分からない人だ。

 いつ、わたしと、フィアンセ殿の関係とやらがすれ違ったのか。

 それを遡れば、初めて出会った時からでないの?と真面目に答えたくなる。わたしたちは、まともに過ごした日々などないのだ。



「麗美子ちゃん、ちょっと落ち着こうか」


 やれやれと困ったように息を吐いたのはフィアンセ殿だ。穏やかな表情を浮かべているが目が全然笑ってない。え?フィアンセ殿キレてるの?


「あのさ、麗美子ちゃん。僕ね、婚約破棄の話まだ紅子さんとしてないんだよ?言った意味分かるよね?しかも今君が出てきたら、家同士の関係もあるからすごく面倒くさいことになるんだよね。あと色々理解不能なこと言ってたけど、それはもういいや。あとさ、麗美子ちゃん、僕今日、君連れて来てないよね?ここに来て君がいることに、俺本当驚いたんだけど」


 そこまで言うとフィアンセ殿は、言葉をきった。にっこり、と有無を言わせない笑顔を見せる。フィアンセ殿、いつもと雰囲気が違うな。『俺』とか言うのか。

 麗美子嬢はここにきて少しヒクリと、顔を引きつらせた。



「で、誰に連れて来て貰ったのかな?」



 フィアンセ殿は、言い逃れは許さないとばかりに麗美子嬢を鋭く見つめた。


 わたしは、この状況を眺めながら、ハテ?と首を傾げる。あのさ、フィアンセ殿と麗美子嬢って相思相愛じゃないの?なんか麗美子嬢の登場も芝居がかって胡散臭いし、フィアンセ殿もどこにいったのヘタレ感。戻ってこいよヘタレ感。大体このやり取りに愛が一切感じられないのだけど。いや、わたしがその愛、とやらに鈍感なだけなのか。

 そして、重要なことだが、麗美子嬢はフィアンセ殿が連れて来てないのならどうやってここに?要人も多いこのような場では、勿論セキュリティは万全だし、正式な招待客とそれに付随する者は一人だけで、はっきりした身分提出がないと潜り込めない。勿論、偽造なんてこともあるだろうけど、それなら正式な招待客がそもそも呼ぶべき相手でなかったということだ。それをはっきりさせる為に裏ではその道のスペシャリスト達がフル稼働している。





 わたしも自然、視線を強めれば、麗美子嬢が答えるより先に、カタンとバルコニーの扉が開く音がして、次の人物の登場だ。

 ああ、このタイミングで出てくるとはそういうことなのか。





「マクシム、どうしたの?」





 わたしは、片方の眉だけ上げて美貌のオカマを睨んだ。





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