夢の続きは
旋律を待つ鍵盤とピアノの椅子。
ピアノの上には一輪挿しの花瓶と紅い薔薇。
わたしは深紅のドレスを纏い、狭い部屋へと。
扉を閉めたら、観客の無い密室に一礼を。
緩慢と低いヒールの音を響かせ、足を進めて。
椅子の軋む音を立て、深紅のドレスの裾を気遣いながら着座。
手にしてきた譜面を譜面台へと置いて、あの曲を。
鍵盤の上を這う指、ねえ、きっと鍵盤はこれを待っていたのでしょう?
わたしのたどたどしい指使いでも好くて?
ふと視線を上げ、譜面を追う。
必要ならペダルだって踏んで、柔い音に変えてあげるの。
踏まれなくちゃ、貴方は役割を果たせない。
自分の弾いた音の羅列が密室に木霊するわ。
だって、此処には観客が居ないのだもの。
わたしの曲は、唯一在る窓の向こうと空間に捧げたもの。
ゆったりとした曲を終えたら、それらしく椅子から立ち上がる。わざとらしく深紅の裾をつまみ上げ、張り付けた気の好い笑みにて後方へ一礼。
誰も居ないのは解っているからしているのだわ。
鍵盤にカバーを掛けて、ピアノを閉じる。
そして手にした譜面を一旦花瓶の傍へ。
隣にあった花瓶を見たら、衝動的な気持ちになったの。
夢の続きを魅せてあげる。
抜き取った深紅の薔薇を胸元へ差し、花瓶と譜面を床へ叩き付ける。
しゃがみ込めば、ドレスの裾が静脈血色に変わって、わたしは濡れて用を成さない譜面を嘲るように一瞥。
これでは不足?
そのようだから、割れた花瓶の破片で指先を切っておくわ。指先から落ちる血液が、花瓶の水に融けて汚い。
これでわたしはしばらくピアノが弾けないの、どう?夢の続きは貴方と同じかしら?
見足りないのなら、望む夢の続きを魅せてあげる。