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わたしの理由。


※※※




 パーティーの時、周囲の視線を一身に浴びながら発表したのは、


「わたくしが卒業したら皆様周知の通り、婚約者の月本誠一郎様と結婚をしたいと思っております」


 根性いれて腹から声をだした。我ながらよく通った声だと思う。というか、艶やかさとかは無縁でただの野太い声だったからか、それともその内容からか隣のフィアンセ殿が一瞬で体を固くした。

 ざわり、と波立った会場。その後、小さくパチパチと手を叩く音が聞こえてそれが広がるように、大きな拍手となった。不審がる人もいれば、当たり前のように受け入れて拍手する人。首を傾げる人に面白がる人。癖者が揃えばその表情も千差万別だ。


 フィアンセ殿…誠一郎さんを見上げる。

 その表情は隠しようもなく困惑していて、それがやはりぞくりと背中を撫でる。


「離しませんわ。あなたを、」


 その瞳を噛むように見つめて、彼だけに聞こえるように囁いて、私は、笑った。


 誠一郎さんは、ビク、と体を揺らせて、それからはぁと息をはいた。


「逃げますよ、全力で」


 困ったように眉を下げて、僅かに目尻が赤い。苦笑したその表情は今までのどの顔よりも私の胸を高鳴らせた。




⬛︎⬛︎⬛︎




 婚約破棄、とやらをしてもよかったのだ実際。多分誠一郎さんが動いていたからスムーズに破棄となっただろう。

 私がそれでもなお、彼を欲しいのであればただ再び手に入れる為に、努力したら良いだけ。

 だけど、ダメだ。私は一番目の姉のように潔くないし、これと決めたものを優劣つけずに愛でる趣味はないし、二番目の姉のように、再び自分のもとへ帰るよう調教する術も持っていない。突き詰めれば、母のように、その豪腕でなんだかんだ父の信用を勝ち取るスタイルでもないのだ。


 つまり、はっきりいえば自信がない。


 なら、この状況に甘んじたい。誠一郎さんがフィアンセであるなら、わたしは離さないようにしたらいいだけ。逃がさないように、ただそれだけでいいのだ。


 パーティの後、マクシムが不快そうに私の手首を掴んだ。


「君ね、バカでしょ」


 なぜか怒っているように見えるけど、なぜ私がおまえに怒られなければならない。プンッと顔を背けてから、またマクシムを睨んだ。


「勿論、今までみたいに受け身でいるつもりはない。マクシム、貴方も悪いようにはしない」


 どいつもこいつも勝手だ。フィアンセ殿のように可愛かったら皆幸せなのに。

マクシムもアホだ。技術が流出したならそれを応用したさらに高い製品を生み出せばよいだけ。こいつなんで私に相談しなかったのか。マクシムの会社、私の得意分野だ。あと、麗美子?だっけ。遠藤だっけ?潰したいなら、簡単なのに。私の婚約者になりたかったのか今となってはわからない。マクシムはいつもただ美しいだけだから。


「……いやね、そんな顔見せられたら、さ」


 マクシムはフゥと扇状的に息を吐いて、私の髪を撫でた。

 そんな顔?と首を傾げれば、マクシムは怒ったように眉を寄せる。ずっと怒ってるな、マクシム。


「本気になった、貴女は誰よりも美しい」



 マクシムが触る私の髪に痛みが走る。マクシムが私の髪を引っ張ったから。

 マクシムはそのまま私の頬に口付けた。











fin














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