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わたしがパーティで美貌のオカマと一緒にいる理由。

 

***


 わたしの地獄の日々は来るべくして幕開けた。




 まず、専属のトレーナーだが、厄介なことにマクシムがついた。マクシムはトータルビューティーアドバイザーなる理解し難い肩書きも持っている。

 楽しみだった食事も制限され、運動という労働を強いられ、大学に至ってはダイエットに専念する為半年間休学だ。


 マクシムの本気は見たが、わたしのやる気は全く沸かない。

 それでも、後がない!と背中を蹴られれば嫌でもやるしかないのだ。




 ーーーーそうしてわたしは半年後、見事に痩せてみせた。



 なぜ半年後の今日かといえば、鷹宮が新たに参入する植物工場プロジェクトの決起会が開催される予定であり、それと共に婚約お披露目パーティーの筈だったからだ。それに半年あれば、フィアンセ殿の婚約破棄へ向けての奔走にもあらかた片が付き、招待客への根回しも十分だからである。

 お披露目パーティーに婚約破棄を言い渡されるなんて、何も知らなければただの拷問だ。


 そして、わたしの婚約破棄と同時にマクシムとの婚約発表をする。

 マクシムのお母様にも辛うじて認めて頂いた。上から下までひとつひとつのパーツに点をつけていたんじゃないかと思うくらい長い時間見つめられたのは堪えた。もう二度と嫌だ。




「紅子。とても綺麗よ」


 大変満足そうに美貌のお方が口元を上げる。一体いつの間に部屋に入ってきたんだろうか。ここは鷹宮家が所有する館のひとつでイベントやこういった式典に使われる程には立派である。わたしはその一室で身支度を整えながら半年間を振り返っていたところだ。

 マクシムは優雅に近付くとわたしの髪の毛を一房掬って、くちづけた。

 キザな男だ。いや、キザなオカマだ。そんな仕草さえ似合う容姿なのが悔しい。


 マクシムは今夜も完璧だ。上等な細身のスーツを着こなしている。胸まであるブロンドの髪はリボンでひとつに結んで、緩やかなウエーブが華やかに見える。秀でた額が真ん中の辺りで分けられた前髪から覗いていて、いつみても白い肌はきめ細かい。

 どこの貴公子だ。

 オカマ口調でも男色家でも、マクシムの周りには黄色やピンクの声が耐えない。

 マクシムを眺めていたら、マクシムと目が合った。ブルーグレーのなんとも変わった色に魅せられていると、マクシムがコホン、と咳払いをする。


「……行くわよ」




 わたしはフィアンセ殿でなくマクシムにエスコートされてパーティーが行われる大広間に向かった。

 フィアンセ殿とはアレから会っていないし、今日の婚約破棄の件もお互い了解済みである。未だに受け入れられない葛藤はあるが、わたしがもがいた所で覆す力はわたしにはない。親にはあるかもしれないが、縋り付いて、泣いて媚びるような自分は見たくなかった。

 これ以上、惨めでいたくないのだ。

 それをさせないでくれるマクシムの提案をわたしが断る理由は初めから無かった。

 あとは彼に長年フィアンセでいてくれたことに礼をしなければならない。あ、謝罪もいるのだろうか。あとでマクシムに聞いておこう。


 マクシムがわたしの腰に手を回す。グイと引き寄せられて、なにすんだこのやろうと睨めばマクシムは愉快そうにクツクツと笑った。


「まぁ!マクシム様!いらしていたんですね!マクシム様に会えるなんて感激ですわ!」


 初っ端からレディを何人か引き寄せるマクシムはさすがである。


「ところで、……そちらの、お方は?」


 誰かが控えめにわたしを見てからまたマクシムに視線を戻す。


「Ты у меня одиa」《トゥイ ウ メニャー アドナー》


 マクシムはどびきり甘い声と視線で囁いた。

 目の前の女性は恍惚とした表情を浮かべホゥとため息を吐く。確実にマクシムの色気に充てられている為、意味が分かっているのかいないのかは分からない。

 ロシア語で「僕のたった一人の女性だよ」だと。ゲイのマクシムにとったら、隣に立たせるたった一人の女性だよ、と言った方が良いんじゃないかと胡散臭い目でマクシムを睨んだ。

 マクシムはフフン、と優雅に笑うと女軍団の輪をさっさと抜けた。


 マクシムは女性に対して基本的に冷たい。どちらかといえば女系家族であり、美意識の強い周囲に囲まれ、自身が揉まれまくったことに影響しているのだろう。

 わたしがマクシムと初めて出会ったとき、マクシムの第一声は《君、ほんとに人間?》だ。マクシムの頭を殴らなかった自分を褒めたい。大概、失礼な事は言われ慣れているにしても、あんな純粋な目でそんなことを言われたのは初めてだった。嫌味でも、傷つける為の攻撃でもなく、本心だったのだ。

 確かに容姿が変わり始めた時だったけれど、そんなに酷かったのだろうか。……うん、酷かった。

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