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好き・苦手  作者: な吉
18:開いた距離
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なんでもないような日常が戻ってくる。




大怪我して退院して。

その後警察の人とかに何度も話を聞かれて学校側にも何度だって聞かれた。




でも、何を答えろと?




答えれることは…できることはもう何もなかった。


のんきに入院している間にもう、全て片付いていた。

葛葉の話では三潴という人は学校を自主退学したらしい。

名前を知らなかった彼女もまた学校を去っていったらしい。


一度だけ入院中に会いに来てくれた。

どこかスッキリしていた。



あんな騒ぎになってしまったけど、後悔はしていないと言っていた。

手に入らないものがあると分かった。

一人が孤独だということも理解した。


たくさんの人を傷つけ取り返しのつかないことをしてまうところだったと。



二度と会うことはないだろうと言っていたことも覚えている。


彼女がほんの少し寂しそうにしていたのを覚えている。

何も言うことはできなかった。

言えなかった。

私は分からないから。

今までにそういう経験がないから。



狂うように、何を捨ててでも誰かを好きになるということはなかったから。



高校2年になってやっと落ち着いてきたように思う。


めまぐるしく変わる日常。

過ぎ去っていった時間。



変わったものと変わらないもの。




夏に入りいまだに薺と葛葉と馬鹿なことばっかりやっている。



毎朝下駄箱を見てため息をつくのが減った。

毎朝必ず挨拶を交わすようになった大沢さん。




楽しいと思える日常。






だったはずなのに。




近づいていたと思った距離が離れているのだろう。

言葉を交わす回数が明らかに減った。

あの大怪我をしたときから。

目をあわす回数が減った。

声を聞く回数が減った。

メールをしなくなった。

席替えをしたから実際の距離も遠くなってしまった。




赤里君は相変わらず薺を怒らせては喧嘩をしている。



…武藤君は…




心ここにあらずという感じだ。






何でかなぁ…

苦手だと思っていたのに。

いざ離れていくと寂しい気がする。

楽しかったことがまるで夢だったかのように掠れていく。



距離が開いたのは私と武藤君だけ。





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