柩女
その女にはある性癖があった。
それは、暗く身動きのとれぬ場所に長いあいだとどまること。
特殊なことでもない。暗く狭いところが好きなものはたくさんいるだろう
そんな女の話だ。
女は性格が明るくなく社交的でもなかった。
友人も少ないが存在する……が、女が何を思いそれに執着しているかは誰ひとりとして理解しようとはしなかった。
その結果か女の逸脱していく行為に気づき、止める者は存在しなかった。
女は小さな工場のラインで働いていた
独り身で、飾り気もなく口数も少ない
お世辞にも顔のつくりがいいとは言えない。
職場は経営が苦しくなり、給料が少しずつ落ちた。
当然、ラインの職員の雰囲気もいいものではなく、辞める者も辞めさせられることも少なくはなかった。
さて、今までグダグダと語ったがこの話は女の柩に対する愛と執着を綴るだけの拙作なのだ
逸れていく話を戻そう。
とにかくだ。
特に趣味もない女は次第にその性癖を悪化、もとい進化させていく。
ある時、車で人の少ない薄暗い道を通っていた女は、葬式に使われる柩をみかけた。
女はぼんやりと思う。
私が人生で一番輝くのはあんな箱に入るときなのだろう。
私の嗜好を完璧に満たすのだろう、と。
”特別な箱”
人生でただ一度だけ使う物に女は憧れを持った。
家に帰ったあとも柩のことで頭がいっぱいだった。
仕事を休み、眠りも食べもせずに柩のことを思った。
しかし、周りにそれに気づく者は皆無。
そして女はたどり着いてしまう
性癖の境地へ
人生を棒に振るような愚かで最悪の行為に
女は柩を作った
作るときに女はよく構想を練った
自分が入るときどんな状況がいいのかを
結論は単純。
”一人は嫌だ”
女は自分に愛情を注いでくれた母を想った。
涙と笑顔を顔に貼り付け女は電話をする。
数日後、女達の死が全国に伝わった。
女は柩を作り終えたあと毒物で自殺。
問題は報道されるような凄惨な光景を作ってしまったことだ。
まあ、本人はとても安らかな表情を浮かべていたのだから、この物語は素晴らしくハッピーな結末を迎えたのだろう。
稚拙な文章にお付き合いいただきありがとうございました。