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ばたばたと足音が聞こえる。
座り込んで頭を埋めていたら今は一番聞きたくない人の声が聞こえた。
「っは、涼華っ!何やってんだっ」
こんなところで座り込んで!
頭上からの声に顔が上げられなかった。
怖かった。
私は知っている。
武藤君にどれだけ釣り合わないか。
どれだけ自分に自信が無いか。
なんで、むとうくんはわたしにあんなことばをいったんだろう?
わからない。わからない。
ぎゅうっと頭を抱え込んで、音を遮断する。
目をぎゅっと瞑って何も視界に入れたくなかった。
がっしっと頭を掴まれて上を向かされる。
「涼華、俺を見ろ。…なんて顔してんだよ」
目を開ければ映るのは武藤君の顔。
ぐいぐいといつの間にか出てきていた涙を拭われる。
「何が怖い」
真っ赤な瞳が私を射抜くように見ている。
何が怖い?
何が?
怖いのは…
知らないこの気持ちだ。
「…俺のこと嫌いか?」
少し困った顔で言う武藤くんに慌てて首を横に振る。
「…きらい、とかじゃ、ないんだ。武藤君と一緒に居るのは、面白いし、たのしい、と思うんだ」
「そ、か」
ふと、笑う顔が綺麗だとおもう。
「む、武藤君には、もっと可愛くて綺麗で頭もよくて気のきく人とかが合ってるんだよ、だって、おかしいよ」
そうだよおかしい。
「なんで」
なんでっ。
「だって…」
「だってなに?」
「…理由が無い」
ほ、惚れたとか、好きだとか言われる理由がない。
「…理由ならいっぱいあるさ、ずっと、ずっと欲しかった」
抑えられていた顔から腕はぎゅっと体に回されて抱きつかれる状況になる。
「ちょ、武藤君!」
痛いほどに抱きしめられて、身動きが取れなくなる。
「あーもうさー俺のもんになれよ」
はい?
「どうせ、惚れてる奴もいねーんだろ、むしろ俺に惚れてんじゃねーの?
つーか!ほかに居ても絶対渡さねぇよ」
ジリジリと焼き付けるような熱。
顔に集まる熱は外の暑さのせいだと思いたい。




