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わたしが状況についていけない理由

 

 まさか、この茶番劇に裏があったのだと思いたくないんだけど。

 しかも踊らさせている当事者で、糸を引いていたのがこの性格の悪いオカマだと思うと軽く頭痛がする。だから美形は嫌いなんだよ!

 大体、なんのつもりだマクシム。



「あらあら、怖い顔して。やーね」



 マクシムは通常運転である。夜風に長い髪がさらりと靡いて相変わらず気持ち悪いくらい美しい。



「遅いわね、って思って迎えに来たんだけど駄目かしら?」


 なんの裏も感じさせないマクシムにこめかみがピクリと動いた。人気者のマクシムはわたしを迎えに来る程、暇ではないし、わたしに対して興味もない。


「あのさぁ、マクシム。このお嬢さん連れて来たの誰?」


 折角姉達の口調を真似ていたのにあっさり崩れてしまった。マクシムになにか意図があるならもう探り合いとか面倒なのだ。回りくどいことをする必要が全くないだろ、とマクシムの肩を揺さぶって首をガクガクさせたくなる。


「やだ、紅子知らなかったの?貴女、頭だけは良いのに。ああ、頭が良いのと機転が利くのとは別かしら」


 飄々としたマクシムの表情からはなにも読み取れない。何も映していないようなブルーグレイの瞳だけが妖しく煌めいている。


「九条さん。そういえば以前貴方と麗美子ちゃんが一緒にいた所を見かけましたよ。もしかしたら、親しい仲だったのかな、と。紅子さんに相談しようにも半年間中々会うことができなかったので」


 フィアンセ殿がちらりとわたしを見る。おおっと、フィアンセ殿がしつこく家に来ていたのは後釜婚約者が自分の想い人となにやらコソコソしていると忠告するためでもあったのか。それは失礼。


「さあ?覚えてないわね。私、女の顔はすぐに忘れるの」


 マクシムはにっこりと笑う。まるで嘘など感じさせない笑顔だ。真実、昔からマクシムは女の顔は覚えない。そして馬鹿な男ばかりにその稀有な瞳を向けるのだ。

 マクシムがわたしと婚約しようと言い出したのだってそれが原因みたいなものだ。それは後に知った話で、それでもわたしに不都合はなかったからどうでも良かったけれど。



「マクシム、わたしを苛々させたいだけならすでに成功してるから。これ、どういう筋書きだったわけ?今日まではともかく、今日が本番ならすごく粗が目立つんじゃない?こちらのお嬢さんとマクシムの関係は?」


 はぁ、と息を吐いてぐしゃりと頭を掻く。髪を飾り立てないで良かった。本当はわしゃわしゃと掻いてしまいたい。面倒事は大嫌いだ。


「筋書きねぇ?色々練ってたんだけと、台無しの予感よ」


 マクシムはあっさりそう言い放った。相変わらず表情は変わらないし、どんな考えがあったのかは知らないが大方マクシムも面倒になったんだろう。マクシムはいつもツメが甘い。飽きればそれでおしまいなのだ。いや、今回に関してはもしかしたら最初からやる気がなかったのかもしれない。


「だってその子、本当にお馬鹿さんだから」


 苦笑して、マクシムは視線を斜めに向けた。その先にいるのは麗美子嬢だ。


 わたしが麗美子嬢を振り返ると、そこで初めて麗美子嬢の表情の変化に気付く。

 なんていうか、そうだな、すごくすごく、



「あーあ、やっぱり私、こうゆうのあってないのかな〜」



 投げやりですね。


「……なんていうの、恋の障害?ほら。よくあるよね〜?ライバルみたいな女の人が出てきてそこで自分の気持ちに気付いて、みたいなの!私、それをしてみようと思ったんだけど難しいのね。他人をくっつけるなんてしたことないもの。良い引き時ができてよかった。ね?マクシム」


 庇護欲を掻き立てていた仮面を脱ぎ捨てた優越感さえ漂うような笑顔。今までと百八十度態度が違うのにまるで違和感がないほど彼女を彩るに自然だった。むしろ、私は今の彼女の方が好感が持てるほどだ。だがよくもまあこんなにも癖のある人間が揃ったものだと、半ば感心してしまう。


 麗美子嬢はマクシムに共犯のように甘い視線を投げかけたが、そもそもその発言は意味不明過ぎる。麗美子嬢が現れなければわたしとフィアンセ殿は普通に結婚する予定だったし。今更マクシムと共謀してわたしとフィアンセ殿をくっつけてどうしたいというのだ。もう御託はいいからはっきり言えよ。


 私は不機嫌さを隠さずに麗美子嬢へと鋭い視線を送る。麗美子嬢は目を泳がせて、その後何故か固まった。


「麗美子ちゃん、紅子さんはそんなに馬鹿じゃないし、君もあんまり調子に乗らない方が身のためだよ。九条さんの冷気が凄いから」


 答えたのはフィアンセ殿だ。冷気?なにそれ。と思えばマクシムが横からブリザードを吹かしていた。なんでだ。



「で、もう一度聞くけど、誰に連れて来てもらったのかな?」



 フィアンセ殿はやれやれといった感じで続けた。え、そこから?




「……遠藤さん、じゃないかな?」



 フィアンセ殿が冷たく言い放つ。マクシムは笑っているが何故か非常に怒っている。二人が容赦なく撃ちまくる氷魔法にこちらの身がもたない。麗美子嬢なんてもうカチコチじゃないか。

 いや、ちょっと待て。遠藤さん⁉︎

 ……だれそれ!



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